第三十七話 確認
「「「いらっしゃいませ、お嬢様、旦那様」」」
「こちらの窓側の席でよろしいですか?」
「ご注文をお伺いしてもよろしいですか?」
「苺パフェをお一つですね、かしこまりました」
プレオープンを開始して三十分。ミスをしながらも順番に客の相手をした結果、ようやくウエイター業務に慣れてきた。
「旦那、そんな仏頂面で注文聞いてどうするよ。もっと笑え」
「そんなこと言われてもな……」
「執事なんだから、使える人に喜んでもらわないと。だからスマイルスマイル」
そう。ウエイター業務には慣れたものの、執事という業務には慣れていない。執事喫茶という職種柄、相手を喜ばせなくてはならないそうだ(数人の腐女子が激しく主張)。特に俺は目を付けられているらしく、相手をした客の十割にもっと笑えと言われている。
「仕事をしてるのに笑うってのもどうかと思うが……」
「どの仕事だって不機嫌な相手に対応してもらいたくはないだろ」
「別に不機嫌ってわけじゃない」
単純にミスをしないよう気が張ってるだけだ。
「それでも気持ちに余裕を持てよ。緊張のし過ぎはミスにつながる」
「……わかった。次の客からはにこやかに対応する」
「よし。ああそれとだ」
「なんでしょうか旦那様?」
「このパフェ作った奴呼んで来い。クリームの量が多すぎる。適正な量で提供しないと不公平になるからな」
「……かしこまりました」
調理係代表としてしっかり仕事もしているようだ。感心。
「しかし笑って応対するのか……馬鹿にされていると思われないか?」
「問題ない。どう思われるかどうかの確認も、このプレオープンの目的の一つだ」
近くにいた原君に相談したら、このような答えが返ってきた。なるほど。俺はミスをしないよう神経質になっていたが、それは間違いだったな。ミスをするのが目的と考えれば問題ない。
「ありがとう原君。では次のお客さんの応対をしてくる」
「礼には及ばん。それと、三井にお嬢様から指名がかかってる」
「ん?誰だ?」
「石川さんだ」
ああ、もうタツミの番が回ってきたのか。よし、ここはタツミに実験台となってもらおう。タツミなら多少のミスも許されるだろうし……ただ、改善点を最後に聞かんとな。忘れないようにしよう。
「わかった。あと一つ聞いていいか?」
「なんだ?」
「原君は執事喫茶どう思ってる?」
常識人に近い原君の意見を聞きたい。
「……儲かりそうだから妥協してる。執事をやりたいとは思わんかったが」
うん、現実的な意見ありがとう。原君は執事似合ってると思うんだがなあ。
「冗談だろ。知らん人のために何かするのは性に合わん」
さいですか。