第四十一話 普段着
三軒ほど服飾店(洋服の○山など)を回ってみたものの、手ごろな値段で四十個もの発注を一週間以内にこなせる……という都合のいい蝶ネクタイは見つからなかった。蝶ネクタイ自体にあまり需要がないせいだろう。分析するのはいいが、どうすればいいかは思いつかない。困ったものだ。
「なおくん、他にお店は知らないの?」
「もともとそういう店には立ち寄らないからな……」
「じゃあいつも服はどうしてるの?」
「親に買ってきてもらってる。主にユ○クロとかで」
安くて長持ち。なんていい響きだろうか。
「……もっと身だしなみに気を使おうよ……」
「普段は制服で、外出するのなんて図書館か本屋くらいなもんだし。気を使う相手もいないから問題ない」
「もっと青春を謳歌しなよ」
「十分しとる。人によって人生の楽しみ方など千差万別なのだから、その言い方はおかしいな」
「……まあいいや。今は」
あとでまた小言はあるのか。
「蝶ネクタイならどんなのでもいいんでしょ?予算があるから、安いのにしないといけないだけで」
「そうだな。よし」
困った時の義人頼みだ。電話して有力な情報を得よう。
「……ん?」
こんな時に限って出ない……というより電源が切ってあるのか?いつもは迷惑も考えずに掛けてくるくせに、自分では取らないとはなんて奴だ。
「しまったな……義人が駄目となると……タツミは知らないよな?いい店とか」
「うーん、まだ来て一ヶ月も経ってないしね」
そりゃそうか。むしろそれで俺より知ってたら俺の十年近くがなんだったんだって話になるわな。
「でもほんとに知らないの?」
「知ってるのと調べた店は全部当たった。これでないならみんな納得……」
「どうしたの?」
「……いや、一つ思い当たる個所があった」
そんなわけでたどり着いたのは、以前保護者と一緒にきたアクセサリーショップ。
「ダメもとで当たってみた割にはいいものがあったな」
蝶ネクタイといってもそう畏まったものではない、なおかつ安価なものが見つかった。しかも発注するまでもなく倉庫(別の場所にあるらしい)に在庫があるそうで、明日学校に届けてもらえることに。いいこと続きで罰でも当たりそうだ。
「ここでこのミサンガ買ってくれてたんだね」
そうやって手首を上げると、ミサンガが巻きつけられていた。せっかくプレゼントしたものだ。長く使ってやってくれ。
「ミサンガが切れると願いがかなうって言うから、あんまり長くは使いたくないな……」
「何か願掛けしてるのか?」
「……なおくんはどうなの?」
質問に質問で返すとはいかん奴め。
「とりあえず平和な日常を願ってある」
でも答える俺。立場が弱いことに起因するわけでは決してない。……決してない!
「頑張って生きようね、なおくん」
慰め方がひどいぞ、タツミ。