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桜色に彩られた日々  作者: 彩未
蕾 ーつぼみー
8/13

七話 桜と共に、散る涙。

「おはよう」


 教室に入ると、すすり泣きが聞こえてきた。

 俺の隣の席――つまり純の席には、たくさんの花が置かれている。クラスメイトたちが持ってきたのだろうか。

 花の他にも、純の写真や、キーホルダーなど、たくさんのものが並べられていた。

 それを、空虚な気持ちで眺める。

 悲しいはずなのに、何の感情も湧いてこない。


「純……っ」


 純と特に仲の良かったグループから、嗚咽が漏れた。

 ハンカチを目元に当て、互いに励ましあいながらも涙は止まらない。

 純との生前の思い出を、語り合っている。


 その光景は、授業が始まってからも変わることなく。

 放課後になっても、彼女たちは純のことを喋り続けた。



「純はっ、ドーナツが大好物で……っ」


 知ってる。


「よく、一緒に食べに行ったよね」


 知ってる。


「近所のドーナツ屋さんのメニュー、全制覇したって言ってたよね」

「うんうん」


 知ってる。


「でも、その中でも特に、ポンデリングが大好きでさ」


 知ってる。


 彼女たちの語る思い出は、全て俺も知っているもので。

 俺と純がそれほど親しかったのだと、改めて実感させられて。

 いたたまれなくなって、俺は教室を出た。


         ――***――


 向かった先は、いつもの場所だった。

 純との待ち合わせ場所の、大きな桜の木。

 桜の根元には、幾つかの花束が置いてあった。

 ああ、やっぱり。

 純はここで、死んだんだ。

 大好きな、この場所で。


 桜の木にもたれかかる。

 頭上を見ると、そこは一面の桜色だった。

 風が吹く。

 ひらりひらりと、花びらが儚く舞う。

 昨日だって、こうだった。

 ひらりひらりと花びらが舞う中、純を待ち続け。

 一昨日も、先週も、ずっと、そうだった。

 ずっと、続くと思っていたのに。

 桜の花びらが散っても、緑の葉になっても、葉が散っていっても、ずっと。

 この日常は、変わることなく続くと思っていたのに。


 何で、こうなってしまったんだろう。

 どこで、間違えてしまったんだろう。

 何で、純が死ぬ前に、気づいてあげられなかったんだろう。

 

 来るはずのない面影を待ちながら。

 俺は、この時初めて、純の死に対して涙した。 

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