四話 私の好きなものは、貴方の好きなもの。
「涼ちゃん!」
とてとて、と幼稚園の廊下を走る。
「純、何してるんだ。危ないぞ」
「大丈夫!」
ずてっ
そう返事しながら、私は盛大にこけた。その拍子に、手に持っていたものを落とす。
「あ!」
「大丈夫か、純」
涼ちゃんがそう言いながら、私が落としたものを拾い上げた。
それは、桜の花びら。強く握りしめたせいで、形が歪んでしまっている。
「これ、桜!」
泣きそうになりながら、私は涼ちゃんにそう説明した。
「さくら?」
「ほら、私の家に咲いているやつ!」
「あぁ、あれか」
「うん!お母さんが言ってたでしょ、えっと……」
「人生を彩る花、って?」
「そう!えっとね、桜は見るだけで人の心に彩りを与えてくれるんだって!」
「ああ、確かに綺麗だもんな」
私のお母さんと私は、家に咲いているからか桜が好きだった。 桜のことを、まだ字も読めない私にたくさん説明してくれた。
だから、桜のことならたくさん知っている自信がある。
「涼ちゃんも、桜は好き?」
「うーん。普通、かな」
「えええっ!じゃあ、私のことは好き?」
「うん」
「じゃあ、桜も好き!」
「どういうことだよ」
「私の好きなものは、涼ちゃんの好きなもの。好きなものを共有したいと思うのは、ダメ?」
「また春さんの受け売りか」
「いいから!桜のこと、好きになった?」
「そうだな。純も桜も、好きだ!」
それから、桜は二人の大切な花になった。