19、何とかしてくれ!
19、何とかしてくれ!
「 ・・た、助けてくれ・・・! もう、何もしないから。 ほら・・ ナイフも捨てるよ、な? 」
出っ歯が、ナイフを地面に置いた。 ひざまずき、両手を上げている。
僕は、ガラスに映ったかすみの姿を見据えたまま、呆然としていた。 ・・ワケが分からない。 さっきまでは、星野だったのに、今は、かすみになっている・・・!
両掌を交互に裏返し、見つめる。 見覚えのある、小さな手・・・
「 ・・・・・ 」
サバラス・・・ てめえ、やりやがったな・・?! 失敗したんだろ・・!? ってゆ~か、間違えおったな・・! ドッチでも良いわ、同じコトだ! 入れ替わったのは、僕だけか? 星野は? かすみは、誰と入れ替わってんだ? 報告に来んか、てめえっ!
出っ歯が言った。
「 お・・ お前らの勝ちだ! 神岡さんも、ヤられちまったし・・ 仙道寺は解散だ! もう、手出しはしねえから、見逃してくれ、な? 」
そんな事は、この際、どうでもいいっ!
僕は言った。
「 さっさと、消えろッ! 」
ああ・・ 可愛い声。 怒った声も、素敵だね、かすみ・・! って、陶酔している場合じゃない。
僕の声に弾かれた如く、出っ歯は、一目散に逃げ出して行った。
携帯を出し、星野にダイヤルする。 ・・この携帯は、僕のものだ。 星野と入れ替わった時もそうだったが、どうやって瞬時に、体だけ入れ替えるのだろう? この辺りは、まさに、未知の世界が成せる技だ・・・
しばらくの呼び出し音の後、星野が出た。
『 星川か? やったな! 元に戻ったじゃないか! そっちは、どうだ? コッチは、すべて倒した。 急に、あたしが現れた時の、あいつらの顔といったらなかったぞ? 神岡は、そっちに行ったらしい 』
星野は、元に戻っている。 ・・と、いう事は・・・!
僕は言った。
「 神岡は、倒した。 ココに転がってるよ・・・ 」
『 声が、ヘンだぞ? ・・誰だ、お前? 』
「 星川だよ 」
『 ・・・その声、かすみじゃないのか? 何で、そんなトコにいるんだ? 星川は・・ いや、星野は・・ ええい、もう、どっちか分からない! 彼氏を出せ! 』
「 僕だよ! どうやら、ソッチは元に戻ったが、僕は、かすみと入れ替わったらしいんだ! 」
『 ・・・・・ 』
「 サバラスが、しくじりやがったんだよ! 」
『 かすみと、入れ替わってしまったのか? 』
「 どうやら、そうらしい。 とにかく、会おう。 ゲーセンまで戻ってくれ! 」
『 よし、分かった! 』
携帯を切り、再び、ガラスを見つめる、僕。 かすみは、多岐学園の制服を着ている。 おそらく、下校途中だったのだろう。 もしかしたら、健一と一緒だったかもしれない。 だとすれば、厄介だ。 突然、入れ替わった僕の姿に、あのアホ健は、どう反応するだろう? かすみとて、同じだ。 2人とも、事のてん末を最初から説明しなくてはならない。 憂鬱だ・・・
でも、愛しいかすみが、僕のモノになった。 これは、素直に喜ぶべき事実かもしれない。
僕は、両手で自分の肩を抱き、かすみを抱きしめた。
( ああ、かすみ・・・! )
「 ・・・・・ 」
全っ然、実感、湧かんわっ! 右手で、胸の膨らみを確かめる。 おおおうっ・・! コッチの方は、強烈に実感出来るぞ。 気が、ヘンになりそうだ。 ・・ゴメンね、かすみ。 ちょっと触っちゃった・・!
再び、ゲーセンで、僕は、星野と再会した。
「 う~む・・ 見事に、かすみだな・・・! 」
星野は、僕を見ながら、感動したように言った。
「 ちくしょう、サバラスの野郎・・・! よりによって、かすみなんかを巻き込みやがって・・・! おかげで、かすみは、ヤンキーデビューを飾っちまったじゃねえかよ。 あの、仙道時の神岡を・・ 事もあろうか、ビールビンで殴ったんだぞ? 初登板のルーキーが、いきなりサヨナラ代打満塁ホームランを打ったようなモンだぜ 」
星野が、笑いながら言った。
「 お前、神岡をビールビンで殴ったのか? 何ともはや、畏れ入った話だな。 2人とも、鬼龍会の非常勤顧問として登録するか? 武術師範で 」
「 笑い事じゃないよ・・! かすみが心配だ。 サバラスは、ソッチに現れたかい? 」
「 いきなり現れて、秒読みをした後は、来てないな。 しばらくは、出て来ないんじゃないのか? 」
「 何で、わかる? 」
「 また、環境や記憶を操作しなくては、ならないだろう? おそらく、かなりの量のデータを処理しなくてはならないはずだ 」
なるほど・・ さすが、星野。 冷静な判断だ。
星野は続けた。
「 多分、かすみは、彼氏である、あんたに連絡してくるはずだ。 何なら、掛けてみろよ 」
モノは試しだ。 僕は、携帯を出した。 途端に、着メロが鳴る。 かすみからだ・・!
「 かすみかっ? 」
『 ・・・・・ 』
ナニも答えない。 そりゃ、そうだろう。 自分の声が聞こえて来るんだからな・・・
僕は言った。
「 かすみなんだろっ? 僕だ、みちるだよ・・・! 」
『 ・・・みちるぅ~・・・ 』
泣きそうな、僕の声。 気色悪い。
「 落ち着けよ、かすみ! 今、そばに誰かいるか? 健一とか・・ 」
『 健一とは、さっき、駅で別れたの。 家に帰って、着替えようとしたら・・ みちるになっちゃたのォ~・・・! 』
僕の声で、なよなよと喋らないで。 キモチ悪いから。
かすみは続けた。
『 お母さん、あたしを見ても、ちっとも動じないのよ? まるで、あたし、昔からみちるだったような喋り方するの・・! あたしのコト、みちるって言うし・・・ 家の表札は、河合のままよ? 河合 みちるなの、あたし 』
さすがに、男性名で『 かすみ 』はおかしいと思ったのだろう。 名前だけを記憶操作したか・・・ 多少は、学習したな、サバラス。 名字を変えていないトコは、手抜きのように思えるが・・?
僕は言った。
「 駅前の、『 パッパラパー 』っていうゲーセン、知ってっか? 今、そこに星野といる。 来てくれ 」
『 ・・うん、分かった。 行く。 待っててね? そこに居てよ・・・? 』
キモチ悪ィ~・・! 星野の時は、星野自身が、男喋りだったから良かったが、かすみは、モロに女言葉を使う。 ゲイと喋っているみたいだ。 頼むから、内股で歩くなよ? 片腕に、ポーチなんぞ掛けて来たりして・・・
しばらく待っていると、かすみが来た。 可愛らしい、ポーチを持って・・・
僕は、全てを話した。 僕が、あの朝、星野と入れ替わってから、今日、先程まで、全てだ。 かすみは、両手を、両ももの間に入れながら、じっと聞いていた。 そのポーズ、やめい・・! キモチ悪い。
かすみは言った。
「 ・・信じられないけど、事実なのね・・・! びっくりしたけど・・ 良かった。 入れ替わった相手が、みちるで・・・! 最初、どうしようかと思ったわ・・・! 何が何だか、分からなくなっちゃった 」
少し、笑顔が戻った、かすみ。
星野が言った。
「 おそらく・・ そのうち、サバラスが出て説明するだろう。 まあ、あたしの所には、出て来ないと思うが? 」
説明なんぞ、要らん。 速攻、ノックしてやるわ。
星野が続けた。
「 しばらく、目隠しの入浴は、続きそうだな? 星川。 まあ、お前たちの間柄なら、別に問題は、無いか・・・ 」
事態に気付いたかすみが、顔を赤らめる。
・・・キモチ悪い。
かすみが、更に顔を赤くして答えた。
「 ・・みちるになら、あたしの方は、良いケド・・? 」
いけませんっ! 血が逆流して、フロに入るどころの騒ぎじゃなくなります!
星野が、からかい半分で、かすみに助言した。
「 いいか? かすみ。 トイレで用を足す時には、だな・・ こうして、指先にペーパーを巻いてだな・・・ 」
「 ・・でっ、出来ませんっ! そんな・・ そんなコト・・・! 」
やれ! かすみ。 根性、見せんかいっ! 漏らすんじゃないぞ? 僕の品位に関わる。
「 ナンの話しかな~? ナンの話しかなぁ~・・・? 」
出たぁ~、サバラス!
また、テーブルの上から、顔半分だけ出し、いやらしく笑っている。
「 ・・きゃっ・・!! 」
初めて見たかすみが、小さく声を出し、驚いた。
僕は、着ていたかすみの、制服の胸ポケットにあったシャープペンシルを取り、モグラ叩きゲームのように出ていたサバラスの頭に、グサッと突き刺した。
「 サァ~バラスうぅ~・・・? てめえ~、よくもやってくれたなァ~? どうしてくれんだよッ! 」
僕は、突き刺したシャープペンシルを持ったまま、ヤツの頭をグリグリさせながら言った。
かすみが、手で口を押さえ、心配そうに言う。
「 ・・そんなコトして・・・! 死んじゃうんじゃないの? このヒト・・・? 」
「 この程度じゃ、死なん。 お前も、やったれ! かすみ 」
サバラスが言った。
「 いやあ~、すまんね。 かすみさんとやら。 お詫びに、ペルセウスの太陽風焼きダンゴを買って来たんだが、食うかね? 」
僕は言った。
「 要らん! 2tもあるんだろうが? それ 」
かすみが答える。
「 頂きます 」
・・・食うんかよ、かすみ。
「 まあ、もう一度、プログラムを見直して、再チャレンジを・・ 」
サバラスが、そう言った時、数人の男たちが、僕らを取り囲んだ。 例によって、サバラスは消えている。
「 ・・お前ら・・! 」
星野が、険しい表情で、連中を睨んだ。
神岡だ・・・! 頭を、包帯でグルグル巻きにしている。 傍らには、刺青の男・・ ジョニ黒で、トドメを刺してやったヤツだ。 仕返しに来やがったのか? その後ろには、出っ歯の男。 見覚えの無い男たちも、数人がいる。 皆、顔や腕に打撲の跡があった。
神岡は、じっと僕を見つめると、突然、床に正座し、手をついた。
「 ? 」
他の者も、神岡に続き、正座する。
・・・何だ? 何が、始まるんだ・・・?




