第三十二話 変化
「正直反省してる。ごめんなさい」
「……しくしくしく」
「だから三井、もう泣くなよ」
「……ぐすっ」
「今のお前が泣いていると、非常に萌えて襲いかかりたくなる」
「……!」
今、俺は佐伯さんの魔の手に掛かって恐ろしい変貌を遂げている。
「しかし佐伯さん、素晴らしい仕事だ」
「お粗末さまです」
「まさか三井を<萌>のテーマで、ここまで変化させるとはな……」
「てっきり華奢な少年風に変えるのかと思ったが、性別ごと変えるとは……素晴らしい職人技よ」
「これは知らない人が見たら、十人中八人は男子だと見破れんだろう。メイクとかつらだけでここまで変えるのは凄いと言わざるを得ない」
メイクとかつらは美容師の仕事じゃないと思うんだが、どうなのその辺り。佐伯さんの目指すものがわからない。
「しかもその半分は可愛いと言うレベルだ」
「男子用の制服のままだが……しかしそれが又そそるというか」
鏡を見せられたときは、衝撃の余り逃げ出したくなった。今だに縛り付けられているから動くことすら儘ならんが。……舌噛み切って死のうか……。でもその前に。
「……一言いいか」
「なおちゃん、どうかしたのか」
なおちゃん!?
「背筋が凍りついたわ!気持ち悪い呼び方するな!」
「強気な少女……いい」
「少女!?この俺が少女呼ばわりだと!?」
人生単位でトップクラスの屈辱だ。
「執事と関係ないだろうが!メイドにでもするつもりか!?」
「それいいな」
「検討してんじゃねえよ!」
健三さんの指摘で中止になったのをもう忘れたのか。このクラスは自分に都合の悪いことをすぐ忘れるから困る。しかも自然と。
「では三人に使命を与える」
「使命?」
とりあえずこの化粧とかつらをどうにかしてからでいいか。
「もちろんそのままの状態でだ」
苛めですかそうですか。
「このクラスの執事喫茶を、他のクラスに存分に宣伝してきたまえ」
「はあ!?」
「もちろん説明等は宣伝係代表、石井に一任する」
「待て!この状態で行ったら間違いなく変人扱いされるだろうが!」
「「「はっ、何を今さら」」」
「クラス全員で失笑だと!?」
「さあとっとと行って来い」
「嫌に決まってるだろうが!」
「でも行かないと……」
「どうなるって言うんだ!?」
脅しか?なんて卑怯な……。
「清水の理性がそろそろ飛びそうだ」
「ハアハア……もう可愛ければ男子でもいいや……」
「行ってきます!だから早くこのひもを解きたまえ!」
貞操の危機には変えられん!