第四十八話 悪質
開催まで一週間と迫った文化祭、それに続く体育祭。しかしこの休みの間に、思わぬアクシデントがあったようだ。
「どうしたんだ清水!?松葉杖なんか突いて!?」
「……ラグビーの練習試合でな……」
話を聞くと、日曜日に行われた練習試合で相手に悪質なタックルをくらったらしい。俺はラグビーに詳しくないのでよくわからないが、危険なタックルとそうでないタックルとがあり、下手をすれば二度と競技ができなくなる怪我を負わせるものまであるそうだ。……見ている分には面白いが、恐ろしいスポーツだ。俺には絶対にできん。
「それで、一週間後までに治るのか?」
「絶望的だ。……くそっ!あのバック次の試合で合法的に圧し折ってやる!」
無理なのか……。しかし、怪我をしたばかりだというのに復讐心に燃えている清水はある意味凄い。誇り高き戦闘民族の王子かお前は。
「大道具係のリーダーがこれだときついか……?看板とかの製作状況はどうなってる?」
「未だ四割にも達していない。この一週間は修羅場になるな」
「執事係は手が空いてるからカバーに入るぞ」
完成できなかったら洒落にならん。どれだけ費用がかかったと思ってるんだ。何としても黒字を叩き出さんといかん。
「おお、助け合いの精神は立派ですね」
「……そういうなら健三さんも手伝ってくださいよ」
「嫌ですよ、面倒くさい」
教え子が怪我をしたのに変わらない態度、ご立派です。
「一人でも援軍が欲しいんです」
「この老体を働かせるつもりですか?私は燃費が悪いんですよ」
老けて見えても四十代でしょうが。
「まだまだ若いですよ」
「褒めても働きませんよ」
駄目か。
「三井ー。健三さんに求める方が酷だよー。自分たちでがんばろー」
それもそうだな。
「よし、看板製作分担するぞ!」
一致団結して仕事に取り掛かろうとするクラスの面々。青春だ。
「ところで旦那」
「いい気分に浸ってるところになんだ」
「清水が怪我したから、二人三脚は補欠と出ることになる」
そうだった。清水とペアを組んでたんだ。やる気こそなかったがこうなると残念な気持ちにもなるな。せっかく練習したのに。
「それで?補欠は?」
「体育祭執行委員の石川さん」
タツミか。
「……なぜ女子?」
色々と問題があるだろ。
「補欠だからな。執行委員の旦那と石井と石川さんで適当に埋めてる」
勝手に何してくれてるんだこいつらは。
「まあ実際けが人なんて出ると思わんかったしな……石川さんならいいだろ」
「よくないだろ」
清水と練習をやった感じ、かなり体が密着する。やめておいた方が無難だろう。
「ふーん?まあ旦那がそういうならそれでもいいが。今は」
今はってなんだよ。
「もしかしたら清水の怪我も治るかもしれんし」
「本人が無理だって言ってたろ」
「病は気から、気合いを入れればなんとかなる」
「わけないだろ」
さすがの清水も、人体の限界を超えるような真似はしない……で頂きたい。
「ヤバイ……清水ならやりかねない気がしてきた……」
「それが北高スキルなのだよ、旦那」
……常識を破るのはできる限りやめてほしい。