20、新生、仙道寺
20、新生、仙道寺
神岡が、頭を垂れて言った。
「 オレらの完敗っス、かすみ嬢・・・! 男として、潔く負けを認めます! 数々の無礼・・ 星野会頭にも、お詫びしたく、参りました・・・! 」
星川が、星野になっとる。 サバラスの記憶操作だ。 こういう辺りは完璧なのに、何で肝心なトコが、いつも抜け落ちる?
星野は言った。
「 潔いな、神岡・・・! 鬼龍会としては、頭が素直にケジメを付けに来た仙道寺を、これ以上、関知はしない。 武蔵野や他校を攻撃しない限り、お前たちとは、友好関係でもある 」
・・・カッコいいね、星野。 サマになっとるわ。 中身も元に戻った事だし、その言動も一際、凛としてるね。
神岡は言った。
「 寛大な処置、有難うございます 」
星野が追伸する。
「 だが、お前たちが重ねた犯罪は、謝ったくらいじゃ、済まされないぞ? 実際、何人も死んでいる・・・! 自首するかどうかは、お前たちの判断に任せるが、それで免責叶ったと思うなよ? 」
神岡が、うつむいたまま、神妙な表情で答えた。
「 承知してます・・・ 」
星野は続けた。
「 まあ、自首したところで、死んだ者は生き返らん。 今日までの事は、今日までだ・・・ 立派に更生し、努力する方が、死んだ者への最良の謝罪になるんじゃないかと、あたしは思うが? 」
無言なままの、神岡。
星野は、小さく息をつくと、腕組をして神岡に聞いた。
「 傘下にした学校の処理は、どうするんだ? 」
「 全て、開放します。 ウチらも、星野会頭の鬼龍会同様、自衛組織として再出発させます 」
「 それがいいだろう・・・ 他区では、この辺り同様、様々なグループが勢力争いを繰り広げている。 いつ、外から侵略されるか、分からん。 内輪モメをしている時では、ないからな。 共に、治安維持に励もうじゃないか 」
「 有難うございます、星野会頭・・・! オレら・・ 一生懸命、精進します・・! 」
正座したまま、星野に一礼する神岡。 他の者たちも、同様に一礼した。 てっきり、仕返しに来たと思ったが、事態は良い方へ展開しようとしているらしい。 一安心だ。
神岡は、僕の方に向き直ると言った。
「 かすみ嬢・・! オレら・・ 可憐で勇敢な、かすみ嬢にホレました・・! 是非、オレらの頭になって下さい! お願いしますっ! 」
・・・は? ナンちゅう展開じゃ、そりゃ・・・! ヤンキーデビューどころの話じゃ、なくなって来たぞ?
当のかすみ( 僕 )は、ポカ~ンと、口を開けている。
・・・かすみには、無理だ。
あの、劣悪非道の仙道寺が、ファンタジー・茶目っけ・仲良し同好会に変貌するのは間違いない。 また、それも一興かとは思うが、ハッキリ言って気持ち悪い。 魅惑の世界どころか、驚愕の世界だ。 それ以前に、神岡の精神が持つまい。
僕は悩んだ。 再び、かすみを見たが、顔の前で掌を縦にして振り、『 無理・無理! 』というようなゼスチャーである。
僕は言った。
「 オレ・・ いや、あたしは、星・・ いや、河合さんのお手伝いをしてるだけだしぃ~・・ 塾もあるしぃ~・・? 超、全然、無理っぽいしいぃ~? 」
無理やり、今時の女子高生言葉で喋ったら、脳みそスポンジ状態の女子高生になってしまった。
「 そこを何とか、ひとつ・・! 」
神岡は、額を床に擦り付けて嘆願する。 男が、ここまで言ってんだ。 邪険にすると自殺するかもしれんぞ? コイツ。 列車には飛び込むなよ? ダイヤが乱れて、乗客に迷惑が掛かるからよ・・・!
神岡は、尚も続けて言った。
「 オレら・・・ 今まで、テキトーかまして、いい加減なコトばっかりやって来ました。 真面目になるったって・・ ハッキリ言って、どうすればいいのか、分からんです。 指導して欲しいんっス! 星野会頭の鬼龍会のように、みんなに頼られて・・ 尚且つ、カッコ良く行きたいんっス・・・! 」
先生の言うコト聞いて、大人しくしてしてればイイの。 そんで、みんな、部活やんなさい。 空手部へは、ウチのお袋か、ヒゲ親父に行ってもらうから。
星野が言った。
「 神岡よ・・ その意志があれば、充分なんじゃないのか? 暴力で人を虐げても、恐れられるだろうが、尊敬はされない。 人の頂点に立とうとは思わず、皆を引っ張って行こうと言う気持ちがあれば、人はついて来るものだ 」
神岡が答える。
「 でも、オレたちには、新しい指導者が必要です・・・! かすみ嬢のような、可憐で勇敢なお嬢がいれば、アホなオレらでも、頭切り替えて更生出来るような気がするんです・・・! かすみ嬢の為だったらオレら、何でもやります! 」
・・・困った。 連中、かすみを、尊師のように見ているらしい。 ある意味、マインドコントロールされているようだ。 ビールビンや、ジョニ黒・ロイヤルは、かなり効き目があったらしいな。
僕は答えた。
「 ・・では、条件があります。 私は、特別顧問として下さい。 それと、過剰な護衛は、付けない事。 基本的に、活動は鬼龍会の管轄の元、常に、担当者を通し、報告をする事・・・! 最高決定権は、私が下しますが、通常の業務は、神岡さんが代行して行って下さい。 了承頂けますか? 」
「 そりゃもう・・! かすみ嬢の冠が頂けるなら、オレら、全然オッケーですっ! 」
少々、不服そうな、かすみ。 仕方ないだろ? この場を丸く治めるには、こうするしかないじゃんかよ。
星野も、苦笑いしている。
出っ歯の男が言った。
「 やった! こんな、可愛くて強いお嬢が、オレらの頭っスかっ?! 感激っス! 」
「 もう、お嬢って言うな! 今から、オレらの頭なんだぞ? 総長と呼ばねえか! 」
神岡が、たしなめる。
後ろの連中が、ボソボソと話している。
「 ・・ムサ苦しい、ウチらの体質も、やっとこれで改善されるな・・・! 」
「 おう。 お仕置きも、あるんかな・・・? 」
・・・お前ら、基本的にマニアだな?
神岡が、僕に言った。
「 早速ですが、総長。 襲名披露を行いたいと思いますが、明日の放課後、ウチの学校まで来て頂けますか? 」
・・・いきなり、そう来たか。 さぞや、物騒な連中ばかり、列席してるんだろうな。 ウチの幹部会の方が、もっとコワイけど・・・
しかし、そのうち、体が元通りになった後は、かすみが行く事になる。 ここはひとつ、かすみにも情況を見ておいてもらった方が良さそうだ。
僕は、神岡に言った。
「 分かりました。 でも、立会人として、河合さんも同行させて下さい。 基本的に、私は、河合さんの部下ですから 」
神岡が答える。
「 おおう・・! 鬼龍会の関係者が列席下さるとは、光栄です! 襲名披露に、ハクが付きますわ。 是非、こちらからもお願い致します 」
神岡は、横に正座していた刺青男に言った。
「 コージ! 準備は、抜かりなくやるんだぞ! 総長の初登校だ。 会場は、武道場でやるからな。 ちゃんと掃除しておけよ? 」
コージと呼ばれた刺青男が答えた。
「 承知しました! 杯のポン酒は、大吟醸にします? 」
それを聞いた神岡が、ニコニコしながら振り返ると、僕に聞いた。
「 宜しいですか? 総長。 旨い地酒もあるんですが? 」
・・・あのな。
僕は答えた。
「 ジュースにしなさい 」
「 ・・・は? 」
「 アップルジュースがいいです。 出来れば、○っちゃんで 」
『 ○っちゃん りんご 』は、かすみのお気に入りである。
「 なるほど。 総長は、ゲコでいらっしゃるのですね? 分かりました。 総長のは、○っちゃんのアップルジュース、と言う事で・・・ 」
僕は言った。
「 皆さんも、そうして下さい。 校内で飲酒など、とんでもない事です! 」
「 ・・・・・ 」
コージの後ろで正座していた男が、隣の男にささやいた。
「 ・・・アップルジュースで、杯、交わすのか? 」
「 楽しそうだな・・・! 」
神岡が、コージに言った。
「 コージ・・・ 全員、○っちゃんだ 」
「 へい・・・ あのぉ~・・ その後に、懇談会がありますが・・・ ○っちゃんで、肴をつまむんスか? 」
僕は、コージに提案した。
「 ○ッキーにしましょう! 」
「 ・・・はい? 」
「 イチゴ○ッキーです! 決まりっ! 」
「 ・・・・・ 」
無言のコージ。
神岡が、コージの方を向いて静かに、強く、言った。
「 ・・・イ・・ イチゴ○ッキーだ! 聞こえねえのか? 」
言いながらも、少し、目の下をプルプルさせている。
「 ・・・へい。 イチゴ・・ っスね・・・? 」
後ろの男が、また隣の男に耳打ちする。
「 おい・・ イチゴ○ッキー、だとよ・・・! 」
「 バカ、うめえんだぞ? アレ 」
僕は言った。
「 今回は特別に、私からも、ご挨拶の品を持って行きます。 ○っぱえびせん、1ダース! 親戚に、卸をしている叔父さんがいるの 」
「 ・・・・・ 」
声が無い、神岡。
後ろの連中が、耳打ちした。
「 ・・・○っぱえびせんだと 」
「 止まらなくなるんだぞ? アレ 」
コージが、ぼそっと神岡に言った。
「 オレら・・・ 完璧に、更生出来るような気がして来ました・・・ 」
神岡も、呟くように答える。
「 ・・・そうだな・・・ 最初は、辛そうだがな・・・ 」




