第百話 本気
義人と石井、二人の工作活動の成果だろう。現在、部室にいるのは俺一人。あの二人が言うには「あと少し待っててー。石川さん連れてくるからー」「気合いだ、旦那。気合。スピリチュアルパワー」とのことなので、もうそろそろタツミも来るだろう。ただ義人、気合いでなんとかなるなら苦労しない。
「……なおくん、いる?」
コンコン、とノックの音が響いた後、タツミの声が聞こえた。どうやら向こうの心の準備も整ったようだ。
「あ、あー、入っていいぞ」
「……失礼します」
うつむきながら入ってくるタツミ。やはりまだ、俺の顔を見るのには抵抗があるようだ。
「あー」
「……うん」
「そのー」
「…………」
……駄目だ、言葉にならない。しかし、俺がなんとか言わないと話は始まらないし……。
「……なおくん」
「はい?」
悩んでいると、タツミから口を開いた。……震えながら。
「あのね、昨日は……その……送ってくれてありがとう」
「あ、ああ……」
「それとね、あの……昨日のあの言葉だけど……」
「待て。その先は俺が言う」
「!」
これだけタツミが勇気を振り絞ってるんだ。俺がここで黙っていてどうする!男だろ、三井直樹!……と、俺もなけなしの勇気を振り絞る。
「昨日は……俺も酔ってたみたいだ。あれは場の空気に流されて言った」
「…………」
「ただし、だ」
「……?」
「場の空気に流されたとはいえ、思ってないことを言えるほど俺は器用じゃない。……お前と……タツミと一緒に思い出を作っていきたいと思っている、その気持ちは本当だ」
「……!」
「できれば、これからも今まで通りでいてくれると助かる。……と、まあ……これだけだ」
今まで通り、一緒に笑い合う関係でいたい……それを言うだけにこれだけの労力が必要とは。自覚はしていたが、俺は想像以上のチキン野郎だな。
「…………」
「どうした?タツミ」
「……やだ……」
「なんだって?」
「今まで通りなんて……やだ……」
「……ってことは、もうお前には付き合いきれんと?」
結構ショックだぞ、それは。
「そうじゃなくて!私は……!」
「私は?」
「なおくんの彼女になりたい!」
「……!」
空いた口がふさがらない、とはこのことを言うのだろう。
「……す、すまん。もう一度言ってくれ?」
「……私は、なおくんが好きです。付き合ってください」
……まさか。タツミが、俺のことを好きだと?幼なじみで、俺が普通に話せる数少ない女子、石川辰美が俺のことを好きだと?
「……マジでか?」
「…………」
顔を真っ赤に染めて俺を見つめるその様子に、嘘偽りはなさそうだった。