2、お出迎え
2、お出迎え
「 お荷物、お持ちします 」
男は、僕の通学カバンを持ってくれた。
「 参りましょう・・・ 」
駅の方へ歩き始める、男。
( さて、コイツは一体、ナニ者だ・・・? )
見たところ、武蔵野明陵の制服を着ている。 だとすれば、かなり頭は、いいハズ・・・ しかし、どう見てもヤーさんだ。 インテリヤクザ、といったところだ。 更に、僕は、どう見ても迎えに来てもらっているらしい。 しかも、母の話しでは、毎朝のようだ。
( さっきコイツ・・ オレの事を姉御、と言ってたぞ? )
僕は、男の正体も、自分の正体も分からない。 最悪だ。 もう、好きにしてくれ。
男の後をついて歩いていくと、駅前の公園に差し掛かった。 公園の公衆トイレの影から、1人の男が、ゆらりと出て来る。 コイツも、同じ、武蔵野明陵の制服を着ていた。 ごっつい体格で、髪は短め。 眉間にシワを寄せた目は細く、異様な威圧感を感じさせる。
( また、物騒な雰囲気の男が出て来たぞ・・? )
デカい男は、インテリヤクザに言った。
「 ・・よう、マサ。 怪しい人影は無かったか? 」
この、迎えに来ていたインテリヤクザは、マサって言うのか。
マサは、新たに出て来た、デカイ男に答えた。
「 今のところは、な。 ・・車は、どうした? 電車じゃ、危なかしっくてイカン 」
「 サブが、回して来るはずだ。 もうそろそろだろう 」
・・ねえ、君たち。 ナニが危ないのかな? 僕にも、教えてくれない? 君らの物騒な顔立ちと、何か関係があるのかな?
マジで、そう聞きたかったが、とりあえずヤメておいた。
マサが、デカ男に聞いた。
「 龍二。 常盤学院の連中は、ヤル気なのか? 」
あのデカイ男は、龍二と言うらしい。 マサに、龍二・・ どっかで聞いた事があるんだが・・・? 思い出せん。 Vシネマ辺りに出て来た、ヤクザだったっけ?
龍二とやらが、答えた。
「 海南高校の連中も浜島二高も、仙道寺の神岡が、怖ええんだよ。 腰抜け連中とは、組まねえ方がいい 」
・・・常盤・海南・浜二って、思っきし不良高なんだケド・・・? その中でも、仙道寺高校と言ったらアンタ、別名『 ヤクザ養成高 』じゃん。 そんな、素敵な連中と、お友だちなの? 君ら。 僕、あっちに行ってて、いい?
やがて、公園の中や駅舎の中から、バラバラと7~8人の男たちが現れた。 僕とマサ、龍二を、無言で取り囲む。 皆、目をギラギラさせ、チャキッと、バタフライナイフなんぞを取り出すヤツもいる。
( またまた、物騒な連中が出て来た・・! )
どうなってるの? 僕、まだ起きてから2時間も経ってないのに、すんげ~心臓バクバク状態、連チャンなんだけど・・・? 君らも、朝っぱらから、そんな目するの、やめなさい。 ね? ・・ほら、龍二クンも、メンチ切らないの。 ただでさえ、おっかない顔してんだからさ。 ・・マサくん、相手を挑発するような、その薄ら笑いもヤメようか・・? ねえ?
しかし、僕の動揺など、全くお構いなしのようである。( 当たり前 )
取り囲んだ男たちの内、数人が、海南高校の制服を着ている・・・!
やがて、リーダーらしい茶髪の男が言った。
「 ・・・よ~、マサ。 お前や、龍二に護衛されるほどの女って、誰よ? あ? 」
マサが、ニヤついたまま答えた。
「 待ち伏せしてやがったクセに、知らねえのか? ボケが 」
・・・挑発すんなって、おい。
茶髪の男は言った。
「 常盤と浜二は、乗らねえよ。 タテつくんなら、お前ら武蔵野だけでやるんだな・・・! 」
龍二が答えた。
「 へっ、弱いヤツラほど、群れたがるモンだぜ。 1人じゃ、何も出来ねえボンクラ揃いだ。 せいぜい、仲良くしてな。 仙道寺の犬どもが・・・! 」
挑発するなってば・・! ほら、ほらぁ~・・! そこの兄ちゃん、襲い掛かって来そうな目、してんじゃんよぉ~・・!
茶髪の男が、再び言った。
「 仙道寺連合の、最終通達を言うぜ・・! 武蔵野は、潰す! 」
そう言った瞬間、マサのハイキックが、茶髪男の延髄を捕らえた。 見事な、早ワザ。 1発で茶髪男は、地面にころがった。
一瞬、引く、男たち。 次の瞬間、龍二が、2人を鷲づかみにし、傍らにあった公園の大きな石に叩きつける。 ・・これは、痛そうだ。 コイツは、人間凶器か?
うろたえた男たちに、マサが容赦なく襲い掛かった。
よく、映画やTVドラマなどで殴り合いの音を聞くが、実際、あんな小気味良い音はしない。 ベチャッとか、ガジッと、歯が合う音なんかが、生々しく聞こえるものである。
そんなSEが、数回聞こえたかと思うと、全ての男たちが、地面にころがっていた。
( ・・護衛される方で良かったぜ。 相手する方だったら、最悪だったな・・! コイツら、まさに人間凶器だ )
人間凶器・・・? そうだ! 思い出したぞっ・・! 人間凶器、内田 龍二・・・! 元、高校空手日本一。 武蔵野明陵 鬼龍会の幹事長だ・・・! 都内の高校生で、その名を知らない者は、いない。 ・・こっちのインテリヤクザは、通称、吉祥寺の狂犬、鬼頭 政二だ・・! 鬼龍会の副会頭で、15人相手に、7人を半殺しにしたという、伝説の男。 そして、その鬼龍会 会頭は・・・ え~と、確か名前が、星野 みちる・・ とか言う、女生徒・・ だったような・・・?
( ・・え? まさか・・・ )
それが、僕なのかっ・・? この体の持ち主は、あの有名な鬼龍会 会頭、星野 みちる だってのかっ?
・・・ぜ・・ 全っ然、無理! 代役なんて、とんでもないっ! 命が、いくつあっても足りんぞ・・! 人形! 早く、僕を元に戻せっ! 今すぐだ! よりによって、鬼龍会だと~・・・? 現在、不良高同士で行われている勢力争い紛争の、真っ只中じゃないか。 先週も渋谷で、ヤンキー共のケンカ事件があり、1人死んでるんだぞ?
鬼龍会は、自校生徒の自衛の為に、有志で結成された風紀委員会、と聞いているが、他人から見れば、ヤンキーに変わりは無い。 超不良高の仙道寺の傘下に加わるか、他校と連合を組んで抵抗するか、で争っているとの事である。
・・・これは、えらい事になって来た。 名前が、1字違うだけだが、リスクは、天と地との差がある。 やっぱり僕、あっち行ってて、いい・・・?
やがて、フルスモークの1台の車が、公園入り口にやって来た。 型落ちの、黒塗りクラウンだ。 メーカーロゴや車名プレートが金メッキで、何か、アブナイ雰囲気のする車である。 リヤガラスには、『 YAZAWA 』の白い文字プリントが、デカデカと貼ってある。
運転席から、武蔵野の制服を着た男が、下りて来て言った。
「 ありゃ? もう、一騒動あったんですか? 」
龍二が答えた。
「 おう、サブ。 ウオーミングアップが、終わったトコだ。 姉御、どうぞ・・・ 」
龍二が、後部座席のドアを開け、僕に乗るよう、勧めた。 ・・真っ赤な地のシートに、紫のクッション。 ・・いい趣味だ。 まさに未知の世界。 意味も無く、ドキドキするわ。
マサが、サブに言った。
「 オレたちは、ち~と、浜二に行って来る。 連中の、真意を確かめにな。 姉御を頼むぞ? 」
「 分かりました。 きっちり、学校へ送らせてもらいます。 会議は、予定通り、授業後からでいいですか? 」
「 おう。 幹部は、必ず出席するように伝えておけ。 いいな? 」
「 分かりました 」
サブと言う男が、ドアを閉め、運転席に乗り込んで来た。 走り出した車の外に立っているマサと龍二を見ると、2人とも、お辞儀をして車を見送っている。 任侠だ・・ 仁義無き戦いのようだ・・・! ホントに、あの二人は、高校生か?
「 姉御・・ いや、会頭をお乗せ出来るなんて、光栄っス! 」
サブは、嬉しそうに言った。
「 この車は、お前のか? 」
星野がいつも、どんな口調で喋るのか分からなかったので、少々、トーンを落として喋ってみた。 多分、こんなんだろう・・・
サブが答えた。
「 いやあ、兄貴のっスよ! 自分、まだ17っスから、はっはっは! 」
・・・てめえ、無免じゃねえか。 高らかに笑ってんじゃねえよ。
僕を乗せた怪しげなクラウンは、軽やかにセンターラインを踏みつつ、対向車線に、堂々とはみ出しながら、朝の街を疾走して行った。




