アラン、扉の前に到着する
落下した場所は洞窟みたいな暗くてじめじめしたところで、ここにも光源があった。
光る苔はこの洞窟に自生しているようだ。
おかげでたいまつの管理をしなくて良いので楽になる。
今回の落とし穴は深さはさほどでも無かったが、俺とアドを別々の場所に運んだようで、姿は見えない。
一緒に行動しなくて良いというのがプラスに働けば良いんだけど、まぁ、無理。
「……ホントに遺跡とか探検とか向いてないと思うんだが」
壁や床からトラップが作動した音が響いている。
明らかに近くの、別の場所で何者かがトラップを踏みまくっている音だった。
音が続く限り生きているのが解るのをプラスと捉えよう。
その振動によって壁や床にちょっとした異変を見て取ることが出来るので、簡単にトラップを回避していけるし。
あっさりとトラップを回避し、二股に分かれた合流地点に到着する。
一方は壁のような扉があり雰囲気を出していた。
もう一方が暗い洞窟が続いていて、アドが落ちたところに繋がっているのだろう。
野営の準備を整え、温かいスープを用意してボンヤリしていたところに。
「よ、よう。アラン」
アドが息を切らせて合流地点に到着した。
足下から、ココがひょっこり顔を出していた。
小さい手を上げ「やっ」と挨拶する。
「……アド。お前トラップ抜けるためにココを――」
「細かいことは気にしないっ。俺だって大変だったんだからねっ!」
知らん。
自分の過失を胸を張って言うな。
「取りあえずアドは戻ってトラップに頭かち割られてこい。ココは暖かいのあるからね」
「俺の扱いヒドイ!」
「妥当です」
被害者はこちらだ。
俺の隣まで走ってきたココにカップを渡すと、手頃な石の上に座りスープを飲み始めた。
「あつぃ」
「ちゃんとふーふーしてから飲みなさい。沸かし立てだから。アドはお湯を直呑みさせてやるから口開けな」
「ねぇ、俺に対する扱いホントにひどすぎない?」
「……何度か注意したが、直さなかったお前が悪い。あと、むやみやたらに力を使うなって言っただろ。ココにどんな影響があるか解らないんだ」
反省しろという意味を込め、コップの底でアドの頭を強めに叩く。
「……サーセン」
頭をさするアドに、ちゃんとスープを入れてやり、三人でひと息ついた。その時だった。
『いや、何くつろいでるんだアホ共ぉぉぉぉぉ!』
洞窟内に、少年のような声が響いた。
どこかエラそうな、上から目線の声。
『なんで宝物庫の前でくつろぐんだ。目的地ですよって書いてなきゃ解らないのかぁ!』
「ココが怯えるでしょ。だまりなさい」
『だ、黙れ?』
「む? 私がこんな小物に怯えることは無いぞ?」
『こ、小物……』
ココに小物扱いされたのが響いたのか、絶句しているのが解った。
まぁ、ココにとっては大概小物だろう。
「アラン。飲みきっちゃおうぜ」
コップの中に残っていたスープを飲み干すと、荷物を片付ける。
「アド、忘れ物は無いか?」
火を消して装備の点検をする。
『キサマ等……我を小物扱いして無事に――』
「おう。お前こそコップ忘れんなよー」
「アドじゃあるまいし」
「なんだとこいつー」
片付け終えたアドが俺のことを小突き始める。
『無視するとは良い度胸――』
「さて、行くぞアド」
「おう」
「私は出たままで良いか?」
「んー。危険だから戻った方が――」
『話を聞けお前等ぁぁぁぁぁ!』
声の主が絶叫すると共に、地面から土で出来た人形、ゴーレムが扉を守るように3体出現した。が。
「うるせっ」
アドが右目の眼帯を外すと、右目から強い光が発した。
「ココ!」
「うむ。私の力を見せてやろう」
右目の光が一層強くすると、薄く青い光がココの体を包み、ふわりと浮かび上がらせた。
ココが手を突き出すと、光が手のひらに凝縮されていった。
「アド、ココ。威力は加減するんだ。遺跡を壊すなよ」
「「おぅ!」」
ゴーレム目がけて、ココの手から光の渦が伸びた。
ジュっという、泥が焼ける音がしたかと思うと、扉を巻き込んでゴーレムを消し飛ばした。
「さ、行こうぜ、アラン!」
「行くのだ、アラン!」
『……バカな』
アドの右目に宿る精霊、うん千年生きたとうそぶくココの力を使って障害を排除し、宝物庫へと進入するのだった。