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おじゃまんげ!  作者: 夏川 俊
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7、摩訶不思議生物 サバラス

7、摩訶不思議生物 サバラス



 家に戻ると、母が空手の稽古をしていた。

「 きええーいッ! ずおりゃ、とおおォ~うッ! 」

 その奇声に、ご近所が怯えていらっしゃるという事実を、母は知らない。 どうやら今日は、台所で夕飯の支度をしながら、型の稽古をしているらしい。

「 はっ、ほっ、はっ、ほっ、何とっ、こりゃっ! 」

 大根を切るのに、掛け声を掛けるな! 稽古するのか、メシの支度をするのか、どっちかにせえ。

「 ・・あ、お帰り、みちる。 ありゃさァーッ! 」

 ダシを鍋に振るのに、気合は要らん。 フツーにやれ、フツーに・・・!

「 みちるぅ~? あんたの部屋に、ヘンな人形があったけど・・ いつの間にあんなモン、買ったんだい? 」

「 ・・・・・ 」

 僕は、2階の部屋に駆け上がった。

 ・・・いやがった! サバラスだ。

「 よう、お帰り、星川くん! 」

 僕のベッドでくつろぎ、また茶などを飲んでいる。

「 ノンキだな、お前。 元に戻れる算段は、ついたのか? 」

 制服からジャージに着替えながら、僕は尋ねた。

「 ダウンロードしたら、ハードディスクが、飛んでしまったよ。 今、マザーボードごと、交換しとる 」

 ・・・ヘンなプログラムごと、ブッ込んだんと違うか? アップデートくらい、してからやれよ。 たまには、デフラグもせえ。 機能限定でしか立ち上がらなくなるぞ?

 僕は言った。

「 とにかく、早く戻してくれ。 復旧のメドは? 」

「 皆目、見当がつかん 」

 ・・・あっけらかんと、答えるじゃねえか、お前。 ヤル気なしか?

 徐々に、『 殺意 』が芽生えて来た僕は、サバラスを摘み上げると、脅すように言った。

「 事と次第によっちゃ、てめえ~・・・ 出るトコ出ても、いいんだぞ? おお? お前らの存在を、洗いざらい喋ってやる・・・! その際、オレの進退にも、影響は出るだろうが、構うもんか。 気を使って生活するよか、よっぽど清々すらァ・・・! 」

 サングラスをクイッと上げながら、サバラスは言った。

「 脅し方が、なかなかサマになって来たねえ。 環境への適応能力が、かなりあるようだ 」

 ・・・精神学的な、臨床診断は要らん。 ナメとんのか? お前。

 サバラスは言った。

「 この際、人間の生活というものを、じっくり観察したいと思ってね 」

 ・・・じっくり、なぶり殺しにしてやっても良いんだぞ・・? コラ。 最悪、元に戻れなくなっても、構うもんか。 マサや龍二に任せておけば、何とかなる。

 段々、開き直った気分になって来た僕は、サバラスに言った。

「 お前の、エラそうな態度見てたら・・・ 何かオレ、非常~に、残虐な気分になって来たんだケド・・・? 」

「 そんなに、嬉しいのか? 」

 ・・・言葉の意味を、よく理解しとらんと見えるな、お前。

 僕は、部屋にあった棚の上から、エアタンクに直結したエアーガンを引っ張り出した。 どうやら、星野の方には行っていなかったらしい。 中学の時にハマった、サバイバルゲームに使っていたヤツだ。 違法改造してあり、マガジンが、ヤンキーホーンの10気圧エアータンクに直結してある。 有効射程距離25メートル。 サバラスとは、1メートルと離れていない。 この距離だと、スチール缶を撃ち抜く威力のはずだ。

「 ほほぉ~う・・・ それは、あんま機の一種かね? 」

 マガジンにBB弾を装填する僕に、サバラスは尋ねた。

 あんま機より、強力だぜ・・・! 今、お見舞いしたる。 待っとけ。

 僕は、マガジンを装着すると、サバラスの額に照準を当てた。 ベレッタ 93R・・・ 幾多のフィールドで、僕の命を守ってくれた、Cタイプの黒い長身。 フッ・・ 最後に頼れるのは、お前だけだぜ・・・!

 自己陶酔しながら、マニアの世界に浸りつつ、僕は引き金を引いた。

『 バキョッ! 』

 エアーソフトガンとは思えない強力な発射音と共に、0・25gの重量ストレート弾が、サバラスの額に吸い込まれて行った。

 や・・ やっちまった! これで、元の体に戻れる可能性は、ゼロだ・・・!

 ストックを握った瞬間、何の躊躇も無く、トリガーを引いてしまった。 これも、体に染み付いたフィールドの影響か・・・!

 サバラスは、口をモゴモゴさせると、額から打ち込まれたハズのBB弾を、プッと吐き出した。

「 ・・・・・ 」

 お前は、手品師か。

 僕は、狂ったように、サバラスの頭部を連射した。

『 バキョッ、バキョッ、バキョッ! 』

 同じようにサバラスは、口をモゴモゴさせ、スイカの種を出すように、ぺぺぺっと吐き出す。

「 いやあ~、コレが、針治療というヤツかね? 結構、面白いコトするもんだねえ 」

 ・・・ダメだ。 これではヤツに、誤った知識を植え付けるに他ならん・・・!

 しかし僕は、更に、猟奇的な発想に出た。

( 目を狙ったれ・・・! )

 ヤツのサングラスに狙いを定め、連射!

 ・・・全て、跳ね返された。 スチール缶を撃ち抜くんだぞ? あのサングラスは、一体、何の材質で出来てんだ?

「 そのサングラス、鉄か? 」

「 シリウスの、硬化テクタイト製。 100円ショップのとは、ワケが違うぞい? 」

 よく分からんが、凄い事には、違いない。 しかも、よく見ると、BB弾を打ち込んだ跡が消えている。 物凄い生態機能だ。 こいつらは、ケガをした事がないらしい。

 僕は尋ねた。

「 体を、引っかいたりした時、どうなるんだ? 」

 サバラスは答えた。

「 よく分からんが、頭ちぎれても、すぐ生え変わるよ? 」

 トカゲか、お前らは。 しかも、頭まで生えて来るとは、どういうこっちゃ。 さすが宇宙人だぜ・・・

 今度は、サバラスが質問して来た。

「 生活用品を移し変える時に、色々と摩訶不思議なモンを見つけてね・・・ 」

 僕にとっては、お前さん自体が、摩訶不思議だわ。

 サバラスは、ヘヤードライヤーを手に取り、言った。

「 コレは、何かね? 」

「 ドライヤーじゃん 」

「 それは、用務員より偉いのかね? 」

「 ・・・・・ 」

 どっから、そんな発想が出て来る・・・? 健一よりヒドイな、お前。 ワケ分からんぞ?

 僕は説明した。

「 髪の毛を、乾かす機械だよ。 まあ、お前には無いから、分からないのも納得出来るがな 」

 コンセントにプラグを指し込み、スイッチを入れる。 ブイイ~ン、と温風が出始めた。

「 おおっ、これは珍しい! 」

 サバラスは、いたく喜んだ。

 温風をサバラスに当てながら、僕は続けた。

「 温風を当てて暖めると、早く乾くんだ 」

 すると、何と・・ サバラスが、小さくなっていくではないか!

「 おお~う・・! これは、気持ち良い。 極楽、極楽じゃあ~・・・ 」

「 おいっ! お前、縮んでいくぞっ? どうなってんだ? 」

 あっという間に、身長10センチくらいの、卓上マスコット人形のように縮んだサバラスが答えた。

「 我々は、気持ち良いと、縮むのだ 」

 ・・・ナンじゃ、そら。 もっと、分かりやすい感情表現をせんか。

 次第に、元の大きさに戻るサバラス。

「 ふうう~・・・! いい気持ちだった。 みやげに、そいつをくれ 」

「 コレは、星野のだ。 元に戻ったら、買ってやるよ。 安物だったら、1500円くらいで売ってるし 」

「 それは、楽しみな事だ。 ・・・して、これは? 」

 タンスの中から、小さく丸めた布のようなものを取り出すサバラス。 何となく、分かった・・・ パンツだ。 引き出しの中には、ピンクやボーダー模様のものが、幾つも丸めて入れてある。 魅惑の世界だ。 健一が見たら、狂喜乱舞したに違いない。

「 コレについては、お前は、知らんでいい・・! 」

 僕は、サバラスからパンツをひったくると、タンスにしまった。

「 コレは? 」

 今度は、救急箱だ。 僕も、持っていたが、これは星野の物のようだ。

「 薬とかを入れる箱だよ。 まあ、お前にゃ、必要ないモンばっかり入ってるだろな 」

 サバラスは、救急箱開けると、○ンドエイドを手に取り、僕に聞いた。

「 このシールみたいなのは、ナニかね? 」

「 キズをしたら、貼っておくんだよ 」

「 め・・ 珍しい! 是非、みやげに一つ・・・! 」

 お前は、旅行ツアーの、オバさんか。

「 これは? 」

 包帯を手に取り、尋ねるサバラス。

「 包帯じゃん。 キズをした所に巻いて、保護したりする時に使うんだよ 」

「 し・・ 信じられん・・・! そのような珍しいモノを、人間は、誰でも持っておるのかね・・・? 」

 こっちが、信じられんわ。

「 これは? 」

 箱に入った錠剤を手に取り、再び尋ねるサバラス。 ○ッファリンと、印刷してあった。

「 頭痛薬だよ。 頭が痛くなったら、飲むんだ 」

「 痛かったら、ちぎって、替えりゃいいじゃん? 」

 ・・・お前の頭は、カッターナイフの刃か。

「 これは? 」

 また、箱のようなものを手に取り、サバラスが尋ねる。 これは、何の薬なのか、僕にも分からない。 手に取り、表示を読む。

「 さあ、何だろ・・・ ○リエ・タンポ・・・ 」

 瞬間、僕は、サバラスに強烈なアッパーカットを炸裂させながら言った。

「 みっ・・ 見るな、見るなあーッ! 何でもない、何でもなあーいッ!! 」

 天井までフッ飛んだサバラスが、ポテッ、と脇に落ちて来た。

「 何なのかな~? 何なのかな~? 星川クン? 」

 ・・・お前、知ってて、聞いてないか?

 でも、ヤバイ。 星野だって、女だ。 アノ日が来たら、どうしよう?

 僕は、箱に印刷してある使用説明書を見た。 克明に描いてある、目を疑うような恐ろしいイラストが、目に飛び込んで来る。

 ・・・出来んッ! 断じて、このような行為は、出来んッ! 気絶するわッ! 事情を話して、星野自身にしてもらおうか・・・ 何か、すっげえ~ヤバイ絵にならないか? それって・・・!

 こうしちゃおれん!

 僕は、サバラスの胸ぐらを掴んで、言った。

「 サバラスっ! す、すぐ、元に戻せ! 今すぐだッ! 」

「 それが出来んで、苦労しとろうが? 」

 ・・・あっさり、言い切りやがって、てめえ~・・・!

 サバラスの頭の中から、ピーピーと、何かの呼び出し音のような音が聞こえて来た。

「 おっ、本部から呼び出しだ。 じゃ、またな、星川クン! 」

 そう言うと、サバラスは消えた。

 また、無責任に消えやがって、野郎~・・・! 不安を、逆なでしに、来ただけじゃないか。 ヤル気、あんのか?

 床から、千と千尋の神隠しに出て来た銭婆のように、顔の上部だけを出して、サバラスが追伸した。

「 さっきの、タンスの中の、丸めてあった布・・・ ナニかな~・・・? 」

「 消えいッ! エロ宇宙人! 」

 渾身の力で、サバラスの頭を蹴り飛ばす瞬間、ヤツは消えた。


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