第二十八話 一計
「どうしても執事をやるのは嫌なのか、旦那」
「当たり前だ」
「どうしても?」
「どうしてもだ」
「なら強攻策を使うしかないか」
「…………?」
暴力にでも訴えるつもりか?
「旦那は約束は必ず守るよな?」
「…………!」
まさか!
「察しがいいな。さすが旦那だ」
そんなので褒められても全く嬉しくない。
「料理勝負での旦那一日使用権。これを文化祭当日に使わせてもらう」
「……卑怯者」
「作戦勝ちだと言ってくれ」
「石井が妙に自信を持っていたのもこれだな」
「そうだよー。三井なら約束は破らないよねー」
「お前らとの約束なら破ってもいい気になってきた」
「ということで旦那の執事代表就任決定、みんな拍手ー」
パチパチパチと済し崩し的に決定してしまった。なんてこったい。
「……はあ」
「旦那、また溜息か」
「若いのにだらしないよー」
「なおくん、ネガティブなのはダメだよ?」
責められれば責められるだけ、余計にネガティブになるのがわからんかな。前向きな人が羨ましい。
「しかしなぜピンポイントに俺が狙われたんだ」
執事役なんてもっとふさわしい人がいるだろうに。
「それは……ねえ?」
「旦那はそこそこ顔が整ってるし」
「しっかりしてそうに見えるしねー。実際性格も重箱の隅をつつく感じだけどー」
やかましい。顔がそこそこってことは中の上だろ。その評価は聞きあきたわ。
「だから、なおくんは自己評価が低すぎ!」
「俺の自己評価は妥当な線だと思う」
義人がにやにや笑っているのが気になるが、まあいいだろう。義人と石井が変なのはいつものことだ。気にしない気にしない。
「むー……」
タツミの睨むような目線が気になる。こっちは慣れないためどうしても気になる。
「言いたいことがあるならはっきり言え」
「別にー……」
うん、気まずい。
「ところでタツミは何の係になったんだ?」
話題転換をして矛先を鎮めよう。ナイス判断。
「執事係だけど」
「そうかそうか……執事係!?」
「何驚いてるの?」
「俺の認識では執事は男がやるものだと、相場は決まってるんだが」
「菅原さんの説明聞いてなかったの?女子もやるって言ってたじゃん」
「言ってたか?」
「言ってた」
「言ってたよー」
その時点で突っ込む奴はいなかったのか。どうなのその辺。
「大丈夫!家事全般は好きだから!」
そうだよな。昔みたいなトラウマを作ることはもうないよな!
――――しかし三井の希望は、数日の間に脆くも崩れ去ることとなるのだった……
「義人!妙なモノローグ入れるんじゃねえ!!」