第十三話 主人
「では第二案です」
「……そうか」
もうどうとでもすればいい。
「第二案は<ハニー>です!」
「また変な要求を……」
「ではどうぞ!」
「はにー」
「もっと気持ちをこめてください!」
「はにー」
「もっと!」
「ハニー」
トースト。
「……何か別のこと考えてませんか?」
「甘ったるいパンを想像して、食いたいという気持ちをフルに籠めていた」
「またふざけてるんですか」
失敬な。俺は基本、真面目なのに。今はふざけていたことは事実だが。
「そもそも、どんな気持ちを込めればいいんだよ」
「そ、それは……その……」
「どうかしたか」
何か気に障ることでも言ったか、俺?
「第三案です!」
強引に変えやがった!
「第三案、<瑠璃>です!」
「それでいいのか?」
まんまじゃないか。
「それでもういいです!さあ、行きましょう!」
「……どこにだよ」
行き先すら知らされてないんだが。
「まずは映画館です!」
……?なぜ?
「なあ保護者」
「…………」
「保護者」
「…………」
「保護……瑠璃」
「……はい」
「なぜに俺は映画鑑賞をしているんだ?」
しかも恋愛映画を。
「映画館の中では静かにしろって、テロップが流れていたじゃないですか」
それはその通りなんだが。
「……俺が連れてこられる意味はないよな……」
わざわざ一日使用権まで使って一緒に来る理由がわからない。
「友達いないのか?」
「……はい?」
「俺と来るくらいだからな。一人で映画に行くのは嫌だけど、一緒に行く相手もいないってところか」
「先輩じゃあるまいし、友達の百人や二百人いますよ」
スケールでかっ!!
「ならどうしてだ」
「……いいじゃないですか。なんとなくです」
……?府には落ちんが、でもまあせっかく来たんだ。料金(二人分俺が支払った)ももったいないし見よう。
「先輩……」
「もう離さない……」
「……好きです」
「……俺もだよ」
そしてキスシーンへ。もちろん映画の話だよ。間違えちゃいかん。いいシーンだな、うん。
「せ、先輩……」
「ほ……瑠璃、どうかしたのか?」
手なんか握って。
「じ、実は私……」
「わかった。トイレにでも行きたいんだなぎゃあ!?」
手が!手がああああ!!!
「……先輩はムードっていうものを知らないんですか」
何が!?何が間違ってたんだ!?
「もういいです。次いきましょう」
「え?映画まだ終わってない……」
「行きますよ」
なんだかんだで結構真面目に見てたのに!
「あと三十分はある!一番いい場面!」
「この映画は色々ありながらも二人がくっついて終わりです」
ネタばれされた!てか君、何しに来たんだよ!?
「うるさいです。先輩が台無しにするのが悪い。自業自得です」
何が!?