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おじゃまんげ!  作者: 夏川 俊
25/28

25、奮闘! 美津子先生

25、奮闘! 美津子先生



「 ねえ、名刺持ってます? あたし、名刺を集めてるの。 ください! 」

 ファミレス店内の席に付いた男に、かすみは言った。 怪訝そうな顔をしながらも、男はスーツの上着の内ポケットから名刺入れを出すと、その中から1枚を取り出し、かすみに渡した。 かすみは、僕からも見えるように、その名刺をテーブルの上に置く。 ・・さすが、かすみだ。 これで、この男の名前が判明した。

 ・・え~と、何々・・? 菱井商事 営業1課 主任、佐伯 祥一・・ か。 一流企業じゃないか。 末は、課長か部長か? いずれにせよ、現在の年収は、600万を軽く超えているだろう。 美津子先生、玉の輿じゃん・・・!

 僕は、横目で、名刺の名前を確認しながら尋ねた。

「 祥一・・ さん? どうしたの? 今日は 」

 祥一は、ウエイトレスが持って来たグラスの水を一口飲むと、言った。

「 ・・・母さんに、美津子さんの事を話したんだ・・・ 」

「 あたしのコト? 」

「 うん・・・ 真剣にお付き合いしている人が、いるって 」

 ・・・どうやら、反対されたな? この男・・・

「 それで? 」

 祥一は、小さくため息を尽くと、言った。

「 どうせ、ウチの財産目当てだろう? ってさ・・・ 」

 この祥一と言う男の家は、資産家なのだろう。 母親に反対されたのか・・ 美津子先生、可哀想だな・・・

 祥一は続けた。

「 コンパや、飲み屋で知り合ったのならともかく・・ 美津子さんとは、共の友人に紹介され、交際期間も7年だ。 いくら説明しても、お袋は、財産目当ての一点張りなんだ。 どうしたら良いんだろう・・・ 」

 ハッキリ申し上げよう。 家を出なさい。 ・・これでは、あまりにも短絡的か。 他人事だと、メッチャ楽に考えられるな。 でも、美津子先生が不憫だ。 とても、財産を狙うような人格には思えんぞ?

 かすみが言った。

「 駆け落ちしたら? 」

 ・・・出た。 かすみも、エライ事、言い出しよるのう~・・・!

 祥一が言った。

「 ・・・ついて来るかい? 」

 ホンキか? あんた。 ドラマのようには、いかんぞ? そんでもって、寂れた温泉宿で契りを交わし、リストカットすんの? ・・僕、ヤだ。 かすみとなら、逃避行してもイイけど、アンタとは絶対行かない。

 僕は言った。

「 お袋さん・・ いえ、お母様の誤解を解くには、きっと時間が掛かると思うの。 待ちましょうよ。 きっと、分かって下さるわ・・・ 」

 ・・・大人言葉は、言い難い。 僕は、とりあえず一辺倒の言葉を、祥一に返した。

 祥一が言った。

「 美津子さんが30になる前には、と思ってたんだけど・・・ もう少し、掛かりそうだ。 すまない 」

 真面目で、良い人そうだ。 真剣に美津子先生のコト、考えてるんだな。 何とかしてあげたいけど、打つ手無しだ。 ましてや今は、ホントの美津子先生じゃないし・・・

 注文した品が、運ばれて来た。 僕らは、無言で食事を始めた。


「 君は、高校何年生? 」

 食事があらかた終わった頃、祥一が、かすみに尋ねた。

「 高2です 」

 かすみが答える。

 タバコに火を付け、祥一は言った。

「 ふ~ん・・・ 彼氏、いるの? 」

「 はい 」

 即答する、かすみ。 ・・嬉しい。 僕は少々、照れた。

 祥一は、煙を、ふうっと出しながら言った。

「 何の、わだかりも無く、いい年頃だね・・・ 彼氏も、高校生? 」

「 はい。 同じ2年です 」

「 そうか。 君は可愛いから、彼氏は、やきもきしてるだろうな 」

「 そんな・・ 」

 顔を赤らめる、かすみ。 恥ずかしそうに下を向いたが、やがて顔を上げ、祥一に尋ねた。

「 祥一さんは・・ 美津子先生の、どこが好きなの? 」

 祥一は、しばらく考え、答えた。

「 美津子さんといると、落ち着くんだ。 仕事は、営業で忙しいし、休日だって接待ゴルフとかあってね・・・ 」

 タバコの灰を、灰皿に落としながら、祥一は続ける。

「 きれいとか、可愛いとか・・ カッコいい、スマート・・・ 全部、目に見えるコトだよね? でも、優しさとか誠実さ、正直なんてモノは、目に見えない。 目視出来るコトに惑わされてたらいけないよ? そんなものは、いつか飽きる。 目に見えないコトを大切にしなきゃダメだ。 僕が美津子さんを好きなのは、そういう事だよ 」

 ・・う~ん、勉強になります。 健一に聞かせてやりたいです。

 やがて、1人の中年婦人が、僕らのテーブルの脇に立った。

「 ・・か、母さん・・!? 」

 婦人を見た祥一が、驚いて言った。

 ・・・これが、問題のお母様か。 明るい色のヘアカラーで髪を染め、細身の老眼鏡を掛けている。 グレーのワンピースを着て、小脇に小さなハンドバッグを持ち、上品な雰囲気はするのだが、表情は険しく、汚いモノを見るような目で、僕を見ていた。

 祥一が言った。

「 ど・・ どうして、ココに? 」

 お母様は答えた。

「 あなたには、監視の目を付けておきました。 まったく・・ 暗闇で、女性を待ち伏せするなんて・・・! 何て、恥ずかしい事してるの、あなたはっ・・! 」

 ・・・おカン、探偵を雇ったな? ココは、とりあえず挨拶をしなくては・・・

 僕は、立ち上がり、お辞儀をしながら言った。

「 お母様、初めまして。 高田 美津子と申します 」

「 あなたに、お母様と呼ばれる筋合いは無いわっ! ・・さ、祥一。 帰るわよ。 このテーブルの清算は、済ませてあります 」

 ドラマを見ているような展開。 とりあえず、この母親にはハラが立って来たぞ? 延髄切りを食らわせてやろうか・・・!

 祥一が言った。

「 勝手なコト、すんなよっ! オレは、帰らない。 放っといてくれ! 」

 祥一は、僕の手を掴み、店を出ようとする。

「 待ちなさい、祥一! あなたは、騙されてるのよっ? 」

 騙しとらん、ババア! 愛し合う2人を、邪魔すんじゃねえよ。 美津子先生は、いい人だぞっ!

 店の外に出た僕らに、母親は、尚もすがった。

「 祥一っ! 目を覚ましなさい! 祥一っ・・・! 」

 その時、1人の男が、駐車場の方から母親に近付き、持っていたバッグを引ったくった。

「 ・・あッ! 」

 男は、通りの方へ逃走して行く。 引ったくりだ・・!

「 母さんっ・・・! 」

 引ったくられた反動でよろめき、倒れた母親の元へ、祥一が駆け寄った。

「 だ・・ 大丈夫かいっ? ケガは? 」

「 大した事、無いわ。 大丈夫よ。 それより、バッグが・・! 」

 逃げた男は、中年のような感じだった。 手馴れた手つきだ。 常習犯か?

「 くそうっ・・! 母さんが大切にしていた、おばあちゃんの形見のバッグをっ・・! 」

 祥一が、口惜しげに、逃げる男の背中を見た。

 僕は叫んだ。

「 祥一さん、警察に電話よッ! お母様を、お願いっ・・・! 」

 僕は、男の後を追って、走り出した。


 逃走する男は、やはり中年らしい。 走っている後ろ姿から、それは推察出来た。 体力の無い僕だが、歳では勝る。 逃すかっ・・! いいトコ見せて、あの高慢な母親を見返してやらねば! 借りを作っておけば、美津子先生の印象も改善するだろう。 一肌、脱いでやる・・・!


 男は時々、追って来る僕の方を振り返りながら、夜の住宅街を、逃走し続けた。 しかし、徐々に、その距離は縮まっていく。 ・・頂きだ、この野郎! 目にモノを見せてくれようぞ!

 男が、路地を回った。

( 逃すかァッ! )

 僕も、路地を回ったが、何と、ヤツがいない。

「 ? 」

 イキナリ、物陰に隠れていたヤツが、僕に、襲い掛かって来た。

( しまった・・! )

 窮鼠、猫を噛む。 ヤツの逆襲だ。 僕は、歩道脇の草むらに押し倒された。

「 バッグを返しなさいッ・・! 」

 僕は叫んだ。 しかし、ヤツは手で僕の口を押さえ、物凄い力で、僕をねじ伏せた。 ・・これは少々、予想外だ。 コイツ、物凄げえ力じゃん・・・!

 次にヤツは、僕の首を絞め始めた。 息が止まり、呼吸が出来ない。

「 ・・・・・! 」

 段々と、頭がボ~ッとしていく。 ・・殺されるっ・・!

 男は言った。

「 このアマぁ~・・ しゃしゃり出て来やがって・・! 褒美に、絞め殺してやる! 」

 そんな、素敵なご褒美、要らない。 しかし・・ 普通ならここで、正義の味方の出番じゃないのか? か弱き、乙女を助ける助っ人は、出て来んのか・・・? 僕、もしかして、このまま殺されるの・・・? ヤダ・ヤダ・ヤダ~っ!

 男は、更に言った。

「 ついでに、キモチ良~くしてあげてから、殺してやろうかねえ~? 」

 男の手が、スカートの中に入って来た。

( げええっ・・!? )

 野郎、公序良俗に反する行為をする気だなッ?

 パンツに手を掛け、ストッキングごと、乱暴に引き下ろす。 男は、自分のズボンのチャックを下ろし始めた。 ひええェ~っ・・! 最悪の展開だ。 僕、男なんだけど・・・?

 ヤツは、僕の戸惑いなどお構いなく、僕の足を持ち上げ、下半身を露にしようとした。

 野郎っ・・! てめえなんぞに、美津子先生の大事な部分を見せてたまるか! 断じて、阻止だ! させるかあァーッ!

 僕は、草むらを手探りし、何か、反撃するモノが落ちていないか探った。 ・・ナニかが、手に触れた。 細い、金属の棒のような物だ。

( コイツを、お見舞いしてやる・・! )

 振り回そうとしたが、かなり重い。 何かの一部のようだ。

「 う・・ うおおおおおお~ッ・・! 」

 僕は、渾身の力を込めてそれを持ち上げ、僕の股間をまさぐっている男の後頭部に振り下ろした。

『 ゴキィッ・・! 』

「 うごっ! 」

 短い叫び声と共に、男は、僕の股間に顔をうずめると、動かなくなった。

 ・・・何か、妙な打撲音がしたぞ・・・? もしかしたら、死んだかもしれん。

 男の肩を持ち、仰向けにひっくり返すと、白目をむいて、男は気絶していた。 僕が投げつけたのは、打ち捨てられていた三輪車だった。 しかも、かなり古い鉄製の・・・


 僕は、下げ降ろされた下着を履き直し、気絶した男を三輪車に乗せると、引きずるように引っ張りながら、先程のファミレスの駐車場へ凱旋した。

「 ・・みっ・・ 美津子さんっ! 」

 僕の姿を見つけた祥一が、駆け付ける。

「 大丈夫かいっ?! ケガは・・ どこもケガは、無いかいっ・・?! 」

「 大丈夫よ。 はい、お母様・・ バッグ 」

 母親は、唖然としながら、バッグを受け取った。 かすみが、三輪車に乗っている男を見て尋ねた。

「 みちる・・ いや、美津子姉さん。 この人、気絶してるの・・・? 」

「 レイプしようとして来たから、思わず、捨てられていた三輪車、投げちゃった。 警察は、まだ? 」

 かすみが、だらりとした男の首筋を、恐る恐る突付きながら答えた。

「 さっき通報したから、もうすぐ来るよ? 」

 僕は、男の履いていたズボンからベルトを抜き取ると、それで男の足を三輪車に縛り付け、言った。

「 とんだ食事会に、なっちゃったわね。 かすみは、遅くなるからタクシーで帰りなさい。 あたしは警察の事情聴取で、まだ、ここにいなきゃならないと思うから 」

 やがて、遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえて来た。


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