第六十七話 大切
女子の集団に保護者が拉致されたため、俺は何となく手持無沙汰になった。静かに一人疲れを癒すのもいいが、一つ気になっていたことがあったため、その確認をすることにした。
「タツミ、突き飛ばされたときの怪我の調子はどうだ?」
「あ、なおくん……」
何か考え事をしていたのか、女子の輪に加わらず一人で紅茶(残り物)を飲んでいたタツミに確認。あの嫌な事件の後、元気がなかったような気もするし、励ましてやった方がいいだろう。
「まあ、あれだ。あの最低な奴に怪我させられたのは屈辱だっただろうが、元気出せ。そんな嫌なことは忘れるのが吉だ」
忘れようにも忘れられんかもしれんが。痣でも残ったら目も当てられんし。
「……まさか、あのネガティブななおくんに励まされるとは思わなかったよ……」
失礼な。気持ちはわからんでもないが、嫌なことを何度も受けている俺としては当然の対処法なのだよ。
「……それに今悩んでるのは別のことで……」
「別のこと?」
「!い、いや、なおくんのことじゃないよ!?」
そんなこと言っとらんのだが。
「俺のことじゃないならちょうどいい。相談くらいにならのるぞ?」
「そんなことしなくても……でも……」
「俺じゃ役不足か」
「むしろなおくんじゃないと相談できないことなんだけど……なおくんだけには相談できないとも言えるし……」
どっちだ。
「……なおくん、あのお客さんに対して怒ってた?」
あんなのを今さら客呼ばわりする義理はないと思う。
「あんな嘗めた態度を取られてキレないほど、俺は人間ができてない」
「……その理由は?」
そんなもん。
「大切な仲間と、その努力の結晶を馬鹿にされたんだ。手を出さなかっただけ俺は大人だと思ってる」
「……た、大切……!?た、他意はないんだよね?」
他意も何も言葉通りの意味だ。
「……もしかしてなおくん、誰相手でも同じようなことしてるの?」
「立場はわきまえてるからな。相手が確実に悪いときだけだ」
若い頃(小中学生時代)は義人と馬鹿をしたこともあったが。
「そっか……何はさておき、私のために怒ってくれてありがとう」
「どういたしまして」
考えてやったことではないけどな。
「……後で古木さんに謝らないとな……」
「何か迷惑でもかけたのか?」
「うん、まあ……一つしかないものを取り合うことになったって言うか……」
?よくわからんな。