第二話 飯事
自己紹介は終わったものの、放課後になってもクラスのざわつきは収まらなかった。今は俺の周りに義人しかいない(転校生、石川辰美にクラスの大部分が群がっているため)が、監視されているため部活に行くことすらできない。そんな状況で一人先に部活に行かないでいてくれる義人はいいやつだと思う。俺の不幸を間近で楽しんでいる可能性も否定できないが。
「しかし旦那に女子の幼なじみとはな……そんなベタなものが実在したのか?」
「……義人は知ってるだろ。俺がガキの頃に引っ越してきたの」
「ああ。その後は俺とほとんど一緒に過ごしてきたから、旦那と女子との交流が少ないのも知ってる」
「数が少ないのはその前からだ。なんか知らんが女子に避けられていたからな」
「そこら辺は俺と旦那の認識が違うから置いておくとして……その数少ない女子の知り合いがあの子と保護者ちゃんなわけか」
「……そうだな」
「で、その幼なじみと再会して表情が曇ってるってか絶望感に満ち溢れてるのはどういう理由だ?」
「……お前にはないだろう。ままごとで生のじゃがいも(皮剥かず、芽も取ってないやつ。ちなみにじゃがいもの芽には毒がある)を食わされて三日ほど寝込んだ経験が」
「ドンマイ、旦那」
あ、目から水が。
「……お前にはないだろう。ままごとで泥団子を食わされ(前回の教訓から断ったのに無理やり)、腹を下した経験が」
「ファイト、旦那」
あ、やばい。目から出てる水の量が増えてきた。
「……お前にはないだろう。引っ越す日にまでままごとに付き合わされ、薔薇(茎つき)を食われて口の中が血だらけになった状態で車で移動した経験が」
「薔薇は食用にされることもあるぞ。でも頑張れ、旦那」
……声出して泣きたくなってきた。
「さあ懺悔の時間だ、三井」
「清水は懺悔の意味を知っているか?懺悔とは罪悪を自覚し、これを告白し悔い改めることをいうんだ。俺は罪悪を感じていないから無関係だな」
主に悲運を感じているが。
「何気に可愛い知り合いが多い理由について弁明を聞こうか」
「俺って運が悪いと心の底から思っている」
「はあ?」
いや事実だし。
「もうすぐ女子の質問攻めも終わるようだ。そうしたらお前にも質問がいくだろうから、正直に答えろ」
「どこにそんな義務がある」
「義務はないが、答えない限り帰ることはできんぞ」
「脅迫か」
「クラスの総意だ。恨むなら多数決の民主主義国家を恨め」
なんてクラスだ。そして民主主義国家はなんてことを考案したんだ全く。ぷんぷん。
「……旦那、気持ち悪いぞ」
俺も自覚してる。ただ心に、もはやそれを気にする余裕がないだけだ。