アラン、スイーツ大作戦!
試練には準備が必要と言うことで街に戻ってきた。一瞬で。
あの後、リム君は台座の後ろの壁まで俺たちを案内すると、壁石の一つをグッと押し込んだ。
ズズズという地響きと共に石壁がスライドすると奥は四角の小部屋になっていた。
地面には四角い台座が見え中には青い光が渦巻いており、一瞬で街まで転移できるとのこと。
渦は底が見えず、不安をかき立ててくれた。リム君が小さな体で精一杯胸を張って言っていたのを思い出す。
『さぁ、ボク――じゃなくて我の為に美味しいお菓子――じゃなくて供物を捧げよ!』
警戒していた俺の腕を掴んだアドによって、渦に飛び込むことになり、気がついたら城門の近くだった。
今までの苦労は何だったんだ。
俺はケツに火を付けてまでたどり着いたというのに……。
「さて、任せたぞアラン」
アドが手を上げて「じゃっ」とか良いながら街へと走り出す。
仕方ないなぁ。そんなに手伝いがしたいなら、させてあげよう。
逃走防止用に取りあえず頭を握っておこうか。
「いだだだだだだ」
リム君の好みは何だろうか。
小麦粉を練った生地を薄くのばしたスイーツなんかが流行なんだが、名前はなんて言っただろうか。
赤、緑、黄色といった色とりどりのフルーツに、白く甘いクリームをのせ両端を折るようにして包んだことで片手でも食べやすい。
リム君は見慣れない物にビックリしないだろうか。いや、むしろ喜んでくれるだろうか。不審がって食べてくれないとなったらショックだな。
扇形のスイーツは主に女性に人気があり「歩きながらでも食べやすくて美味しいスイーツ」なのだそうだ。
一度ココにせがまれて購入したことがあったが、なるほどと思った。
両端を折ることでクリームと色とりどりのフルーツが一緒に食べやすくなっている。
おまけに扇形にしたことで上から食べていけば、少しずつ下にずれていったクリームとフルーツを一緒に味わい続けることが出来る。
最後まで甘く幸せな時間が続く、とはココの談。
甘い物と言えばカスタが王道だろうか。
最近では栗やナッツ類を使った物も出てきているらしいが、俺は断然レッドベリーがのったショートカスタだ。
酸っぱいベリーと甘いクリームとスポンジと。
口の中に広がる甘さはまさに幸せと……さっきのスイーツと変わらないか?
いや、食感が違う。
さっきのは「ムニっ」とした食感で、スイーツを「食べてるッ」という満足感が得られる。
ココなんて落とさないよう両手でガッシリ握ったから、中身が飛び出しそうになってビックリして……ちょっと違うな。
まぁ、普通のスイーツのイメージだと、そこで崩れて台無しになるものだ。
しかし、ムニっとした食感。それは弾力がある証拠で。
手で持って食べ歩きが出来るほどのスイーツ、というのが珍しい。少なくとも他に持って歩けるスイーツを俺は知らない。
前者の満足感に対して、後者のカスタは「贅沢」というイメージだ。
ふわふわのスポンジに挟まれたベリーとクリームは、子供たちの胃袋を刺激し「食べたいなぁ」と思わせてくれる憧れの食べ物。
まだまだ俺たち一般人には気軽に手が伸ばせないものだが、物価が安くなってきた最近ではちょっと頑張れば食べられるものになってきた。
ココにねだられた時は冷や汗が出たものだが、値段を見て「何とか出来るかなぁ」と思えるようになっていたのは驚いたものだ。
ちなみに、ココがカスタを食べた際、
「なぜだ。口の中で消えたぞ!」
と驚いていたのが印象的だった。
ただリム君はココより若い精霊だから、カスタを知っているかもしれない。
そうすると新しいスイーツの方が……。うーん。
「アラン。俺、そろそろ禿げるぞ?」
そういえばアドの頭を握ったままだった。
手を離してやると、アドは涙目で頭をさすっていた。
「俺、思うんだけどさ」
「却下」
「適当に買っていって、ってオイ早いな!」
顎に手を当てて考える。
一番美味しく、御飯を食べる方法は何だろうか。いや、御飯じゃ無いけれど。
よし、決めた。
「買っていった物を渡しておしまいなんて面白くない。どうせなら巻き込んでしまおう」
「巻き込む?」
「あぁ。簡単に、自分で、しかも短時間で作れる。そして美味しい」
そして片手でも食べられる、楽しいスイーツ。
「リム君と、一緒に作るぞ」
こうして俺たちはスイーツのレシピを調べ、材料を手にリム君の元へ向かうのだった。