第三十四話 制裁
「宣伝活動御苦労、諸君」
「とりあえず殴っていいか」
妙に偉そうだ。人にこれほどの屈辱を与えておきながら、奴は無傷とは気に食わん。
「まあなおちゃん、そう怒るな」
火に油を注いでいるのがわからないのかな?これはお仕置きが必要なようだ。
「えい」
「…………!」
「俺、握力ないからあんまり効果ないだろうなあ」
男子高校生平均以下の握力だし。これで痛がるようでは男じゃないだろう。
「……ギブ、ギブ……」
「聞こえないなあ」
頼み事ははっきりということ。これは最低条件だろう。
「……すまん……アイアンクローは……やめてくれ……」
「旦那、夏目の顔が変色してる。これくらいでやめとけって」
「もとからこの色だろ」
「青紫色が人間の顔の元々の色なら俺も文句は言わん。しかし俺たちの顔は肌色がデフォルトだ。したがって今の夏目の状態は非常にまずい。OK?」
ふむ。義人の言うことにも一理あるな。しかし。
「夏目は人間じゃなかったんだ、きっと」
「現在進行形で別のものになりかけていることを除けば、夏目は人間のはずだぞ、たぶん」
「……たぶんって……どういうことだ……」
命乞いのかわりに突っ込むとはなかなかやるな。褒美に手を離してやろう。
「…………」
「おーい、夏目生きてるか」
「義人もほっとけよ」
「おーい」
「…………」
「返事がない。ただの屍のようだ」
「それが言いたかっただけか」
一度は言ってみたいセリフではあるが。
「……死んでねえよ……」
よくもまあ倒れながらも突っ込めるものだ。
「旦那も大して変わらんと思う」
うるさい。人を突っ込みマシーンとでも思ってるのか。
「……もう一度彼女を作るまで……俺は死ぬわけにはいかんのだ……」
しかし夏目はどうしてもボケずにはいられないらしい。この発言はマジで言っているから、天然ボケということで。それでも立ち上がろうとする姿勢は立派だ。
「彼女のために死ぬわけにはいかん!というなら格好いいのにねー」
「ぐはっ!」
「まあ、今の発言じゃ本当に可哀想な人にしか聞こえんな」
「ぐふっ!」
「……ドンマイ」
「けはっ…………」
夏目が再び倒れ込んでしまった。肉体的な痛みには耐えられても、精神的な痛みには耐えきれなかったようだ。残念。修行が足りんよ。
「精神面を鍛えるって……どうしろというんだ?」
「経験を積め」
「精神面を鍛えるような経験をしないように努力しろよ」