アラン。坂を転げ落ちる。
……一体何があったのか。
確か遺跡の入り口から落下し、ケツを打ったと思ったらそこは坂になっていて。
曲がりくねった坂を滑り、前後左右に揺さぶられながら遺跡を下に下にと進んでいたはずだ。
あまりにも長く進んで、というか滑り落ちていたからか、尻から火が出たかと思うほど熱くなったのまでは覚えている。
人間、あまりにも常識外れな事が起こると、逆に冷静になるもんだと思ったよ。
だからその時、俺が取った行動も、実に人間らしい行動だった。
足でブレーキをかけて立ち上がろうとし、天井に頭をぶつけた。
一度勢いは止まっていたが、頭をぶつけた衝撃で前後の記憶がハッキリしない。
「なにやってんだアラン」
俺は気がつくと、頭から川に突っ込んでいた。
……川?
「おい、なんでこんな所に川があるんだよ!」
「アラン。突っ込み所はそこなのか?」
……え、正しくない?
「あぁそうだったアド! お前またこんな罠に!」
「いや、自分もかかってるから。それに、どうやら此所が入り口で良さそうだぜ?」
アドが指で示した先には、道が続いている。
先の見えない真っ暗闇は、何処までも続く洞窟を……あれ?
「なんで、見えるんだ?」
「今かぁ」
アドはたいまつに火をつけるのが苦手だった。
というか火を起こすのが苦手で、主に俺が作業を担当していた。
何でも器用にこなすくせに、こういう所が抜けているため目が離せない。
世話のかかる子供のようなアドが、ようやくたいまつを……。
「アド、お前ちゃんと火がつけられるように――」
「うん。冷静じゃ無いんだね。了解しました」
アドに両手で肩を掴まれる。眼帯の無い目に涙まで浮かべて。
失礼な。俺はいたって冷静だ。
……あれ、おかしい。たいまつは何処だろう。
「よく見ろアラン」
アドに頭をつかまれ、上を向かされる。
そこには、薄く発光する苔が、辺り一面に群生していた。
「苔か。でもなんでこんなに」
「ココが、そういう場所なんだろうってさ」
ふむ。ココが此所がそうなんだと言ったのか。ややこしいな。
「精霊に反応して動く仕掛けだそうだ。上のトラップもコイツも、な」
「なんでそんな仕掛けが……」
「お宝を手に入れる為に資格が必要なんだろうってさ。俺等には資格があるってことじゃないか?」
なんか、アドに資格があるというのは納得いかない。
「最初の罠だってそのひとつらしいぜ?」
「アド。ココに言われて、選ばれたっていうのを穴に落ちた言い訳にしようとしてないか?」
俺の質問にアドが目線をそらした。
「オイ。なんで目をそらすんだ。この前も――」
「まぁまぁ、こんな所で立ち話も危ないし。先に行こう。な?」
「話をそらそうったって――」
「あぁそうだ。取りあえず尻隠すのが、先かな」
アドに指摘されて気がつく。
下半身がやけにスースーする。
おそるおそる触れてみる。
「っく、くそっ。ホントお前といるとろくな事が無い!」
ズボンが燃えた結果、ケツが丸出しになっていた。
取りあえず笑いをこらえているアドを蹴っておこう。