あとがきと創作裏話
【あとがき】
お読みいただき誠にありがとうございます。岩淵笑実、もとい神無月愛と申します。
作者名が二つあるのは何故かと申しますと、この物語があらすじにある通り「作中劇の小説版」であるところに由来します。これは『My Spotlight』(http://ncode.syosetu.com/n6346y/)の登場人物である岩淵笑実が作中で書いた劇の小説版です。同じく『My Spotlight』中の劇である『永久の翼 ~Towa's Wings~』や『You're My Lady, I'm Your Knight.』をお読みくださった方には耳にタコだと思います、すみません(笑)。
この物語は、実はものすっごく長いこと私の中であっため続けていた物語です。原案を書いたのは2009年冬。なんと五年半も前なのでした。元々『My Spotlight』の最初の公演にと考えていたため、この舞台たちの中では最も早く出来たものです。ちなみに台本を全部書いてから、内容や話の長さから考えて文化祭公演に変更になりました。
今回、ここに投稿するため一度台本の形で書いたものから小説の形で書くにあたって、かなりの部分を修正しました。大きな流れはもちろん変えていませんが、人物のバックグラウンドのあれこれとか、会話や描写の細かい所とか。台本を書いた当時の私の知識不足もさることながら、何を考えていたんだか説教クサくてこっ恥ずかしいセリフのオンパレードなんですもの。あとは建物や着物、小道具、言葉その他の時代考証を少々。まず名前からして戦国時代にいねーだろというような「なんちゃって時代小説」ではありますけど、あまりおかしいことは書きたくないので。調べるのは難しいけど楽しいです。去年の大河ドラマがちょうど戦国時代だったので、いつになく熱心に見てしまいました(笑)。
何はともあれ、長いことあっためてきたものをこうして形にすることが出来て嬉しいです。ここまでお読みくださったあなたにも多大なる感謝を。
神無月愛 拝
【創作メモ】
・世界観、場面について
時代としては日本の戦国時代をモデルとしております。が、実在の地名だとか人物だとかといったものは一切出てきません。別の世界です。パラレルワールドとでも思っておいてください。
鉱家(翡翠)が治める国と癸家(楸)が治める国は隣同士。どちらもそんなに規模は大きくないので、同盟国と協力して大きな国に対抗する必要があるため縁組はとても多いです。もっとも、それが当たり前である世の中なので基本的にそれを拒んだり意味を問うたりということはとても少ないようです。
玄武と子供たちの暮らす家は、領主の居城からほど近い城下町にあります。武家屋敷というよりもやや大きい民家というイメージ。全く登場しない秧鶏くんの家はかなり小さいですか立派な武家屋敷と同じしつらえになっています。
・ストーリーについて
当初に描きたいと思ったものは忘れてしまいましたが、この話は「現実」と戦うものだと思っています。過去を取り戻せずとも明るみに出すことで立ち止まって考え、未来を模索しようとする楸。戦い方がわからず、とにかく足掻いて壊そうとしてしまった翡翠。そして「現実」に敢えて抗わず、奔流の中に己だけをしっかりと保っていた秧鶏。他にも、登場人物の数だけ戦い方が、ひいては生き方があると思うのです。
・文中にちょっと出て描ききれなかった舞台袖
〈秧鶏・秋沙兄妹について〉
元々この二人の出生を知っていたのは城の内部深くの人間と、子供たちの養育を任された玄武の家の者のみ。千鳥さんの実家にすら子供たちの存在は伝えられていません。楸と玄武、そして兄の藜は秧鶏が生まれたとき既に七歳と十歳、特に早熟な楸はもう状況が充分に理解できたため教えられていました。紫苑は弟妹の存在そのものを知りません。秧鶏がいつ知ったのか……は番外編で書こうと思っています。秧鶏が知ってしまった事に玄武も楸も気付いていませんが、楸は玄武との重要な話(9話、10話)に秧鶏を連れていくなど、本人にはそうと告げずとも弟として扱おうとしています。近々真実を告げようと考えつつ、タイミングを図っていた所でした。
〈木葉/胡蝶について〉
幼少期、殺されかけて逃げるという体験の中で記憶を失っている木葉さんですが、解離性同一性障害(いわゆる多重人格症)だと思われます。けど心理学的にしっかり考察した訳ではないので深く突っ込んじゃイヤン。「胡蝶」は恐ろしい思いをする前の子供の頃の人格であり、「木葉」として過ごす彼女の中で言わばずっと眠ったままの状態だったのですが、「胡蝶」と深い関わりのある弟がその名で呼ぶことで「胡蝶」の人格が表に出てくるのでしょう。「私の中に誰かがいる」(14話)は本当にあるんだそうで。興味深い分野です。
〈13話&14話で木葉、秧鶏、紫苑が聞いた悲鳴のはなし〉
この声の主は紫苑姫が直後に名を呼んでいる志乃という侍女さんです。18話でも「志乃の様子はどう?」と気遣っていますね。志乃は、紫苑の部屋から遠くない廊下で侵入者(琥珀)と不運にもばったり鉢合わせしてしまい、焦って叫んでしまったのです。命に別状はなかったようなので、斬られはせずただ気絶させられていたのでしょう。琥珀くん優しいな。
ついでにこの志乃と、もう一人名前の出てきた侍女の瀬那はモブキャラちゃんですが、作者である岩淵笑実が自分の後輩たちをモデルに名前を付けています。志茂安芸子と綾瀬愛那。この辺の詳細はMy Spotlightの方で。
〈唐突に泣き出した秋沙と、その話を聞いた楸のセリフ〉
16話&17話です。「あの時と同じだ。秋沙は姉に似て感受性が強いのかも知れないな。」
「姉」とはもちろん紫苑のこと。そして「あの時」をついうっかり書き忘れましたん。以前同じような状況――つまり、兄弟の死――があった時に紫苑さんがわけもなく泣き出した、というエピソードを何処かに入れたかったのです。入んなかったので番外編に回します。で、今回も紫苑は泣いているのですが、18話冒頭の「涙の跡がある」程度しか書けなかったので、分かりにくかったかも……。
〈第25話の現代場面について〉
夢オチかな? という感じでいきなり琥珀くん視点のシーン。ラストで全員集合させたくてこうなりました。夢オチでも転生ネタでもお好きな方で解釈していただければと思います。あまり詳しく書けませんでしたが、場面は大学。楸と紫苑、秧鶏と秋沙、木葉と琥珀の兄弟関係は変わらずです。この場面は本当にさわりしか書けなかったので、実は楸の兄や玄武の兄と妹もちゃんと存在しているとか、楸たち三人兄弟と秧鶏たち兄妹はいとこ同士であるとか、青龍くんは朱雀ちゃんの実の弟になっているとか色々ネタはあります。全部説明するとうるさい上にこれで一つ独立した物語になっちゃうのでやめました。どうぞご自由にご想像ください。