第二十六話 過保護
……ようやく視界と思考力が回復してきた。未だに目には変な光が見えるものの、物の輪郭くらいは判別できる程度なので、まあいいだろう。……よくないよな、絶対。
「保護者、ちょっとこいや」
「…………」
ん?反応がないな。いつもなら軽口の一つや二つ、返してくるはずなのに。一体どこに消えたんだ?
「なおくん」
「……タツミか?」
「なんで疑問形?」
「こちらにも色々と都合があるんだ」
保護者が理不尽に作った都合だが。
「それで……どうかな?」
「すごいな」
「もう!なおくん恥ずかしいよ!?」
「うわ痛っ!叩くなタツミ!どうして恥ずかしいんだよ!?」
「だってすごいって……エッチ」
「なぜ!?」
保護者(らしき人影)が何をとち狂ったのか重そうな棒を振り回しているから、率直な感想を述べただけなのだが。
「大きい人なんてみんな絶滅すればいいんです―――!!!」
よく見たらあれ、筋トレ用のシャフト(バーベルの持つところ)じゃね?しかも片手で持つってどんな筋肉の付け方してんだ。保護者には基本逆らわないようにしよう。目をつぶされかけたことといい、危険すぎる。そんなに背の高い人が憎いのか。よかった、平均的身長で。あれで殴られたら生死にかかわる。
「でもなおくん……体格いいね」
「保護者にも言われたぞ、それ。実感はない。上には上がいるものだ」
「だからってむやみに自分を卑下するのもよくないと思うよ」
「卑下はしてないだろ」
「だったら自分に自信を持ちなよ」
「……もてる場所がないから苦労してる」
頭のよさ、運動神経、その他どれをとったとしても、水泳部内ですら一番にはなれないだろう。上には上がいる。この言葉は深い。
「人と比べても無駄でしょ?世界で一番にならない限り上がいるってことなんだから。人と比べて悲観しても、状況は好転しないよ。もっとポジティブにならなきゃ」
「……俺もそうは思うが……性格だから仕方ないな」
だからこそ俺は義人、石井といった前向きな思考をもつやつを尊敬する。奴らのような性格になれたらどんなにいいかとも思うが、俺はそうはなれない。義人の前向きさに引っ張ってもらってようやく人並みになれる、情けない人間―――それが俺だ。
「だからそうどうして後ろ向きに考えるかなあ、なおくんは!」
「別によかろう」
「よくない!」
そういえば昔もこうやってタツミには叱られていたなあ……。
「こんなんじゃ駄目だよ?」
「はいはい」
「もう……生返事だなあ。よし決めた!」
何をだ。
「私が常にそばにいて、なおくんの性格を矯正してあげる!」
……はあ!?
「おま……何言ってるんだ!?」
「だから、私がなおくんと一緒にいて、プラス思考になるように指導してあげるってこと」
「そんなの駄目です!!」
保護者、いつの間にいたんだ?息せき切って……いるのはさっきの振り回してたせいか。
「四六時中一緒にいるつもりですか!?」
「学校ではどうせ一緒だし」
「意味が違ってきます!」
「大丈夫だって。なおくんに変な気は起こしてないから……今のところ」
「それが不気味なんです!」
「お前ら何の話に変わってるんだ?」
「先輩は黙っていてください」
……俺、威厳すらもないのか……。
「だからネガティブになっちゃ駄目だって!」
「どうしろと!?」