第二十五話 大小
だらだらとストレッチを続けていると、背後から声をかけられた。
「おまたせ!なおくん!」
いや別に待ってないから。水泳は個人種目だろ。リレー以外。
「……別に待ってませんよ、石川先輩」
また険悪ムードに……。どうした保護者。
「マッサージしてもらってるの?」
ストレッチだ。マッサージとはまた違う。
「古木さん、私も次にしてもらっていい?」
「仕方がないですね……。……!!」
振りむいた保護者が固まったようだ。どうした?ショックな出来事でもあったか?
「……まさか……こんなに……差が……卑怯な……」
言葉を失う保護者。余程のことがあったのだろう。
「どうした?後ろで何が起こってるんだってぎゃあああ!!!」
目が!目がああああ!!!!
「……!先輩は見ないでください!あんなのおかしいです!石川先輩!何か詰めてるでしょう!」
声が悲痛だ。しかし俺の視界と思考力、判断力が保護者の眼つぶしによって奪われている今、現状を把握することは不可能。一体俺が何をした。
「お、落ち着いて古木さん!」
「落ち着いてなんかいられないです!人類みな平等だなんて嘘です!差が!ここの肉にどうしてこんなに差ができるんですか!?」
「別に胸が大きくてもいいことなんてないよ?肩こるし、運動もやりづらいし」
「自慢ですか!?あえて口に出さなかった<胸>という単語を出すあたり余裕ですね!?大きい人にはわかりませんよね!胸で好きな人にアピールできない悔しさが!!」
「落ち着きなってば」
「この前だって腕組んでたのに!胸も押し付けてたのに!腕を組むという点以外に反応を示されなかったんですから!差別です!こんなの!神は無常です!!いや、神様なんていない!頼れるのは所詮、自分自身だけなんです!」
「だから落ち着きなって!」
二人がどたどたと暴れながら言い争っているようだ。残念ながら俺のHPが点滅しているので内容はわからない。てか攻撃された意味もわからない。わけもわからず死の危機に瀕している俺って……。理不尽。あまりにも理不尽だ。
「どうせ先輩だって大きい方が好きなんです!小さい胸なんて胸じゃないとかいう人なんです!!」
「男の人ってそうなの?やっぱり大きい方がいいのかな?そうだといいんだけど……」
「そこは否定してくださいよ!!うわああん!!」
「ご、ごめん!古木さんだって可愛いよ」
「強者の余裕ですか!?小さくて可愛いガキんちょのようだとそう言いたいんですか!?」
「どうすればいいの!?」
……目が痛いよう。