第九話 部員
「浜口信也だ。自慢じゃないが、中学ではインターハイにも出場した。同じクラスだし、うまくやっていこう」
「タツミ、浜ちゃんの身体能力は異常だ。見ろ、あの胸の筋肉。下手な女子よりあるぞ。鳩の生まれ変わりじゃないかと俺は睨んでる」
「みっちゃん、何か俺に恨みでもあるのか」
恨みなどない。事実と俺の私見を言わせてもらってるだけだ。
「片山です。個人メドレーで大会には出てるから、しいて言うなら背泳ぎが得意かな。よろしくね」
「マサは甘いマスクに高い身体能力。女子の人気も高いらしい(石井調べ)。好きになるなら修羅場の一つや二つ、覚悟しておくことだ」
「人聞きの悪いこと言わないでよ。彼女いるし」
そうだったか。
「……田村。大会登録種目は個人メドレー。以上」
「田村は水泳部の一年で、石井と一、二を争うほど頭がいい。だから勉強のことは奴に聞け」
「どうして僕じゃ駄目なのー?」
「そういうなら見返りを求めるな」
教えてもらった代償に、噂話の実態を確かめさせるとかどんな拷問だよ。俺はそんな訓練受けてない。
「俺は松田。種目は平泳ぎだ。よろしくな、石川さん」
「松ちゃんは常識人と見せかけて、すぐに悪ノリするからな。気を付けろ」
物事を面白い方向にもっていこうとするのは、この学校の大半の生徒の習性であるのだが。
「……高城です。女子は少ないから、仲良くやっていきましょう」
高城さんの速さも化け物クラスだ……とは思うけど口にしない。女子にはできるだけ関わらないのが、日々を穏やかに過ごすための鉄則だ。
「あまりにひどいと旦那は突っ込むけどな。女子にも」
「なおくんってそういうポジションなんだね」
「あとは、顧問の先生が小倉さんだ。あんな怖い顔して筋トレマニアだが、水泳連盟では結構なお偉いさんらしい。高校球児だったのに」
その情報を石井に知らされた時は、野球部顧問の先生が急激に憎くなったよ。いや、小倉さんはいい先生だけどね?いかんせんメニューがきつすぎるんだよ。
「……とまあ、メンバー紹介はこんなところだな」
「せっかくだからー、親睦を深めるためにあれしようかー」
「あれってなに?」
「そうか、石川さんは知らんよな」
「旦那、教えてやれ」
ああ、そうだな。
「タツミ、今からみんなで遊ぶんだが、お前もやるか?」
「うん。なにで遊ぶの?」
「<エロ大魔王>だ」
「…………」
「……はっ!?違うぞ!?そんないかがわしいゲームじゃないからな!?」
俺から距離をとるタツミにそう言葉を投げかけるも、泣きそうな目で俺を見つめてくるだけだった。ジーザス!!この単語を使うべきではなかった!!
「旦那、気でも触れたか?」
「みっちゃんがセクハラをしようとするとはな……」
「へーんたーい」
「……嫌がらせも大概にすべき」
「先輩、最低ですね。石川先輩は先輩から離れた方がいいですよ。触れられたら、妊娠させられます」
「お前らそんなに俺が嫌いか!?フォローしようよ!してくれよ!!」
いつもみんなでやってるゲーム(大富豪の発展版。詳しくは前作を読んでください)なのに裏切るなよ!っていうか息ぴったりだなおい!!
その後、皆の妨害工作を受けながらも、距離の空いたタツミに事の次第を説明したのだった。
……お前ら、いつかこの屈辱は返してやる。