第六十一話 救援
部屋を移る前に、言っておかないといけないことを忘れていた。男は石井と清水に任せ、一旦店内に戻る。
「タツミ、怪我は大丈夫だな?」
「……あ、うん」
「それなら後は任せた。こんな状況を纏めるのは大変だろうが、頼んだぞ」
騒ぎの余韻で、店内はざわついている。このままでは売り上げにも響くし、何より客として来ている人に失礼だ。
「……うん」
「どうした?ボケっとして……やっぱり具合が悪くなったんじゃないか?」
「いやいや!大丈夫大丈夫!」
困ったな。頼りのタツミがこの調子だと、人数も減るわけだしきついか……?
「お困りのようですね!」
「困ったな……夏目は意外と役立たずと判明したわけだし……」
「堂々と無視しないでください!聞こえているんでしょ!?」
「……再びの御来店、ありがとうございます」
「用件が違うこと、わかって言ってますよね!?」
「……一応聞いてやろう。何のためだ?」
「私がかわりにメイドをやってあげましょう!」
はいはい。
「ここ、執事喫茶だから。メイドはここの範囲外だから」
「なら代わりに執事をやって差し上げましょう!」
「……お前に出来るのか?」
「私にできないことがあるとでも?」
何その自信。
「……やったこともないのになぜそう言える」
「先輩ごときにできて、わたしにできないわけがありません」
……ああそうですか。
「要求は何だ」
「承諾する、ということですか」
「ああ」
他に手段もない。この時間も勿体ない。
「先輩に恩を売る……これだけでも大きなメリットです」
……しわ寄せは俺に来るわけか。
「……つくづくついてない……」
「何を言ってるんですか。こんな幸運ありませんよ」
うるさいわ。
「ただ、執事服をどうするかだな……予備なんてないぞ?」
こんな事態想定していないし。
「!いい考えがあります」
「期待はしてないが言ってみろ」
「せ、先輩の服を……」
「却下だ」
「まだ全部言ってませんよ!?」
「なぜ俺が貸さんといかんのだ」
「あ、おしいけど違います」
「は?」
「先輩の服をはぎ取って私が着るんです」
「俺が考えてたのよりたちが悪いわ!却下だ却下!」
「でも他に方法があるんですか?」
「……上だけな。汚すなよ?」
「いいんですか!?」
「早くしろ仕事はしっかりやれ応援が来たら帰ってもいい何やってんだお前!」
「すーはーすーはー」
「人の上着の臭いをかぐな!」
「……先輩の臭いがします……それを着るってことは……先輩に抱かれているも同然……」
「何言ってんだお前は!?」
アホなことやってないで、やるなら早くやってくれ!