第五十四話 巡回
休憩時間だというのに後輩に拉致される俺。我ながらこれからの人生がとても心配である。
「……それで、俺は何をすればいいんだ?」
恐る恐る保護者に聞いてみる。先ほどの剣幕を目の当たりにしては、俺には抵抗ができない。年下相手にこの体たらく。重ね重ね思うが、これからの人生がとても心配である。
「そんなにおっかなびっくり聞かないで下さいよ。もう怒ってませんから」
「本当か?」
それにしては表情が強張っているように見えるが。
「……緊張しているんです。……これくらい察してください……」
「何か言ったか?」
「いえ、何も」
それならいいけど。
「それならもう一度聞こう。要求は何だ」
理由はともかく不快にさせてしまったんだ。何かしら埋め合わせはしてやろう。
「……そうですね……一緒に歩いてるだけでもいいんですけど……」
「もう少し大きな声で頼む。聞こえん」
「独り言です。気にしないでください。デリカシーがないですよ」
それならこっちを窺いながらつぶやくのはやめてほしい。気になる。
「一緒に適当に回って、奢ってもらうってことでいいです」
「了解」
それくらいが妥当な線だな。財布の中身が心許無いが。
「それでは……えい」
「腕を組むな!?恥ずかしい!」
「一緒に回るって言ったじゃないですか」
「くっついて回る意味は!?」
「恥じらう先輩を見て楽しむためです」
「趣味悪いぞ!」
今日はなんだかんだ言って離れようとしないのだった。
……俺、羞恥心で死ぬかもしれない。
「あそこの店はなんですか?」
「フランクフルトだな。チーズを付けただけで200円はぼったくりすぎだろ」
「そうですね。流石お祭り騒ぎ。こんな商法に騙される人がいるんですね」
「そうだよな。いつもなら絶対に買わんだろうに」
「二本ください」
「でも買うのかよ!?」
「早く先輩、代金を払ってください」
「人の財布だと思って!」
言ってることとやってることが違うではないか!
「あそこの出し物はなんですか?」
「お化け屋敷だな」
「……行きましょう」
「目が光ったように見えたのは、俺の目の錯覚か?」
保護者が獲物を狙う肉食獣に見える。
「入りましょう!」
「だから引っ張るなって!」
「きゃーこわーい」
「棒読み!?抱きつくな恥ずかしい!」
「真っ暗なんだから誰も見てませんって」
「理性残ってるじゃねえか!」
「ここはなんでしょう?」
「アーケードみたいだな。景品も出るみたいだ」
「あれいいですね……取ってください」
「彦にゃんぬいぐるみだと!?むしろ俺が欲しいわ!」
「この輪投げが二回入れば手に入ります」
「挑戦権は?」
「三回です」
「ハードル高っ!」
景品渡すつもりないだろ!
「楽しかったですねー」
「休憩にならんかった……」
むしろ余計に疲れた。
「楽しくなかったんですか?」
「いや、楽しくはあったよ。お前といると退屈せんで済む」
財布が軽くはなったが。
「……それは光栄です」
保護者が殊勝な態度だ。珍しい。
「あのですね、もし先輩が良ければ……」
「三井!ここにいたか!」
「どうした?」
クラスメイトの大林が走ってきた。かなり慌てているようだ。
「クレームが発生して」
「義人がいるはずだろ」
奴も一応代表だし、対応は俺よりも適役だろう。
「それが、杉田が使い物にならなくなって」
「はあ?」
「とにかく来てくれ!」
そう言って俺を引きずり出した。流石剣道部、力が強い。
「悪いな、保護者。また今度な」
「いいですよ別に!」
なぜか怒ってる。今日は感情がコロコロ変わるな、あいつ。……今日も、か。