第五話 親友
「でもよかった。なおくんが非倫理的な道に走ってなくて……」
「十年ぶりに会ったとはいえ、一瞬信じかけたお前の神経を疑う」
今俺たちは、プールまでタツミを案内している。もともと今日も部活はあるため、案内はついでなのだが。……すっかり行くのが送れてしまったので、小倉さんがどうしているかが心配なところだ。
「遠いね、プール」
「そうだねー。校舎から歩いて五分強でー、駐輪場からだと十分は余裕でかかる距離にあるからねー」
「そんなに広いんだ……」
「なにしろ公立普通高校では、日本で二番目の広さらしいからな」
「すごいねー。緑もきれいで……うん、いい学校かも。面白い人も多いみたいだし」
……面白い人?奇人変人の間違いだろ。
「ところで、水泳部の人たちのことを教えてくれない?」
「構わんぞ」
「じゃあまずそこの人!」
そこの人……義人か。
「こいつの名前は―」
「名前は杉田義人だよー。二次元オタクにして運動、勉強のレベルは上の下ー。彼女は生涯一度もできたことがないけどー、告白されたことが中学の時に二回ー。男女問わず話しかけて仲良くなるしー、面倒見もいいから結構もててたみたいだねー。ただし付き合ったりしたことはないみたいだねー。理由は二次元に彼女がいるからだってー。この辺は僕と同じだねー。それとー、小さい頃から家事全般を親に叩き込まれているからー、すぐにでも一人暮らしができるほどに能力値が高いよー。血液型はB型で星座は乙女座ー。三井の最も親しい友人だねー」
「詳しい!俺について詳しすぎるぞイッシー!プライバシーという概念が君には欠如しているのかな!?」
「……ははは、変わった人だね……」
どっちがだ。どっちもか。(自己完結)
「ちなみにこのプライバシーを無視している男が、石井。色々と人の噂や裏話をよく知っているから、味方にすれば心強いが敵にまわしたらこれほど厄介なやつもいない。基本的にはいいやつで、運動神経もいいし頭もいい」
「血液型はB型でー、星座は蟹座だよー。それともちろん三井の親友ー」
「その情報に需要はあるのか」
血液型と星座て。占星術にでも使うのか。
「でも、親友のところを否定はしないんだね、なおくん」
「……まあな」
間違いなくこの二人は親友だ。そこはどうしても否定できない。恥ずいけど。
「あとうちのクラスにはもう一人、浜ちゃんっていう速い奴もいる」
「今はもうプールに先に行っちゃったけどねー」
今頃は小倉さんの地獄の特訓を受けていることだろう。ご愁傷様。
「見えるか?あそこがプールだ」
「みんなは泳いでいくの?」
「そりゃ水泳部だし」
毎日毎日、四キロも五キロも泳ぎたいとは思わんが。
「見学していい?」
「そうでなければ何のためについてきたんだよ」
「うーんと、十年ぶりに再開した幼なじみと話そうと思ったから?」
「そうか」
「あれ?反応薄いね」
「十年も離れてたら、もう性格も変わって別人になってるだろ」
「そういうものかな?」
「そうだろ」
人は変わるものだ。俺もタツミも思い出の中のきれいなままではないだろう。……そもそも思い出の中でもきれいかどうか微妙だが。
「でも旦那は昔からこんなんだったような……」
「こんなんってどんなんだよ」
「突っ込み気質で、厄介事に巻き込まれやすい体質」
「…………」
ノーコメントにしておこう。……決して悲しくて言葉が出なくなったわけではない。きっと。たぶん。おそらく。