18、かすみ、現る・・・?
18、かすみ、現る・・・?
疑問に思うのだが、体が入れ替わったのに、ナンで、体力は変わらずなんだ? 女性である星野の体力を考慮しても、明らかにスタミナが無い。 体が入れ替わる以前の、運動不足状態の僕のままだ。 すぐに、息が切れてしまう。 矢島と、一戦を交えた時もそうだった・・・
だいたい僕は、日頃から運動不足だ。 イカン、イカンと思いつつも、つい怠けてしまっていたのだ。 体育の時ぐらいだもんな、運動するのは・・・
過去、実は、早朝ランニングを決意した時もあったが、2日で頓挫してしまった。 あの、ヒゲ親父がしゃしゃり出て来たからだ。
「 おはよう、みちるクン! 一緒に、走ろうじゃないか。 とりあえず10キロ、イッてみようかあ~! 」
・・・ナニが10キロだ、てめえは。 成層圏まで走って行くつもりはないぞ? しかも、『 とりあえず 』とは、どう言う了見だ、コラ。 明日は20キロか? 死ぬわ! おそらく、お袋からの情報をキャッチしたに違いない。 息子のゴキゲンを取りたいのなら、メシでも奢らんか。 その方が数倍、効き目があるぞ? オッさん。
日曜に、ジムに通おうかとも考えた。 近くのフィットネスジムで、バイトを募集していたのだ。 一石二鳥! タダで、ジムが使える・・・! だが、その計画も、かすみの携帯で泡と化した。
『 ねえ、みちるぅ~ 日曜は、映画見に行こうよぉ~! 遊園地も行きたいな。 とにかく、毎週逢ってよ? 』
僕は、デレデレしながら答えた。
「 もちろんじゃないか、かすみぃ~! 日曜は、かすみの為に、オールウエイズ・スタンバイよ? 」
ナニが、オールウエイズじゃ。 イザという時の為に、多少でも、体を鍛えておけば良かったぜ・・! マジで。
・・・息が切れた! 随分、走ったが、連中は、まだ追って来るようだ。
「 コッチに行ったようです、神岡さん! 」
路地を隔てた向こう側から、声がする。
( ンもォう~、しつこいな! その労力を、もっと他に還元せえよ・・・! )
僕は、再び走り始めた。
しばらくすると、少し広い空間に出た。 とあるスナックの、裏口のようだ。 バスケットに入れられた使用済みのおしぼりや、洋酒・ビールの空き瓶が、置いてある。 そのまま向こうは、大通り。 右には、更に路地が続いている。
( どうする? 大通りに出ると、連中に見つかるかもしれん。 このまま、まだしばらく、路地裏を逃走した方が良さそうだな・・・ )
「 やあ、星川クン! 」
イキナリ、人形が出た・・!
サングラスを、クイッと上げ、サバラスは言った。
「 鬼ごっこかね? 私も、混ぜてくれたまえ 」
じゃ、代わりにお前、ナイフで刺されろ・・! ドコの世界に、こんなひっ迫した表情で、鬼ごっこするヤツがいるってんだ? 情況を推察せえ。 今、お前と遊んでいるヒマは、無い! 人生の危機なのだ。 明日まで、消えてろ!
僕は無視し、右の路地へ入った。
「 のけものにちゃ、イヤ、イヤあぁ~ん! 」
僕の背中に負ぶさり、甘えた声を出す、サバラス。
お・・ 重てええェ~っ! 降りろ、てめえ~っ! 小泣き爺か、てめえはっ!
僕は、走りながらサバラスを掴み降ろすと、切れた蛍光灯、数本が入ったポリバケツの中に放り込んだ。
グワシャーン、パリーン!!
ずっしりとした感じが、再び、肩に掛かる。
「 地球人の愛情表現は、過激でイカンのう~ 」
額に、割れた蛍光灯の破片を、幾つも刺したサバラスが、僕の背中で言った。
・・・お前、ヒトの一大事をもて遊んで、さぞかし、楽しいだろうな?
次の路地を回った所で、僕は立ち止まり、一息尽いた。
サバラスが背中から飛び降り、言った。
「 実は、明日の予定が、変更になったのだ 」
そら来た・・! 大体、想像ついてたぜ。 いつだ? あさってか? 1週間後か? それとも、半年後か? もういい、スキにせえ・・・!
「 今日、行う! 」
「 ・・へっ? 」
「 へっ、じゃない。 もうすぐだ 」
「 ・・・・・ 」
「 あと2分 」
「 ・・・おい 」
「 間違えた、あと30秒 」
「 おいッ! フザケんな! こんなトコでやるんかよッ!? 」
「 GOォ~ッ! 」
「 ごおお~、じゃねえっ! 陶酔すんな、てめえ! もっとこう・・ 厳かにだな・・ 」
「 いましたッ! 神岡さん、コッチですっ! 」
しまった! 見つかった・・!
時遅し。 2人の男が、路地から出て来た。 神岡も、後から姿を表わす。
( ・・先手必勝ッ・・!! )
僕は、足元に転がっていたビールビンを掴むと、路地から顔を出したばかりの神岡の頭( 頭頂部 )を、思いっきりブン殴った。
バキャッ! パリーン、カラカラ、カラ・・・
粉々に割れたビールビンの破片が、そこいら中に飛び散る。
「 ・・お・・お・・・ お 」
神岡は、口を開けたまま、目の下辺りをヒクヒクさせている。
すかさず、洋酒の空き瓶が5~6本、まとめて置いてあった中から1本の空き瓶を拾い( ジョニ黒 )、今度は、ヤツの顔面にお見舞いした。
「 えぶっ・・!! 」
ゴキッ、という衝撃音。 ビンの角部分が、鼻筋にヒットしたらしい。 コレは、痛そうだ・・!絶対、やられる方には、なりたくない。
「 ・・・ぶ、ぶふっ・・! 」
鼻血を、霧吹きで吹いたかのように、ぶばっ、と吹き出し、神岡は仰向けにひっくり返った。
( トドメだ! )
○ントリー・オールド( 業務用のデカイやつ )の空き瓶を両手で持ち、頭の上に振り被ると、僕は、足元に転がっている神岡の顔面めがけて投げつけた。 投げる瞬間、コレをやると死ぬかもしれんと思ったが、もう遅い。 超、ハデな音を立ててウイスキービンは、ヤツの顔の上で粉々に飛び散った。
「 わぎゃ、ぶっ・・!! 」
電気ショックを処置した心拍停止患者のように、一瞬、体中を硬直した神岡は、短い叫び声と共に沈黙した。
・・・目ン玉が、ひっくり返っている。 瞳孔も開いているんじゃないのか? コイツ・・・
僕は、更に、○ントリー・ロイヤル15年を手に、残った連中を睨みつけた。
1人は、ヤセた男で、出っ歯。 もう1人は、Tシャツにジーンズ。 短い金髪を立たせた男だ。 両腕に刺青をしている。
出っ歯が言った。
「 な・・ ナニしやがるんだ、コイツ・・! 」
ナニって、ウイスキービンを投げつけたんだよ。 見りゃ分かんだろ。
僕は言った。
「 てめえらも、頭で味わうか? サイコーの酔いだぞ? コレ 」
・・ん? 声が、何か変だ。 星野の声じゃない。 聞いた事、あるんだが・・ 気のせいか?
刺青男が言った。
「 てめえ~・・・! 星川は、ドコ行った? 素直に言わねえと、タダじゃおかねえからな! 」
・・は? ナニ言ってんの、お前ら。 目の前にいるじゃん。
出っ歯が、刺青男に言った。
「 コイツ・・ 情報屋の女だ! やっぱり、星野と、ツルんでやがったんだ! 」
・・・え?
刺青男が答えた。
「 面倒くせえっ、ヤッちまえ! 後でゆっくり、聞き出せばいいんだ! 」
ナイフを構え、刺青男が襲い掛かって来る。
ちょっと待て、お前ら! 情報屋の女って、ナンだ・・? そりゃ、かすみの事かっ・・・?
僕は、とりあえずロイヤルの空き瓶を振り回し、応戦した。 ・・と思ったら、瓶ネックのコルク栓が、ポンッという音と共に抜け、分厚いガラス瓶の底が、突進して来る刺青男の顔面を直撃した。
ゴキッ・・・!
「 ぬがぁっ・・!! 」
カウンター気味に直撃した、ロイヤルの空き瓶。 これもまた、痛そうだ。 仕上げに、先ほどから持っていたジョニ黒を、脳天にお見舞いする。
グワシャーン! パリン、パリーン・・・
うつ伏せになって倒れた、刺青男。 しばらく、ヒクヒクしていたが、やがて静かになった。
僕は、横にあった窓ガラスに、自分の姿を映してみた。
「 ・・・・・ 」
何で、僕・・ かすみになってるの・・・?
ガラスに映った僕の姿は、紛れも無い、あの愛しいかすみだった。




