第四十九話 忙殺
「時間がたつのが遅く感じられますねえ、清水」
「そうですね、健三さん」
「しかしこんな時間を過ごすのは贅沢だと思いませんか?」
「俺は動かないでいるのに慣れてないので、無駄に感じるんですけど」
「そうですか、若いですねえ」
「若い?」
「年をとればわかりますよ。このように何をするわけでもない時間が一番有意義だということが」
「そうなんですか」
「ん?お茶菓子が切れてしまいましたね。緑茶も残り少ないですし……誰か、持ってきてください」
「忙しいから勝手にやってください!」
今、うちのクラスは文化祭の準備で修羅場中。
「飾り付け用の備品は完成したか!?」
「まだ終わらん!あと三日はかかる!」
「飾り付ける時間がなくなるだろ!突貫作業にかかれ!」
「サー!イエッサー!」
「テーブルの数は足りるか!?」
「クラスのを使えば余るくらいだ!問題ない!」
「テーブルクロスは!?」
「家から持ってこれる奴は何人いる!?」
「うちのを一枚持って行くわ!」
「私の家にあるやつも使っていいよ!」
「他にはいないか!?ないなら購入することになって費用がかさむからできれば阻止したい!
」
「仕方ない!俺んちのを使え!」
「助かる!ありがとう!」
「バナナはおやつに入りますか!?」
「糖度が高いからおやつにしとけ!」
「おーい、お茶」
「だから勝手に注いでください!」
こちとら忙しくて目が回りそうだというのに、呑気なものだ。仕事ができない状態の清水に生贄となってもらってるからいいものの、健三さんはクラスの空気を読もうとしないのだろうか。
「旦那、それは違うな」
「何がだ」
「空気を読んでるからこそあの態度なんだろう」
「そうだよー」
石井も同調する。俺の周りは敵だらけか。
「張りつめた空気を和らげるためにー、わざと道化を演じているんだと思うなー」
そこまで考えているんだろうか、あの人が。
「先生!それは試食のための試作品です!」
「なら食べてもいいんでしょう?」
「どれくらい置いておけるかの実験も兼ねてるんです……ってああ!もう食べてるし!」
「味は上々です。これでおっけーでしょう」
「全然役に立たないです!どれくらい、ぱさついてるかとか……」
「わからないですよそんなの」
「だから食べないでほしかったのに!」
調理係の方が悲惨な様相を醸し出している。
「義人、大丈夫かあれ」
「だいじょばない」
「それでもお前は、健三さんが空気を読んでいると?」
「健三さんの思惑を俺ごときが理解するのは百年早かったようだ」
だろうな。
「とりあえず……義人も一からやり直し?」
「……旦那、お互い頑張るぞ」
「絶対文化祭成功させようねー」
実際、間に合うのだろうか……それでも間に合わせないといけない。
「よっしゃあ!徹夜してでも今日のノルマは達成させるぞ!」
死ぬ気でやればなんとかなるはず!
「ああ、学校には七時までしか残れませんよ?色々と規則があるので」
……食後の一服の最中、うれしくない情報ありがとうございます、健三さん。そういえば一応教師でしたね。……それでもノルマは達成させよう。俺もみんなも死に物狂いでやればなんとかなるはず……。
「ぎゃあ!看板圧し折れた!?」
……公園かどこかで製作してたら、不審者通報とかされるのかなあ……。