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⑨中央道の魔女

 二〇一三年四月一〇日、午前三時五〇分。中央自動車道八王子本線料金所――。

 濃霧の影響により、通行止めになってから七時間以上が経過した。

 現状では規制解除の予測は、全く立てられない状況だった。

 高井戸と大月の間は白一色のガスで埋め尽くされ、通行車両の姿は依然として途絶えたままになっていた。

 八王子ゲートの管理事務所では、気の合う収受員たちがモニター画面の前に集まり、一五年以上前の中央道伝説に花を咲かせていた。

 語り手は年長者の盛田で、椅子を並べて聞き入っているのが浅井、長尾、太田、広瀬、そして小室の五人である。

「管制センターが一方的に流す道路情報も相変わらずだけど、要は霧が濃すぎて進展なしということだよな。不気味なことの前兆かも知れない。おまえら二人を見ているとそう思えてくる」

 椅子に座ろうとしない広瀬は、浅井と長尾に目を向けた。

「大丈夫だからここに来て座れよ。広瀬、考えてみろ。朝までこの霧が続くよう祈っておく方がましだろう。仕事嫌いのおまえもその方がいいはずだ」

 浅井は、薄笑いを浮かべている。

「そうだそうだ。肩でも揉んでやるからこっちへいらっしゃい」

 長尾は、広瀬のために椅子を引き寄せた。

「広瀬、安心しろ。浅井も長尾も悪気はなかったはずだ。さっきおまえが言った不気味なことの前兆と言うのは、まさしく今度の物語だよ。それでは始めるとするか」

 この一言で、モニター画面を見ていた太田と小室がようやく振り返った。

 お茶を一口含んだ盛田は、笑みを浮かべ語り始めた――。


 一九九八年三月一〇日は、一日中春一番が吹き荒れていた。

 CL明石支店のプラットホームに運行車両が並び始めたのは、普段通り一七時を回ったころだった。

 給油を済ませた水戸陸運の黒木と石井は、すでに所沢と埼玉の番線に並んでいた。

 二人は運行ミーティングが始まるまでの僅かな時間を利用して、運転席周りの拭き掃除に余念がなかった。

 後方視界を良くするため、特に左右のサイドミラーは入念に磨き込まれた。

 810のワイパー三本を交換した石井は、隣の番線に目をやった。そこには、プロフィアのフロントタイヤに点検ハンマーを突き刺し、根気よく小石を取り除いている黒木の姿があった。

「春は何をやっても楽しそうだね。あれっ、夏タイヤに履き替えたのかい?」

 石井は、運転席から黒木を見下ろした。

「石ころを取り始めたら止められなくて……。そういう先輩も夏タイヤみたいですね」

 黒木は点検ハンマーで、取り除いた小石を叩き始めた。

「今度はモグラ叩きだね。こっちに来てからずっと夏タイヤだよ。お守りの鎖もあるし、埼玉定期には必要ないさ。あんたもそうだろ」

「そんなところです。限界速度が低いという理由で、本田さんも履いていなかったそうです」

「本田さんかー。そう言えば最近見かけないけど、相変わらず激走しているのだろうね」

 石井は、サイドミラーを拭き始めた。

「少し前、境川パーキングで停まっているときに見ました。二条倉庫の二台の本気で走りは本当に速かったです。下り線の一宮御坂インターを過ぎた長い直線で、猛スピードで近付いてくるときの勢いは新幹線そのものでした。三〇〇近くは出ていたと思います。真の走り屋の前にしか現れない白い光、中央道の神様は最高でした。ところで先輩、あの二台ですが、きまって網掛トンネル東口で姿を消すと思いませんか。過去と未来を繋ぐという噂に何か関係が?」

 黒木は、点検ハンマーを回し始めた。

「危ないね……。あの付近で事故に遭ったトラックは、ひとまず網掛トンネル東口の臨時駐車場に仮置きされるみたいだね。だから、あそこが散っていった走り屋たちの車庫になっている、と名代さんに聞いたことがあるよ。どうにも嘘っぽいけどさ。それにしても恵那山トンネルが怪しい気がする、間違いなくそれだね。あそこには女の霊が棲んでいるという噂があったけど、二条倉庫の二人にしても怖いものがあるのさ。あれだけ長かったら幽霊が何人いてもおかしくないよ。これも確か名代さんだったけど、何だかねー」

 石井は、サイドミラーに映った自分の顔をうっとりと眺めた。

「先輩、鏡の中に女の霊がいますよ……。すみません、話を変えます。その恵那山トンネルですけど、走っているとき歌声が聞こえたりしませんか?」

 黒木は恐る恐る、石井の顔を覗いた。

「よく見てごらん! 鏡に映っているのは絶世の美女だよ。だけどあんたの場合、スピード出し過ぎの風切音かも知れないね。普通に走ったら聞こえなくなるさ。そう言えば最近、恵那山トンネルの悪口がやたらと多いけど、それこそ女の霊でも見てしまったとか、取りつかれたとか、あー、お気の毒に」

 石井は、小声で笑った。

「やめてください。そんなものどこにもいませんよ。歌声は普通に走っても聞こえますし、しかもはっきりと聞き取れます。本当です。あの歌声からして相当美人かも……」

 必死に訴える黒木のトーンは、徐々に下がった。

「黒木、とうとう聞いてしまったようだな。厄介なことになるぞ。それは中央道の魔女だ」

 運行者ミーティングの誘いにきた名代が、二人の会話に割り込んできた。

「中央道の魔女って、いったい何者ですか?」

 黒木と石井は声を揃えた。

「走り屋に憑くのが中央道の神様で、その神様に憑くのが中央道の魔女って訳だ。黒木が聞いたのは魔女の囁きだろう。今日からでも遅くない。しばらくは東名に回った方がいいかも知れないな」

 名代は振り返りながら、「ただの噂話だ。気にするな」と言って先を歩き始めた。

「本当に魔女だったりして……。そんな訳ないですよね。先輩。この話も嘘っぽいですか?」

 黒木は、石井の顔を覗きこんだ。

「嘘っぽいなんて誰が言ったのさ。名代さんの言う通り、間違いなく魔女だよ。凄いのが出て来てあんたも大変だね。ほら、杉田さんが待っているよ」

 慌てた様子の石井は、黒木の肩を叩いた。

 二人が来ると同時に、杉田はミーティングを始めた。

「みなさん、ご苦労様です。年度末を迎えるこの時期は、毎年のように物量が増えてきます。当然のことですが、通常の引っ越しに溢れた単身用の荷物も増加傾向にあります。車両事故はもちろんのこと、誤発送や荷札の紛失など、荷役トラブルには十分注意するよう心がけてください。特に荷札の宛名確認は念入りにお願いします。今日の出発予定時刻は、二〇時三〇分です。ご安全に!」

 運行管理の仕事が板についてきた杉田は、手短なミーティングを終わらせた。

 関東ブースに戻った黒木と石井は、互いの番線で黙々と作業を続けた。

 荷室の八割程度まで積込みを終えた黒木は、埼玉の番線に向かった。

「さっき名代さんが言っていた魔女の件ですけど、何だか気持ち悪くなってきました。先輩、お願いですから前を走ってもらえませんか? 根っからの女子の私には荷が重すぎます」

 か細い声で話し掛けた黒木には、神妙さのかけらもなかった。

「なに寝言っているのだか、顔だけ弱々しい素振りをしても無駄だよ。あんたにはまったく似合わないね。それともいっその事、名代さんと東名でも走るかい? 一〇〇パーセントなさそうだね。そうだ、この妙な荷物だけど、所沢の住所になっているから頼んだよ」

 住所確認をした石井が、黒木に手渡した。

「バレバレでしたか。それと東名だけはご勘弁を……。先輩、この荷物は明日発送のようですよ。杉田さんに聞いてみます。なんだか魔法の木箱みたいですね」

 古めかしい木箱だった。杉田に問い合わせたところ、結局残すことになった。

『今流れている書類コンテナが最終荷物です』構内放送が流れた。

 仕分けコンベア操作員からの終了宣言を境に、最後の荷物が流れ着いた各番線は卸売市場のように活気づいた。

 ホームの上では出発と到着の準備が同時進行になり、追い込み作業を始めた運行者と、仕事を済ませて早く帰ろうとする集配者が無秩序に走り回った。

 所沢線が伝票重量八トン、埼玉線が伝票重量九トンの運行伝票を手にした黒木と石井は、観音ドアを閉めてアイドリングを始めた。

 ホームの上からCLの社員たちが、二台の後ろ姿を眺めている。

 観音ドアに描かれた白一文字が、水戸陸運の存在感を際立たせた。

「黒木と石井のコンビも、真面目に頑張っているみたいだな」

 事務所の窓から、腕組みした田辺が見ている。

「あの二人、結構やりますよ。感もいいし、何より男勝りですから」

 帰ろうとしていた杉田が、腕組みして答えた。


 二〇時二〇分、CL明石支店のプラットホームから次々に運行車両が離れていく。

 出発体制の整った黒木が左手を上げた。

 石井は軽めのクラクションを叩き、セカンドギアにクラッチを繋いだ。

 ゆっくりと動き始めた810に、プロフィアがぴたりと張り付いた。

 明石支店を出発していく二台の助手席では、熊のぬいぐるみが魔除けの顔で睨みをきかせていた。

 阪神高速神戸線に、テールランプの赤い帯が伸びている。

 西宮ジャンクションから左に逸れた明石発の二台は、浜風に押されながら名神高速へと進路を変えた。

 カーブを回った先の料金所には、水戸陸運の通過を心待ちにしている係員の姿があった。

 二一時〇〇分、石井と黒木が横並びで西宮ゲートに入ってきた。

「よっ、白一文字。渋いね」と粋な言葉をかけた係員に、「バイバイ。またね」と石井が返し、黒木は左手を上げた。

 力強い加速を始めた石井の810に、黒木のプロフィアがぴたりと張り付いた。

 吹田ジャンクションを通過した後、中国道から合流してきた路線の走り屋たちが、黒木の後ろに群れを成して張り付いた。

 虚しいだけの団子レースが、いつもの場所でいつものように始まった。

 石井と黒木が引き離しにかかろうとしたとき、京都東インター付近で始まった激しい混雑が、本線停止まで引き起こしてくれた。

 今夜も水戸陸運の二台は、思うように走れなかった。

 滋賀県内を通過していく二台は、一五〇に抑えた速度で流している。

 サイドミラーを覗いた石井は、後ろの様子が気になり、携帯電話の発信ボタンを押した。

「うるさくなってきたようだね。二流の走り屋なんか相手にするんじゃないよ」

 石井は、黒木を諭した。

「分かっています。関ヶ原を過ぎるまで待っています。その時が来るまで……」

 黒木は、素直に従った。

 米原ジャンクションを通過するころになると、白一文字に群がった走り屋たちが激しい追い上げを見せてきた。

 三九二キロポストでレーダーの危ない視線をかわしたとき、下り勾配の先に関ヶ原インターまで伸びる直線がクリアになった。

「黒木、準備はいいかい? ここから先は本気だよ!」

 石井は、アクセルを軽く踏み込んだ。

「了解です。待っていました。先輩、いつでもどうぞ」

 携帯電話を置いた黒木は、真顔になっていた。

 石井の810が急加速を始めた。

 黒木のプロフィアも、シャープな動きでぴたりと張り付いた。

 二〇〇を超えるスピードで走り始めた二台のサイドミラーには、二流の走り屋たちに代わって関ヶ原の暗闇だけが映っていた。

 養老サービスエリアから一宮インターまで続く長い直線を、二人はアクセル全開で走り続けた。

 瞬く間に流れ行く中部の夜景を見ながら、三四一キロポストの東名と中央の電光掲示板を通過した。

 文字の消えた掲示板が、平穏無事の道路情報を教えてくれた。

 二三時一〇分、小牧ジャンクションから左へ逸れた810とプロフィアは、さりげなく中央道に流された。

 石井のうしろに黒木がぴたりと張り付き、二台そろって内津峠の坂道を駆け上った。

 黒木の携帯電話に、着信音が流れた。

「黒木、恵那山トンネルまででいいだろ。あんたに張り付かれたら、ぞくぞくして落ち着かないよ」

 石井は後ろの様子を窺いつつ、右足に力を込めた。

「分かりました。それでは網掛トンネルの中で入れ替わりましょう。

先輩に魔女の歌声を聴いてもらうには、前列のほうが特等席ではないかと……」

 後ろの黒木は、軽いパッシングをした。

「よく言うよ。何でも聴いてやるから、もう少しだけついてきな」

 石井は、ハザードを一度点けて携帯を置いた。


 二人が攻めの走りで恵那インターを通過したとき、前方に見慣れたグレートのテールランプが突然現れた。

 水戸陸運の二人が追いついて来るのを見越したように、摩耶急送の斉藤が、追い越し車線で余裕の走りを続けていた。

 一先ず斉藤の後ろに並んだ石井と黒木は、軽めのパッシングを放ち、走行車線から斉藤の左横に並び、ハザードを点けてゆっくり追い抜いた。

 二人に先を譲った斉藤は、黒木の後ろに素早く連なった。

 摩耶急送の斉藤絵里は黒木と同じ二七歳で、去年の一二月から守川に代わって所沢定期を走り始めた女性ドライバーだ。

 三菱グレートL‐6ターボ七速、四三〇馬力の仕様に乗っている。

 岐阜県内を通過して行く三台は、二〇〇オーバーの速度で走り続けた。

 石井を先頭に黒木と斉藤が連なり、中津川インターをフルスロットルで走り去った。

 走り屋の三人組は、軽快な足取りで神坂パーキングの急坂を一気に駆け上がった。

 不気味な照明を灯して待ち受ける恵那山トンネルに、CL協力会の三人は一斉に飛び込んだ。

 隊列を組んで走る三台が、二七三キロポストを通過したときだった。

 それまで薄暗かった照明が、スキャンされているように眩しくなった。

 感覚を惑わせるほど光り輝くトンネル内で、突然一台の赤いバイクが石井の前に現れた。

 追い越し車線を一七〇くらいの速度でゆっくり走るバイクには、赤いスーツに赤のフルフェイスという赤ずくめの恰好をしたライダーが乗っている。

 バイク特有の排気音が狭いトンネル内で振動に変わり、挑発的な吐息となって三台の運転席で響き始めた。

 走行車線のまま加速を始めた石井に、黒木と斉藤はぴたりと続き、赤いバイクの追い抜きが済んだとき、眩し過ぎる恵那山トンネルからようやく解放された。

 網掛山を見上げ、溜息をつきかけた石井の携帯に着信音が鳴った。

「石井さん、大変です。黒木さんがいなくなりました」

 斉藤が電話口で叫んだ。

「あんた、黒木のすぐ後ろにいたよね? サイドミラーには二台とも映っていたけど……。目の前にいたはずの黒木が急にいなくなるとは、いったい何があったのか言ってごらん」

 声を荒げた石井は、トンネル内でプロフィアの光を見失っていた。

「さっきのバイクです。黒木さんは赤いバイクを追いかけて行きました」

 斉藤は、まごついた。

「分かった。網掛トンネルを出た所の臨時駐車場に入るよ。斉藤、ついておいで!」

 フットブレーキを長めに踏んだ石井は、広い駐車場に滑り込んだ。

 アクセルを緩めた斉藤も、同じように石井の後を追った。

 810とグレートを本線沿いに停め、外に出た二人は互いに駆け寄った。

「黒木はすぐ後ろにいたはずだけど……。それがどうしてバイクの後ろなんかに?」

 石井は、斉藤に詰め寄った。

「トンネルに入ってすぐに現れた赤いバイクから、『後ろをついてきて!』という女性の声が聞こえました。それからいきなり黒木さんが追い越し車線に出て、赤いバイクの後ろに回り込みました。わたしは止めようとしたけど、金縛りのように体が動かなくなり、結局恵那山トンネルを出てくるまで石井さんにパッシングをすることも出来ませんでした。すみません」

 斉藤は、淡々と語った。

「女性の声なんか全然聞こえなかったよ。なんであんたにだけ聞こえたのだろう? 不思議なこともあるものだね」

 首を傾げ、腕組みをしていた石井が急に耳を澄ませた。

 そのとき一筋の風と共に、高回転の過給機音がトンネルの出口から響き始めた。

 二人が話し込んでいるすぐ横の本線を、二条倉庫と水戸陸運のプロフィアがハイスピードで通り過ぎて行った。

「あれは……、本田さんと黒木だったよね。何処にいたのだろう? 斉藤、行くよ」

 運転席に乗り込んだ石井は、臨時駐車場からフル加速で本線に飛び出して行った。

「中央道の神様、本田さん……」

 なぜか照れている仕草の斉藤は、ゆっくり加速を始めた。

 本線に戻った石井は、前方を走る本田と黒木のテールライトを必死に追いかけた。

 結局二台を捉えたのは、伊那インターを過ぎてからだった。

 先導する本田が車速を二〇〇付近まで落としたことで、石井は差を詰めることができた。

 すぐに携帯電話の発信ボタンを押した。

「やっと追い付いたよ。もっと早めに緩めてくれなきゃ。それに電話もね」

 石井の口元から、ため息が漏れた。

「先輩、すみません。何度も掛けたのですが繋がらなくて……」

 黒木の声は、申し訳なさそうだった。

「もういいよ。ところであんた、間違いなく後ろに張り付いていたはずだよね。どうしてこんなことに?」

「あの赤いバイクです。『後ろをついてきて!』と言う女性の声がしたと思ったら金縛りになってしまい、勝手に赤いバイクの後ろを走り始めました。しばらく行くと、なぜかトンネルの中に分岐があって、先輩たちとは反対の右側へ進みました」

 黒木は、一呼吸入れた。

 春の香りに包まれた岡谷ジャンクションを、二条倉庫九四‐五一が流れるように走り去った。

 フルスロットルの黒木と石井が後ろに続き、少し遅れて斉藤が走ってきた。

「あんたら二人とも同じことを言っているけど、女性の声も分岐も、全然分からなかったよ。妙な話だね」

 石井は、どうしても納得がいかなかった。

 黒木は更に続けた。

「バイクに先導され分岐を右に進むと、恵那山PAと書かれた今まで見たことのないパーキングに迷い込みました。金縛りが解けて体の自由が効くようになったのも、がらんとしたその場所に着いてからでした。赤いバイクは目の前で停まり、〝佐々木〟というネームが入った赤いスーツのライダーがヘルメットを脱いで降りてきました。声の通り、女性でした。結構若かったと思います。

 佐々木は、『トラックの荷台に載っている木箱を引き取りに来たから、早く降ろしてほしい』と言って近寄ってきました。そのときです。さらりとした風が駐車場を吹き抜け、二条倉庫九四‐五一が猛スピードで入ってきたのです。佐々木は本田さんの姿を見るなり慌ててヘルメットをかぶり、バイクに乗って走り去りました。もし本田さんが来てくれなければ、わたしは出口が分からず、まだあの駐車場にいたと思います。山桜の花びらが舞い散る風景は、佐々木という女性同様すごく綺麗でした。ところで先輩の後ろにいた斉藤さんのグレートが、前から後ろまで真っ赤に見えていました。何度見ても真っ赤でした。変だと思いませんか?」

 黒木の口調は、夢話でもしているかのようだった。

「やけに照明が眩しかったから目の錯覚で真っ赤に見えたとしても、パーキングに桜か、まったく恵那山トンネルでは何が起こるか分からないよ。普通じゃないね。しかしその佐々木という女性ライダーだけど、何で積荷のことを……。それに木箱って、明石に残してきた古めかしいやつのことかな? なんだか不気味だね。ところで、斉藤は……」

 急に思い出した石井は、サイドミラーに目を凝らした。


 二条倉庫九四‐五一が、長坂の勾配を滑るように下りていく。

 黒木と石井が少し遅れて続き、その背後には遅れ気味だった斉藤が強風を巻き上げ、徐々に距離を詰めてきた。

「先輩、八ヶ岳の吹き降ろしが妙な具合になってきました。魔風かも知れません。でも本田さんを追ってこのまま突っ込みます」

 語気を強めた黒木は、加速を始めた。

「そうさ、魔風に怯むんじゃないよ。思い切って突っ込みな! あんたも一端の風切りびとだろ」

 即答した石井もアクセルを踏み込んだ。

 意を決した水戸陸運の二台が、二条倉庫を追ってコーナーに侵入したとき、遥か後ろにいたはずの斉藤が、石井の後ろにぴたりと張り付いた。

 九四‐五一はアクセルを緩めることなく、二〇〇オーバーの速度で須玉の最終コーナーを曲がって行く。

 黒木と石井は、徐々に離され始めた。

 ここで突然斉藤が、自殺行為に出てしまった。

 瞬く間に石井と黒木の右横をすり抜け、九四‐五一のテールめがけて猛ダッシュをかけた。

 二台の差はすぐに縮まり、まるで後ろから突き飛ばすかのように、九四‐五一の背後に斉藤が張り付いた。

 カーブの出口へ向けて突き進んでいく二台に、黒木と石井は全く追い付くことができなかった。

 限界を超えてまで本田を追いかけようとする斉藤の無謀さを、二人は冷静な眼差しで見つめ、悲惨な結末を想像した。

 魔のカーブを曲がりきる寸前、膨らみ過ぎた二台が中央分離帯に接触しそうになった。

 黒木が『やばい』と思った瞬間、九四‐五一が不意にフルブレーキを掛けた。

 ホイール中央のドラムは真っ赤に染まり、焼け焦げた白煙が白い車体を包み込んだ。

 九四‐五一の速度は姿勢を乱すこともなく、一五〇以下まで一気に落ちた。

 張り付いていた斉藤は行き場がなくなり、急ハンドルで九四‐五一をかわすと、そのまま反対車線に飛び出し須玉の暗闇に消えた。

 猛追していた黒木と石井も思いっきりブレーキを踏んだ。

 同僚のクラッシュを目の当たりにした二人は、九四‐五一が残して行った白煙に巻かれながら、目を覆うような惨劇にハンドルを握りしめるだけだった。

 失速していた九四‐五一に黒木と石井が追いつき、三台揃って最終コーナーを立ち上がってきた。

 須玉インターを過ぎたとき、黒木の携帯に着信音が響いた。

「お疲れさま。二条倉庫の川野です。あれは斉藤さんではありません。恵那山トンネルに棲みつく中央道の魔女が、斉藤さんになりすましていたのです。最近動きが活発になった魔女は、恵那山トンネルの外に出てくるようになりました。魔女の狙いは本田さんです。夜の中央道に君臨するための手段として、本田さんが必要なのでしょう。神聖なる夜の中央道から、悪者を追放しなければなりません。魔女は赤いグレートと、赤いバイクに乗っています。斉藤さんは、すでに八王子ゲートをくぐりました。安心してください」

 熱く語った川野は、今日もいきなり通話を終えた。

 斉藤になりすました魔女は、赤いグレートに乗っていた。

 斉藤のグレートが赤く見えたのも、そのせいだった。

 黒木は、通話内容をすぐさま石井に伝えた。

「悪者ねー……。何となく斉藤の様子が変だとは思ったけど、それにしてもびっくりしたよ」

 首を傾げた石井は、サイドミラーを眺めた。

 先頭を走る白いプロフィアが、二〇〇を遥かに超えた速度で韮崎インターを通過した。

 水戸陸運の二台が、フルスロットルで連なっている。

 電光掲示板は一瞬にして、『さあ一緒に走りましょう!』の表示へと差し替えられた。

 黒木と石井が釘付けになっている間に、白いグレートがさらりとした風を巻き上げ、猛スピードで二台の横を追い抜いて行った。

 一瞬の出来事だった。

「見事だね……」

 石井は、ルームミラーの自分に語りかけた。

「中央道の魔女か。もしかすると本田さんより速いのでは……」

 黒木も一人つぶやいた。

 一九‐六〇の川野はハザードを点けながら、九四‐五一の前に躍り出た。

 二条倉庫の川野を先頭に本田が続き、その後ろから水戸陸運の黒木と石井が連なった。

 中央道最速の隊列を組み上げた四台は、春色の葡萄畑が広がる甲府の街をアクセル全開で駆け抜けた。

「なあ鈴木、葡萄色の街に白い光が現れたぞ」

 佐藤は、双眼鏡を置いた。

「そうだな。白い光を風切りびとが追っているようだ」

 鈴木は、双眼鏡を覗いた。

 双葉サービスエリアの高台では、山梨県警高速隊の佐藤と鈴木が、今夜も本線を見下ろすだけだった。


「意外にあっけなかったけど、魔女はもう終わったのかな?」

 モニター画面を覗いていた太田が、いきなり切りだした。

「いいえ。また出てくるでしょう。中央道の魔女と言うくらいですから、そう簡単には消えたりしませんよ。きっと神様より手強いかも知れません」

 小室は、ちらりと盛田の方を見た。

「小室、魔女のことならこれからの展開に期待していてくれ、徐々に分かってくるはずさ。それでは続きを始めるとするか」

 白い歯を覗かせた盛田は軽く首をまわし、ゆっくりと語りはじめた――。


 二〇〇オーバーを維持する一流の走り屋たちは、勝沼インターの坂道を瞬く間に駆け上がり、笹子トンネルを抜けた後の小刻みなカーブも軽快なフットワークで走り去った。

 夢のような走りに熱中していた黒木と石井は、先行している二条倉庫の二台を小仏トンネルの中で見失った。

 中央道の神様とはぐれた二人の前に、長距離トラックがひしめくにぎやかな料金所が見えてきた。

 八王子ゲートをくぐった水戸陸運の二台は、過給機の熱を冷ます走りに変えた。

 首都高速へ進む石井のテールから短いハザードが光り、軽いパッシングを返した黒木は、国立府中インターの減速車線に進路を変えた。

 国道二〇号線から府中街道に入った黒木は、所沢方面に向けて北へ進んだ。

 三月一一日午前三時、CL所沢支店のプラットホームに明石出発の水戸陸運が入ってきた。

 黒木はプロフィアの観音ドアを開け、てきぱきとホームに着けた。

 運行伝票を持って降りてきた黒木を、おれは笑顔で出迎えた――。

「来たな、走り屋。府中街道の工事に付き合わされたのだろう。大変だったな」

「おはようございます。普段の倍ほどかかりました。ところで斉藤さんは来ましたか?」

 黒木は、ハイテンションだった。

「他の運行者と一緒に食堂だと思うよ。荷下ろしが済んだら休憩にでも行くか!」

 おれは仕分人たちを呼び集め、伝票重量八トンの積荷を軽くさばいた。

 黒木は、空車になったプロフィアを駐車場に移動し、それから二人で食堂へ向かった――。

「お疲れさま。まだ熱そうだけど、今日も気合を入れて走ってきたでしょう? 元気だね」

 いつものメンバーとテーブルを囲み、コーヒーを飲んでいた斉藤は、黒木の顔を見るなり声を掛けてきた。

「おはよう。まあね……。斉藤さん、いきなりだけど恵那山トンネルの中で妙なことはなかった?」

 黒木は、斉藤の顔をまじまじと見た。

「んー、どうだろう。わたしの顔に何か……。これと言って何もなく順調だったかな。どうかした?」

「間違いなく斉藤さんだよね……。あっ、ごめんなさい。多治見インターを過ぎた所で斉藤さんに追いつき、それから三人で走り始めたのだけど……」

 黒木は、焦っていた。

「わたしは斉藤です! そんなことあり得ないでしょう。石井さんにも黒木さんにも会っていないし……。もっと分かり易く説明してくれるかな」

 斉藤は、目を丸くしたまま首を傾げた。

「ごめん。初めからちゃんと説明する。少しややこしいけど、この話には斉藤さんがもう一人いた、と言うことで聞いてね。恵那山トンネルで赤いバイクを見てから、三人揃って不思議な体験をした。気が付いたらもう一人の斉藤さんが、須玉の最終コーナーでクラッシュするという不気味な出来事まであった。このとき斉藤さんになりすましていたのは中央道の魔女で、真っ赤なグレートに乗っていた。そこで質問だけど、何か思い当たることはない? どんなことでもいいから」

 落ち着いてきた黒木は、状況を知らない斉藤にも分かるよう、事のあらましを説明した。

「なんだか映画みたいな話だね。そうだ、恵那山トンネル入り口の路肩に停まっていた大型バイクの横で、じろじろ見ていたライダーがいたけど、もしかしてそれが中央道の魔女という訳? 信じられないな」

 黒木の話を不思議そうに聞いている斉藤は、まだ完全に理解していなかった。

 それまで隣のテーブルに座っていた伊藤が、中央道の魔女と聞いて徐々に身を乗り出してきた。

「これは面倒なことになったな。あいつは美人で手強いぞ。まあそれは関係ないとして、もしかすると二条倉庫の二人より速いような気がするよ。どうも最近あの二人、影が薄くなっただろ」

 伊藤は、黒木と斉藤の間に腰掛けた。

「近いですね……。伊藤さんも見たのですか。魔女の素顔?」

 声を揃えた黒木と斉藤は、少しだけ椅子をずらした。

「そんなに逃げなくてもいいだろ。おれの知っているドライバーに間違いなければ、一度だけ会ったことになるが……」

 両手に花の伊藤は、何食わぬ顔で続きを語り始めた。

「あの当時本田同様、中央道の神様を追いかけ、二〇〇オーバーで疾走していたドライバーの中に、前から後ろまで赤一色のグレートに乗った女性がいた。あの日、どういう絡みからそうなったのか知らないが、その女性ドライバーが本田を猛追していたとき、恵那山トンネルの中で体調を悪化させたみたいで本線上に急停止してしまった。

 おれと守川さんは二人の後ろを走っていてそれに気付き、救急隊に連絡した。だが佐々木と言うその女性ドライバーは気の毒に、トンネルの中でそのまま息を引き取ってしまった。早咲きの山桜が散りかけのころだったよ。

 それから恵那山トンネルを疾走する走り屋の間に、女の幽霊が出るという噂が広まるようになった。赤いグレートがバトルを仕掛けてくるという者もいれば、赤いバイクに進路妨害をされたという者、さらには女性の歌声が聞こえると言い出す変わり者までいたが、おれたちはただの噂話だとしか思っていなかった。ましてそれが魔女などとは考えもしなかった。結局おれと守川さんには魅力がなかったのか、それとも見逃してくれたのか……。いずれにしろ、幽霊より厄介そうなことには違いなさそうだ」

 伊藤は、魔女について色々と知っているようだった。

「ちなみに、わたしも歌声を聞いた変わり者の一人ですけどね。伊藤さん、亡くなった赤いグレートの女性ドライバーは佐々木と言う苗字に間違いありませんか?」

 口を尖らせた黒木は、伊藤を見据えた。

「あぁそうだ。最後にそう言った。歳は二〇代前半で、とにかく綺麗な顔をしていた」

 即答した伊藤は、微妙に視線を外した。

「恵那山トンネルで赤いバイクと出会ったのですが、乗っていた女性ライダーも佐々木でした。歳は同じくらいだし、たぶん赤いグレートのドライバーとは同一人物のはずです。きっとそれが魔女ですよ」

 黒木は自信を持たせた。

「いや違うな。仕分人のおれたちが実際に関わった佐々木のことだから、ありのままを喋るよ」

 三人の話を黙って聞いていたおれは、ここで事のあらましを言うことにした――。

「赤いトラックのドライバーと、赤いバイクのライダーは、双子の姉妹だよ。トラックの方が姉の佐々木佳代で、アパレルブランドの専属車両、バイクの方が妹の佐々木麻代で大学生だった。妹の麻代は、この所沢支店に伝票入力のアルバイトにも来ていた。あるとき支店止めで到着した衣類の引取に、姉の佳代が赤いトラックに乗ってここへ訪ねて来たことがあった。ちょうどそのとき運行で来ていた本田と出会い、夜の中央道を二〇〇オーバーで走っている本田の速さを知った。それから姉の佳代は本田を追いかけるようになった。

 妹の麻代の方は以前から本田に好意を持っていたようで、おれも何度か本田の人格についていろいろ聞かれたことがあったよ。知っていることは全部教えてやったさ。最初は姉の佳代も本田に対してライバル心だけだったが、そのうち次第に魅かれる様になったみたいだ。本田にしてみれば一度会って雑談しただけだったから、佳代のことなどすぐに忘れてしまった。あいつは元々そんなことより、夜の中央道で記録更新を果たすことだけを考えていたから、佐々木姉妹の一目惚れと片思い、要するに淡い初恋で終わってしまったのだろう。恵那山トンネルの中で、姉の佳代が病死したことを聞いた妹の麻代は、大学とここのバイトを辞めて行方不明になってしまった。それから三年の月日が過ぎた先月のこと、麻代が赤いバイクに乗って突然ここへやって来たんだ。おれたち、麻代のことを心配していたから、懐かしさも手伝って世間話を始めた。麻代がなぜか本田のことをしきりに聞いてくるから、本田は阿智谷で散ったよ、残念だけどもういないんだ。でも中央道の神様として二条倉庫に乗っているらしいと伝えたら、にっこり微笑んでそのまま帰ってしまった。

 どうもそのときに、恋心がまたくすぶり始めたのかも知れない。あとから分かったことだけど、姉の佳代が息を引き取った恵那山トンネルの非常駐車帯に、妹の麻代は赤いバイクで毎日乗り付けていたようだ。そしてつい最近、その近くにある作業用通路でミイラ化した麻代の遺体が発見された。そのときの服装が赤いライダースーツに赤いフルフェイスだったと言うことを、おれたちは休憩時間に見ていたテレビの深夜番組で知って驚いた……。さすがに、血の気が引いたよ。だって麻代がここへ来た次の日だし、おれたちが見た幻影に臨場感があり過ぎて恐ろしくなった。あれは魔女に間違いない。二条倉庫との絡み合いは知らないが、佐々木姉妹の一途な恋心に恵那山の魔物が棲みついたのか、魔女になるべくしてなったのか。世の中、不思議なことはあるものだな。

 おれたち年甲斐もなく、けなげな佐々木姉妹に同情してしまったけど、その裏には魔女になってまで本田を想い続ける執念があったようだ。気の毒だし厄介でもあるし、どうすることも出来なかった。今まで黙っていたのは、言い出す機会がなかったからだ。説明しても、分かってもらえる自信もなかったよ」

 体験した不思議な出来事を、おれは詳しく伝えた――。

「怖い話は苦手だけど……、私に成りすましてまで本田さんに近付きたかった。完璧に本気ですね」

 斉藤はそう言って、おれを見据えた。

 父親に似て、鋭かった――。

「本田とバトルをしていた女性と、ここでアルバイトをしていた女性が、姉妹だったとは全然知らなかったよ。二人は以前、本田に恋心を抱いて叶わなかった。しかし時を隔てて再燃させた。あいつ今度はやばいかもな。それで佐々木姉妹の目的は?」

 腕組みをした伊藤は、黒木に視線を向けた。

「魔女の魂胆は、夜の中央道に君臨することだと川野さんから聞きました。そのための手段として中央道の神様、本田さんを奪い取ろうとする悪者だと……。初恋絡みとなると、厄介でしょうね」

 黒木は、トーンを下げた。

「悪者か……。盛田さんが言うように、何ともけなげな気もするが、本田を自分たちの領域に引き込もうとしているのだとしたら……。謎めいた川野だったら、必死で止めに入るだろう。しばらくは葡萄色の街も荒れそうだな」

 伊藤は、ため息をついた。

 中央道の魔女、佐々木姉妹のことを話し込んでいる間に食堂が営業を始めた。

 伊藤、斉藤、黒木の三人は、少し早目の朝食を済ませ、それぞれの仮眠室に引きあげた。

『黒木さん、お願いがあります。それは、伝票も荷札もない小さな木箱の輸送です。その木箱を網掛トンネル東口の臨時駐車場まで運んでください。中央道の魔女もその木箱を狙っています。魔女に奪われないよう、最後まで走り抜いてください。必ず……』

 黒木が見た夢は、謎めいた川野が夢の中から輸送依頼をするというものだった。

 例の木箱が、また動き始めた。


 一七時三〇分、CL所沢支店のプラットホームに運行車両が並び始めた。

 水戸陸運の黒木と摩耶急送の斉藤、それに東寺運輸の伊藤も、それぞれの番線に入ってきた。

 プラットホームの上では、運行者ミーティングが始まろうとしている。

「一七時現在、東北、関東、関西に繋がる高速道路から混雑の情報は入っていません。次に業務連絡です。このところ毎日のように荷物の配送トラブルが発生しています。積み込む際は必ず荷札と受取人住所の確認、それにバーコードシールの入力をお願いします。また、見慣れない荷物の扱いには十分注意を払ってください。出発予定時刻は二〇時一〇分です。以上!」

 加藤は、短めのミーティングを終わらせた。

「そろそろ晩御飯にでも行くべ」

 いつものように、おれは三人を誘った――。

 伊藤、斉藤、黒木を含めた四人で食堂に向かった。

 食事中、当然のごとく魔女の話で盛り上がった。

 仮眠室で見た夢話を披露する黒木は、伊東と斉藤に丸投げを企んだが、黒木の魂胆を見抜いていた二人は上手に話を変えた。

 食事の後、時間をかけた積込みが始まった。

 黒木はバーコードシールを確実に入力し、届け先住所にも注意を払った。

 明石の番線に集まってきた荷物のほとんどを積み終えたが、今のところ川野に依頼された木箱は、積込んだ荷物の中には紛れていなかった。

『今流れている書類コンテナが最終荷物です』構内放送が流れた。

 仕分けコンベア操作員からの放送を境に、プラットホームの上が慌ただしくなった。

 運行者たちが追込み作業に取りかかる中、すでに積込みを終えた黒木は川野から依頼された木箱を探すため、他の番線にまで足を運んだ。

 しかしいくら探してみても、それらしい木箱は見当たらなかった。

 黒木はただの夢だと諦め、事務所へ向かった。

 普段通り伝票重量八トン、実重量四トンと記入された運行伝票を持って、黒木が明石の番線に戻って来た。

 そこには荷物を抱えた加藤が、黒木の帰りを待っていた。

「黒木さん、これをお願いします。昨夜の到着にまぎれていたみたいで、荷札も伝票も無いからどうしようもなくて……。明石に持ち帰ってもらうと助かるのだが」

 それは、あの古めかしい木箱だった。

「これが明石の荷物に入っていましたか? 分かりました。持って帰ります」

 黒木は笑顔で受け取り、再び観音ドアを開けた。

 川野が夢の中で依頼した木箱は、やはり明石支店に残してきたはずの荷物だった。

 アールデコ調の彫り物があり、魔女が狙うだけあっていかにも不思議な力を秘めていそうな雰囲気が伝わってきた。

 大役を引き受けた黒木は、謎の木箱を荷室の後ろに積込んだ。

 複雑な思いで観音ドアを閉める黒木に、伊藤と斉藤が二人なりのエールを送ってきた。

「二条倉庫に依頼されたのはこの木箱なのか? 黒木も責任重大だな。ちゃんと届けろよ。おれたちも後ろにくっついて走るから、思い切って踏み込むんだぞ」

 伊藤は、黒木の肩をポンと叩いた。

「伊藤さん、何なら代わりにどうですか? それとも斉藤さん、良かったら代わってくれる……」

 黒木は、斉藤に視線を向けた。

「遠慮する。依頼主に見込まれたのは黒木さんだから、頑張ってね。全開で追いかけるから」

 斉藤は、のけぞった。

 二〇時一〇分、CL所沢支店のプラットホームから次々に運行車両が離れていく。

 黒木、斉藤、伊藤の三人が、軽いクラクションを叩いて出発して行った。

 おれは、ホームの上から無事を祈った――。

 冷たい風が吹き抜ける府中街道には、帰宅途中の乗用車が溢れている。

 渋滞の中をゆっくり流された三台は、国立府中インターから中央道の下り線に合流した。

 石川パーキングを通過していくプロフィアを追って、斉藤のグレートと伊藤の810が続いている。

 先頭の黒木は今後の展開を予想しながら、溢れそうなアドレナリンの調整を始めていた。

 二一時一〇分、孤独なトラックドライバーたちがひしめく八王子ゲートを、CL協力会の三台が一斉にくぐり抜けた。

 二五〇キロ先にある網掛トンネル東口をめざし、力強い加速で立ち上がった。

 夜の中央道を舞台に、今夜も走り屋たちのバトルが始まった。

 先頭の黒木が初狩パーキングを通過したとき、暗がりの加速車線から出てきた一台のトラックが、計ったように伊藤の後ろに張り付いた。

 伊藤の目には埼玉帰りのように映ったようで、間もなく黒木の携帯に着信音が響いた。

「黒木、あまり気負うなよ。おれの後ろに張り付いたのは埼玉帰りのようだが、石井から何か連絡はあったか?」

 伊藤の視線は、サイドミラーにあった。

「まだ何も聞いていませんけど。埼玉は出発時間が早いから時間的には一致しますが……。それと、わたしはいつも冷静です」

 強がりで応えた黒木は、石井に発信した。

「先輩、埼玉出発は相変わらず早いですね。お疲れ様です」

 黒木は、いつものように言った。

「まったく見えないけど、あんた何処から掛けているのさ。こっちは大月ジャンクションだよ」

 石井は、即答した。

「すみません。先輩また後でかけ直します」

 黒木は早切りして、すぐさま発信ボタンを押した。

「伊藤さんの後ろに張り付いているのは、埼玉帰りではありません。石井先輩は二キロほど後ろです」

 黒木は、語気を強めた。

「やっぱりそうか。おかしいと思ったよ。ライトの光軸が810とはどうも違う。怪しいぞ」

 伊藤は、軽いパッシングをした。

「大きい声では言えませんが、魔女かも知れませんね。もしそうなら、いつでも踏み込むつもりです」

 小声の黒木は、加速体制を整えた。

「面白い奴だ。魔女だとしたら筒抜けだぞ。斉藤には言っておくから。黒木、加速だ」

 伊藤も小声だった。

 その言葉に黒木が素早い反応を示した。

 先頭の黒木は、斉藤、伊藤、それに謎のトラックを引き連れ、笹子トンネルまで続く坂道をフルスロットルで駆け上がった。

 そのころ石井の810は、少し遅れて猛追していた。

 笹子トンネルに入ったとき、繋がらないはずのこの場所で、黒木の携帯電話に着信が届いた。

「お疲れさま。二条倉庫の川野です。いま笹子トンネルの中にいます。黒木さんのすぐ前です。少しだけスピードを緩めますから、追突するくらいの勢いで接近してください」

 川野がそう言って間もなく、黒木の前に二条倉庫一九‐六〇が現れ、同時にテールランプが光った。

 急ブレーキだった。

 黒木はとっさにハザードを点け、目を閉じながら思いっきりブレーキを踏んでいた。

 斉藤も伊藤も急ブレーキをかけ、速度は一二〇まで落ちた。

 そのとき最後尾にいた謎のトラックが、素早い動きで追い越し車線に出た。いきなり急加速で立ち上がり、CL協力会の三台を一気に追い越して行った。

 すれ違いざま三人が目にしたのは、赤いグレート、中央道の魔女だった。

 急ブレーキのあと、再加速で引き離しにかかった川野のグレートに、魔女の赤いグレートが迫りつつあった。

 先頭の黒木は、反射的に魔女を追い始めた。

 しかし、そこでいきなり赤いグレートの観音ドアが開いた。

 荷台からもう一人の魔女が、赤いバイクに乗ってジャンプした。

 見事に着地した赤いバイクは瞬時にUターンをし、黒木の前をジグザグに走り始めた。

 黒木の携帯電話に、二度目の着信が届いた。

「さっきは驚かせてごめんなさい。木箱は無事に受け取りました。伊藤さんの後ろに魔女が張り付いていたので、このような手荒なことになりました。もしこの木箱を魔女に奪われたら、私たちは永遠に消えてしまいます。中央道のためにそれだけはさせたくありません。バイクの魔女が邪魔をしていますが、それは本田さんが現れるのを待っているからです。この木箱はどのようなことがあっても、網掛トンネル東口まで運ばなければなりません。わたしと本田さんで、魔女の二台を誘導します。黒木さんは魔女を追い上げるのです。離れないようついて来てください」

 川野は一方的に言った。

 笹子トンネルを出ると、川野からの通話も途切れた。

 CL協力会の三台が、勝沼インターの下り勾配にさしかかったとき、石井の810がすぐ後ろに迫ってきた。

 赤いバイクに抑えられている黒木の携帯電話に、着信音が鳴った。

「今になったよ。あんた、さっきは焦っていたようだけど?」

 石井は、速度を二〇〇以下に下げ、伊藤の後ろに張り付いた。

「伊藤さんの後ろに張り付いたトラックが誰なのか、要するに魔女か先輩かの区別がつかなくて、それで……。でもやっぱり魔女でした。魔女は川野さんを追って少し前を走っていますが、今度は本当に先輩ですよね?」

 黒木は、石井の声に耳を澄ませた。

「何だって? この声を聞き忘れたのかい。魔女にもあんたにも困ったものだね。それより一八〇はないだろ。もっと気合を入れて踏み込みなよ。後ろから押してやろうか」

 石井は、ため息をついた。

「赤いバイクが前にいるもので……。本田さんが来るまで、どうにも無理なようです。とりあえず網掛トンネルの東口まで二条倉庫と魔女を追って行かねばなりません。先輩もついて来てください」

 本田のことが気になる黒木は、サイドミラーばかり覗いていた。

「最初からそのつもりだよ。こっちはいつでもいいからね。前の二人も、これで分かるだろ」

 石井は、軽いパッシングを送った。

 伊藤と斉藤は、すぐに反応した。

 グレートと810に短いハザードが点いて間もなく、後方から白い光が猛スピードで近付いてきた。

 さらりとした風を巻き上げながら疾走してきたのは、二条倉庫のプロフィアで、ハザードとともに石井、伊藤、斉藤とかわし、黒木の横に一瞬並んだ後、瞬く間に追い抜いて行った。

 このとき黒木は、本田の仕草が気になった。

 邪魔な走りをしていた妹の麻代は、それが本田だと分かるや、ジグザグを止めて本気の走りに変わった。

 追い上げ体制の本田に拍車がかかったのはここからだった。

 魔性の車番九四‐五一が、白い光のハイビームを最大出力で照射している。

 眩しすぎるその光は赤いバイクを突き抜け、前方でバトルを繰り広げる二台のグレートにまで及んだ。

 バイク独特の排気音が、刺激的なリズムになって響いている。

 誘いかけてくるような魔女の歌声は、恋愛仕掛けの音色となって白いプロフィアに向けられた。

 本田に対し熱っぽい視線を送りつける魔女は、同時に情熱の吐息も吹き掛けてきた。

 先頭の川野はその様子に気付いたのか、少しだけ速度を緩めた。川野と本田が連携し、魔女の二台を挟んだ。

 神様二台と魔女二台が、一つの集合体にまとまった。CL協力会の四台が少し遅れて連なり、春色の葡萄畑が広がる甲府の街で、八台が激しい風を巻き上げた。

「なあ鈴木、今日はそうとう入り乱れているようだぞ」

 佐藤は、双眼鏡を置いた。

「そうだな。一波乱ありそうだ」

 鈴木は、双眼鏡を覗きこんだ。

 山梨県警高速隊の佐藤と鈴木は、今夜も双葉サービスエリアの高台から本線を見下ろすだけだった。

 岡谷ジャンクションを通過するころには、夜の中央道を賭けた神様と魔女のバトルが激しさを増してきた。

 二人の魔女に揺さぶられて疾走する川野は、南アルプスから吹いてくる風を利用して逃げ切りを図っている。

 謎の木箱と本田の身柄を狙う魔女姉妹が、川野の前に出ようと執拗にまとわりついてくる。

 本田は魔女たちの熱い視線をかわしながら情熱の吐息も振り払い、ぎりぎりの所まで接近してきた。

 入り乱れた覇権争いを見守りながら、黒木、斉藤、伊藤、石井の四人は、フルスロットルで追いかけた。

 阿智パーキングを過ぎたとき、神様と魔女が繰り広げるバトルのゴール地点が見えてきた。

 網掛トンネルに向かう坂道を、先頭切って駆け上がってきたのは白いグレートの川野だった。

 赤いバイクと赤いグレートの魔女姉妹が、川野の白いグレートに手を掛け始めたとき、白いプロフィアの本田が突き飛ばす勢いで魔女姉妹に迫ってきた。

 CL協力会の四台も、必死になって坂道を駆け上がった。

 八台が放つ排気音が、阿智の谷間にこだました。

 二条倉庫の川野と本田に挟まれた魔女姉妹は、そのままの速度で臨時駐車場に流れ込んできた。

 先頭を走ってきた川野がこの瞬間を待っていたように、二〇〇オーバーのスピードからフルブレーキをかけた。

 タイヤからけたたましい摩擦音と大量の煙が舞い上がり、急停車した白いグレートの観音ドアがすっと開いた。

 荷室に積まれた謎の木箱から湧き出す白い光の粒子が、魔女姉妹の赤いグレートと赤いバイクに勢いよく絡みついた。

 本田の白いプロフィアに玉突きされた魔女姉妹の赤い二台は、自動的に木箱へと向かっている。

 減速が間に合わなかった魔女たちが次々に木箱へ吸い込まれ、同時に木箱の蓋と白いグレートの観音ドアが閉まり始めた。

 そのときだった。最後まで魔女を追い詰めた白いプロフィアに、木箱の中から放たれた邪悪な鎖が巻き付いた。

 追い詰められた中央道の魔女は、土壇場でプロフィアと一緒に本田を木箱の中へ引きずり込み、即座に蓋を閉ざした。

 一瞬の出来事だった。

 臨時駐車場の片隅で一部始終を見届けたCL協力会の四人組は、絶望的な光景に深いため息をついた。

 強風が吹き抜ける中、二条倉庫の白いグレートから降りてきた川野が、しらけた顔で喋り始めた。

「これは、元々本田さんが考えた作戦でした。魔女を封じるには道ずれにするしか方法がなかったのです。木箱に吸い込まれた佐々木姉妹も最初から捨て身の覚悟でした。わたしは今から恵那山トンネルの中にある祠に、この木箱を納めて来ます。本田さんのことは残念でした」

 無表情の川野は、それだけ言ってグレートに向かった。

「残念でしただと……。ふざけるな。あいつはそう簡単に消えたりしない。おい、何かの間違いだろ!」

 伊藤が言い放った。

「なんとも呆気ない幕切れですね。二人の魔女も、そして本田さんも、本当にこれで終わりですか?」

 斉藤がつぶやいた。

「幾らなんでもそれはないよ。まだ続きがあるんだよね? なんとか言いなよ、川野さん」

 石井は、絶叫した。

「川野さんもそうだけど、さっきの本田さん、どこか違うような気がしたけど……。あっ、風が変わりました。さらりとした風です」

 つぶやいた黒木は、風の変化にも気付いた。

 二条倉庫の川野が再び本線に合流しかけたとき、一筋の風が流れた。

 臨時駐車場に取り残され、肩を落として佇む四人の前に閃光が走り、稲妻をあと追いしてきた雷鳴と共に赤いバイクが現れた。

 バイクから降りて来たライダーが、被っていた赤いフルフェイスを脱ぎ捨てた。

 するとそこには、白いグレートに乗って行ったはずの川野が姿を現わした。

 さらりとした風に吹き流されるCL協力会の四人は、魔女と神様の化かし合いについて行けなかった。

 赤いライダースーツを脱ぎ捨てた川野が、いつもの口調で喋り始めた。

「わたしのグレートに乗って行ったのは佐々木麻代です。最終局面で、魔女がわたしになりすましてくることは分かっていました。妹の麻代が赤いバイクを捨ててグレートに入って来る瞬間を狙い、わたしは麻代と入れ替わったのです。

 姉の佳代はそのことに気付かないまま、ダミーの本田さんを連れて向こうの世界へ旅立ちました。すでに妹の麻代が積んで行った木箱が、仮装車の白いグレートを吸い込み始めています。これで魔女姉妹が創った理想郷の全てが消え去り、麻代も姉の元へ旅立つことが出来るでしょう。別の所に置いてあるプロフィア九四‐五一とグレート一九‐六〇、そして本田さんを今から迎えに行きます。お疲れさま。それではまた今度!」

 一方的に述べた川野が、赤いバイクに乗って臨時駐車場から本線に戻りかけたとき、恵那山と網掛の両トンネルから白い光の束が、淡いジェットになって吹き出してきた。

 佐々木姉妹の一途な思いを乗せた魔女の囁きは、トンネルから吹き出す淡いジェットと共に闇の世界へと吹き飛んだ。

「今度は間違いなく川野本人だろうな? 本田さえ消えていなければ、それでよしとするか」

 伊藤は険しい眼差しでアイドリングを始めた。

「魔女伝説もこれで終わりだね。また一緒に走れるさ」

 斉藤にも笑顔が戻った。

「もうひとつしっくりこないねー。帰るよ!」

 石井が、黒木の肩を叩いた。

「風のようにさりげなく、行きますか」

 黒木は、再スタートを切った。

 吹っ切れていない黒木を先頭に、仲間たちが連なった。

 CL協力会の四台は、過去と未来を繋ぐという噂の網掛トンネルに吸い込まれて行った。

 恵那山中腹の祠では、山桜が舞い散る中、ゆらゆらと揺れる赤い灯火が、小さくなって消えようとしていた――。


「魔女絡みの伝説はこれで終わりだが、みんな納得できたかな? ところどころ記憶が途切れていたけど、話しているうち、どうにか繋ぐことができたよ」

 背もたれを倒した盛田は、ゆっくりと背を伸ばした。

 他の者も一様に背伸びを始めた。

「本田は大丈夫でしょうか? どうも気になるのですが」

 腕組みした浅井は、モニターを睨んだ。

「相変わらずおまえは固いな。魔女と一緒に旅立ってもいいじゃないか。どうせあいつらの世界はあの世だろ」

 長尾は、鼻で笑った。

 浅井が反論する前に、小室が口を開いた。

「中央道の魔女は、あの木箱の中に吸い込まれた訳ですよね。魔女さえも葬り去ってしまう川野あゆみ、この謎めいた女はいったい何者でしょうか? それに佐々木姉妹を悪者と決めつけていましたが、本当にそうだったのか……。どうもぴんときませんね」

 モニター画面を見ていた小室は、盛田に視線を移した。

「おまえの言う通り、そこのところは同感だ。見方によっては魔女の方が気の毒だし、その佐々木姉妹からすれば川野の方がよっぽど悪者ということになってしまう。もともと謎に満ちたところが多いから、どうにも彼女の思いは読みづらい。いずれにせよ次の物語が最後だから、そこで明らかに出来るといいのだが……。少しだけ待ってくれ。整理してくるから」

 席を立った盛田は、管理事務所を出て行った――。


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