第二十三話 悲
「おい!もっとゆっくり歩けよ!」
「そんなんじゃ勝てねーだろ!」
「バカ、転んだら負け確定なんだから慎重になれ!」
「練習で慎重になってどうするよ」
「それもそうか」
「「「はははははは」」」
……楽しそうだな、ムカデ競走の練習。それに比べて……。
「……清水、テンション上げろよ……」
「……三井こそ……」
男二人でやる二人三脚(しかもそこまで仲のいいわけでもない相手)の練習のなんと惨めなことか。いや、女子とやりたいとかそういう話じゃないよ?そんなことになったら逃亡すること間違いないだろうし。俺が言いたいのは、今の状況が途轍もなく虚しいということ、ただそれだけだ。
「……これだけ練習すれば十分だろ……部活行っていいか」
「……奇遇だな……俺もラグビー部の練習が恋しくなってきたところだ……いつもはきつくて苦しいだけなのにどうしてだろうな……」
「……俺も小倉さんのドSなメニューだって、今の状況から抜け出せるなら受けて立とうではないか」
二人の利害が一致したようだ。それならそもそも練習なんかするなと思うかもしれんが、クラスの雰囲気にのまれてやらざるを得なかったのだよ。世の中って難しい。
さて部活に参上した俺なのだが、皆も体育祭の練習をやっているのか、文化祭の出し物の準備に追われているのか集まりが悪かった。うぬ、部員がいない。小倉さんも生徒指導部長の肩書のおかげで仕事があるらしく来ていないし、こんなので新人戦は大丈夫なのだろうか。
「先輩、いい加減私を無視するのやめません?」
「なぜいるんだ貴様は」
「あと三日は休みですよ、本来」
「ふん、休みの日に遊びに行ったりしないのか、さみしい奴め」
「先輩に言われたくないです」
「今日は監督する先生がいないから泳ぐこともできん。だから帰れ」
「先輩のクラスは文化祭何やるんですか?」
「話聞いてる?」
「でもまあ教えてくれなくてもいいです。当日行きますから」
「自己完結するとは」
「でも先輩、ミサンガつけてるんですね」
「強引に話を変えるな」
「私もつけてるんですよ。ほらほら」
「思いだした。貴様つい先日あのような仕打ちをしておいてよくもまあ、おめおめと俺の前に姿を現したものだな」
「今の今まで忘れてたんですか?鳥頭ですか先輩は」
「あまりに不幸が続きすぎて、肉体的な痛みは大して傷にならなくなっているようだ」
「うわー、なんて情けない自己分析」
「やかましい」
「つまりは精神的な痛みが傷になってるってわけでしょう?可哀想な人生ですね」
「人生単位で否定とされるとは思わんかった。……しかし俺の不幸さがここ数日で増している気がするんだ。一体何の陰謀だ?」
「なおくん!」
「な、何だ!?」
「……そこまで驚かなくてもいいじゃない」
「驚かせるな、心臓が止まるかと思ったぞ」
「……石川先輩、こんにちは」
……なぜ険悪になるのだ。最近の保護者の思考がよくわからん。別にタツミは険悪でもないから、喧嘩ではなさそうだし。
「……ミサンガ、先輩からのプレゼントですか」
「そうだけど、なんで知ってるの?」
「…………」(無言で腕を上げる)
「古木さんもなおくんにもらったの?」
「……私のはお礼ではないですけどね」
だからなぜ険悪になる。