第二十四話 信用
「……石川先輩、監視役の先生がいなくて今日は泳げないみたいですから、帰ったらどうですか?」
今日、初めてここのプールで泳ぐつもりだったのだろう。水着入れらしい荷物を持っているタツミだが、規則のため教師がいないとプールでは泳げない。こんな規則無駄だとは思うが、校長がわかりもしないのに、部活に関して口出ししてくるから仕方がない。無能どころか害になるのだから、早く引退して天下りでもしておけばいいのに。規制が甘い今のうちに。
「そんなことないみたいだよ。ほら」
タツミが振り向いた先には、健三さんの姿があった。
「ぐっどあふたぬーんえぶりわん」
エブリワンで三人しかいませんけどね。
「毎度おなじみ小倉さんの代行で見に来てあげましたよ」
本当に見るだけですけどね。まあ水泳部員なら、両足攣ろうと上半身だけで泳いで帰ってこれるだろうが。実際みんな足攣っても助けないで、本人だけで解決してるし。
「メニューはないみたいですから適当に泳いでください。さあ、れっつすいみんぐ!」
それだけ言って、健三さんは持ち込んである椅子に腰かけて寝たのだった。いる意味ないですね、本当に。あとあなたは一日何時間寝るつもりですか。小学生じゃないんだから少しは我慢をしてください。
「じゃあ私、着替えてくるね。なおくん、覗かないでよ?」
「アホか」
なぜそんなことをせんといかん。
「先輩、覗いたら私がこの手で殺します」
「覗くわけないだろうが!?」
そりゃ覗きは女の敵かもしれんが、してもないのにどうして保護者の殺気が駄々漏れなんだよ!?怖いよ!
「……俺も着替えてくる。保護者、覗くなよ?」
「の、覗きなんかしてませんよ!?」
なぜそこで動揺する。
そして着替え終わり、プールサイドで準備運動。
「……先輩、マッサージ手伝いましょうか?」
「そうだな、よろしく頼む」
恥ずかしいが、断った揚句に怪我したり、足をつったりするのも馬鹿馬鹿しい。ここは素直に手伝ってもらおう。幸いにも、見られている相手はいないし(健三さん爆睡中)。
「……先輩って、意外といいからだしてますよね……肩幅も広いし……」
「水泳部はたいていそんなものだろ」
むしろ俺は筋肉がない方だと思う。浜ちゃんとか人とは思えない体のバランスしてるし。逆三角形の見本だよな、あれ。
「……でも、確実に中学の頃よりもたくましくなってます……はう」
はうってなんだ。人の背中押しながら何をやってるんだお前。