第十六話 犬猿
土日が明けて月曜日の朝。
「ぐっもーにん、皆さん」
おはようございます、健三さん。相も変わらず重役出勤とは流石です。もう次の授業の先生が廊下で待っているのに無視するとは、常識人の俺からしたら考えられません。……あ、次の授業は現代文(担当は健三さんと犬猿の仲、藤田先生)だからわざとか?
「実は始業式の日に言っておかなくてはいけなかったんですが、忘れてました。まあ別にいいですね、そんなこと」
教師として反省すべきことが山ほどあると思うんですが。……まあ健三さんだから仕方ない。
「皆さんも知っての通り、三週間後には文化祭、体育祭を続けて行う<北高祭>があります……が、説明は面倒なので省きます」
おい教師。
「知りたければ次の授業で藤田先生にでも聞いてください」
流石健三さん。授業の開始を伸ばすだけでなく、質問まで丸投げするつもりですか。ただでさえ切れかけてる藤田先生が大変なことになりますよ。……あ、睨んでる睨んでる。
「ですから、適当に文化祭の出し物を考えておいてください。それと文化祭、体育祭実行委員も決めます。今日の最後の特別授業で決定しますので。ではまた後で」
それだけ言って、健三さんは去っていった。一限目の授業時間は大分経っており、藤田先生が歯を食いしばりながら何か言いたそうにしているが、堂々の無視。藤田先生もあんまり怒ると血圧上がりますよ。健三さんに常識を求めようとしても無駄なんですから。
「……では随分遅くなりましたが、授業を始めます」
藤田先生、怖いですよ。リラックスリラックス。
「先ほど、非常識な反面教師が質問を促すようなことを言っていましたが、質問はありませんよね?」
ありませんよね?と言う口調には妙にドスが利いている。チョークまで手に持って、授業を開始する気満々じゃないですか。質問を許可するつもりあるんですか?ないですよね。この状況じゃ誰も質問なんてできるわけが――――
「あのー、藤田先生。北高祭ってどんな感じになってるんですか?」
義人!?空気読め!!
「…………」
うおーい!藤田先生が般若の形相だよ!チョーク握りつぶしたよ!
「……それは健三さんに聞け」
ついにバカ呼ばわり!?
「いや、健三さん……山本先生が真面目に答えてくれると思います?」
思わないけど!
「なら別の奴に聞け。兎に角、私の授業を妨害するな」
……高説ごもっともだけど、言い方が怖いですよ。……藤田先生も苦労人だな……。色々と教師にあるまじき態度も見え隠れするけど。