第九十九話 舞台
今日一日は、ずっとモヤモヤした気分で過ごしてしまった。といっても授業に差しさわりがあるほどでもなく、勉学に励む高校生という観点からすれば問題はなかった。授業に集中している限り羞恥に苛まされることもない。休み時間の間もこれからの授業の予習に当てたので、タツミと話すということもなかった。今は放課後、部活がもうすぐ始まるのでプールに向かわなくてはならない。
「旦那、このままでいいのか?」
「……このままって何が」
わかってはいるが、とぼけてみる。なんとなく自分が女子のことで乱されていると、認めたくなかった。
「わかってるくせにー。石川さんのことだよー。部活でも顔合わすのにー、仲たがいしたままじゃいやでしょー?」
「そうそう、イッシーの言うとおり。早いとこ仲直りしとけって」
そもそも仲たがいなんぞしとらんのだが。
「そういう問題じゃなしにー。まあいいからいいからー」
「舞台は俺たちでセッティングしておくから。礼はいらないぞ?」
「……頼んでないのに……」
「じゃあー、水泳部の部室に行こうねー」
「は?練習に行くのか?」
「そうじゃなくて、石川さんはもう向かったぞ?」
「そうなのか」
意識して視界に入れないようにしていたので、タツミが教室からいなくなっていることにも気づいてなかった。
「何かと理由を付けて他の部員を追い出しとくからー。安心して二人きりで話し合いなよー」
「これほど信用ならない安心はないな」
「ど、どうして!?」
「お前らの今までの行動パターンを思い返してみろや!」
録画されたり録音されたりするのは当たり前。そんな頼れる親友たちに、俺は信用などという大層なものをしていない。……というか、これで信用しろという方が無理だ。
「……まあ、今回は録画も録音もしないぞ?」
「本当か?」
信用1%、疑い99%で聞き直す。
「本当だよー。たぶん」
たぶんってなんだ。確実にするなよ。
「でも旦那?その様子だと、話し合う気にはなったみたいだな」
「…………」
義人のくせに鋭い。
「バーカ、俺が何年旦那の親友やってると思ってんだ。やるときはしっかり決めろよ」
「うんうんー、応援してるよー」
……こいつらは。
「……ありがとな」
なんだかんだで俺のことを考えていてくれるんだな―――
「つきましては」
「ん?」
「この前のテープの販売について考えてるんだけどー、どう思うー?」
「アホなことを考えてるんじゃねえよ!」