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第四十二話 得意分野

 発注も終わり、頼まれごとも他にはない。予想より多少時間はかかったものの、ようやく俺は晴れて自由の身となった。行く手を遮るものは何もない。

「じゃあな、タツミ。お疲れさん」

「ちょっと待って!」

「なぜだ。俺にはこれから崇高な使命があるというのに」

「用事があるの?」

「図書館で<楊令伝>の最新刊を読まねばならんのだ」

「暇なんだね」

 失敬な。俺にとってはこれ以上ない有効な時間活用法だ。

「それなら、町の案内してくれない?」

「誰か女子に連れて行ってもらったんじゃなかったか」

 俺の記憶では、転校初日に例の副会長と書記が案内するみたいに言っていたはずだが。

「人によって案内する場所は変わってくるでしょ」

「この田舎都市(野菜の生産量日本一)に特別案内するところがあるとでも?」

「案内する場所が少なくていいんじゃないの?」

 ……笑ってはいるものの、タツミに引く気はないようだ。子供の頃より頑固さが増している、確実に。

「……いいだろう。それなら俺が知ってるいい場所に連れてってやる」

「本当に?」

 それがタツミにとっていい場所かどうかはわからんが。



 数分後、目的地に辿り着いた。

「……ここは……本屋だよね?」

「見ての通りだ」

「……どこがいい場所なの?」

 まるで俺が立ち読みするために来て、それを案内と言って誤魔化そうとしている――そう言いたげだな。まあその積もりが全くなかったと言えば嘘になる。かといって決してそれだけではない。

「見ろ、この有名漫画家のサインの数々を!」

 新装開店した時に、どういうコネかは知らんがこの店に大量に漫画家のサインが届けられた。

「有名漫画家って……私が知ってる人にはないと思うけど……」

「タツミは<あらゐけいいち>先生を知らんのか?」

 コンプティークで<日常>という素晴らしい漫画を連載してる、注目度ナンバーワンの漫画家だというのに。……そのうちアニメ化しないかなあ……。

「それ以外にも<美氷かがみ>先生(らきすたの作者)のサインとか色々あるけど」

「誰?」

 知らないようだ。この価値がわからんとはもったいない奴。

「まあそれを抜きにしても品揃えがよくていい店だ。ゆっくり立ち読みして行け」

「……店に迷惑でしょ……」

「いや、月にかなりの金を落としてるから問題ない」

「問題あるでしょ……」

 そんなことはない。だってほら。

「おっ、三井君じゃないか。いつも贔屓にしてもらって悪いねえ」

「まあ、こっちもいつも立ち読みさせてもらってますから」

「立ち読みくらい三井君の買った本の総額に比べれば安いもんだよ。もちろん買ってくれるに越したことはないが」

「全部買ってたら破産しますよ」

「それもそうだな。ところでそこのお嬢さんは三井君の彼女かい?」

「か、彼じょ……!?」

「違いますよ。新しく越してきた知り合いです」

「そうかそうか、ぜひこの店を御贔屓に。じゃあ」

 いつもながらいい人だ。

「おい、タツミ。店長の許可も下りたことだ。これから立ち読みするから別行動な」

「…………」

 なぜかフリーズているタツミだが、この本に囲まれた空間ならそのうち基に戻るだろ。楊令伝は立ち読みで済ませてしまおう。



 俺は充実した午後(四時間立ち読みしっぱなし)を過ごすことができ、充実した気分で帰路に就いたのだった。めでたしめでたし。



 ……あれ?何か忘れてるような……。気のせいか。

 

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