第六十二話 罪
「調子はどうですか?」
「……いいわけねーだろ、早く帰せよ」
まあ、暴力を振るったことで部屋に連れてこられたんだから当然か。しかしこの男、まだ反省してないのか。
「ずっとこんな調子なんだよー。まあ、もっとも三井が来るまで待ってたってのもあるけどー」
「?」
「さてとー、なら本題に入ろうかー」
「本題だと?」
なぜか焦り始める男。他に何かやましいことでもあるのだろうか。石井が何のことを言っているのかわからない。
「そのかばんの中身、見せてもらってもいいかなー?」
男の様子が目に見えて挙動不審になってきた。状況がつかめていない俺にとっては謎が多すぎる。
「帰らせてもらう!」
「往生際が悪いよー。気持ちはわかるけどねー、なにせ」
一呼吸おいて、石井が男にとっては決定的な、俺にとっては衝撃的な一言を放った。
「盗撮なんて発覚したらー、人生終わったようなものだもんねー」
「なん……だって……?」
正直耳を疑った。そんな馬鹿げたことをやる人間が、実際にいるとは思わなかったからだ。
「……冗談、だよな、石井」
「そう思うならー、その黙りこくってるお客様のかばんの中ー、確認しなよー」
「……よろしいですか?」
俯き、何も話さなくなった男からかばんを取ろうとした途端、男は立ち上がり勢いよく俺を突き飛ばした。
「つっ……!やばい!逃げられる!」
突然の出来事だったため、男を捕らえられる人がいない。石井は座っており、清水は怪我をしているので咄嗟には動けない。しかし石井の言うことが事実なら、男を逃がすわけには―――
ドン。
そう考えたところで、扉からの脱出を図った男は立っていた人によって阻まれた。
「どけよ!」
「……この状況で退くと思うのですか?そう思うのだとしたら脳外科に行くべきですね」
―――我らが担任、健三さんによって。
「邪魔なんだよ!」
「……うちのクラスの者に手をあげておいて、言いたいことはそれだけですか」
健三さんの様子がいつもとは違う。飄々として受け流す、つかみどころのない健三さんではない―単純に怒っているとしか思えない、無表情の健三さんだ。
「三井、そこに落ちているかばんを広げなさい」
見ると、ぶつかった衝撃からか男の手を離れたかばんが落ちていた。急いで拾い、中を見る。
「うわ、マジでか……」
そこには、隠して何かを撮ろうとする、悪意を持って動いているとしか思えないビデオカメラがあった。
「確定ですね」
その言葉に、男も俺も立ち竦むだけだった。




