16、突入せよ!
16、突入せよ!
比較的に古い、グレーの壁面のマンション。 どうやら、ワンルームの集合マンションのようだ。 繁華街から少し離れた住宅街に建っている6階建てである。 通りに面した各部屋のテラスには、量の少ない洗濯物が干されており、比較的、1人住まいの居住者が多いようだ。
「 5階の、左から2つ目・・・ シーツみたいな物が干してある部屋がそうです。 分かります? 」
マンションから、少し離れた路肩に停車したサブの車の中。 後部座席に座っていた僕の横にいたマサが、僕に言った。
「 ああ、分かるよ。 他の連中は、どうしてる? 」
マサが、辺りを確認して言った。
「 あっちの民家の影に、2~3人いますね。 常盤の連中です。 ・・マンションの駐車場に止めてある、黒いミニバン・・ アレも何か、怪しいですね 」
運転席のサブが、ガムをクチャクチャさせながら言った。
「 芹沢センパイたちが来ましたよ? 今、止まった、あの白いバンです 」
道路反対側の路肩に、『 わ 』ナンバーの白いバンが止まった。 どうやら、レンタカーを借りて来たようだ。 窓ガラスには、ベニヤ板で目張りがしてあり、運転席には、作業着姿の芹沢ちゃんが座っている。 ・・・キミも、無免かな? 豪気だね。 どうやって、レンタして来たのかな・・・? その車の荷台には、風紀局 精鋭部隊が、声を潜めて乗っているんだね? 乗車人員なんて、全く、お構いなしかい? 心強いわぁ~・・・
やがて、1台のセダンがやって来て、マンションの下の路肩に止まった。 バンパーがヘコんだ、かなり古い車だ。 おそらく、下取り価格は無いと思われる。 廃車手続きをするので手数料をください、という感じのゴキゲンな車だ。
車を観察していたサブが言った。
「 ・・出て来ましたよ、会頭! 矢島です! 」
そのセダンの後部座席から降りて来た男は、黒いズボンにグレーのパーカーを着て、黒のニット帽を被っていた。 髪は金髪。 後ろ髪が、異様に長い。 ・・・お前、それ、カッコいいと思ってんのか? 首からは、ジャラジャラと、十字架やピースマークのアクセサリーをぶら下げている。 ・・・センス、悪。
他にもう1人、後部座席から男が出て来たが、矢島は手をかざし、車に戻した。 これから、カノ女としっぽりする気なんだろう。 1人で行きたい気持ちは、よく分かる。 その男心を読み、クーデター発起を画策するトコなんざ、策略では、眉毛無しの勝ちだ。
矢島が、マンションの中に入った。 それを見定めてか、あちこちの物陰や、建物の影から常盤の連中が飛び出して来る・・・! 一体、ドコにこんなに隠れていたのか、と思うほどの人数だ。 全員、一斉に車を囲んだ。 マサが言った駐車場の車からも、バラバラと出て来た。 囲まれた車の中から、運転者と先程の男・・ あと、助手席に乗っていた男も車外に引っ張り出され、乱闘が始まった。
「 ・・あんな大勢で、乱闘始めやがって・・! すぐ、警察が来るぞ。 バカ共が! 」
マサが言った。
・・・ねえ、僕ら・・ いつ行く? マサ君や。
車に乗っていたのは、おそらく幹部だろう。 最初、車を取り囲んでいた数人が殴り倒され、路上に転がったが、多勢に無勢。 段々と、取り押さえられ、ボコボコに殴られている。 やがて3人の男たちは、駐車場に止めてあった例のミニバンまで、みこしを担ぐように運ばれて行った。 3人とも、ぐったりしている。 遠目で見ても、半殺しのようだ。 可哀想に・・・
マサが言った。
「 ヤラれたのは、副長と特攻隊長のようですね。 もう1人は、おそらく、組頭でしょう 」
3人の男を拉致したミニバンは、数人の男たちを乗せると、猛スピードで発進し、駐車場を出て行った。 多分、学校へ戻り、クーデター発起と、その成功を発表するのだろう。
ここまで来れば、成功したも同然だ。 あとは、大御所の始末である。
残った常盤の連中が、マンションの入り口に突入する。 それと同時に、芹沢ちゃん配下の、我が鬼龍会風紀局も出動である。 バンの後部扉が開けられ、常盤の制服を来た部員たちが、一斉に踊り出て来た。 この人数でかかれば、矢島が、いくら抵抗しようが、勝ち目は無いだろう。 もしかして、僕の出番、無いんじゃないの? 嬉しいな。
マンションの中から、騒ぎ声が聞こえる。 始まったな・・・?
どうやら、玄関ホールの辺りで騒いでいるようだ。 まだ、部屋に踏み込んでいないらしい。 どういう事だ?
僕の携帯に、連絡が入った。 芹沢ちゃんからだ。
「 涼子か? どうした? 手こずっているようだな 」
『 エレベーターホールに、護衛がいました! 2人です! かなりのヤリ手です・・! 』
芹沢ちゃんの声の後ろから、殴りあう音や、うめき声が聞こえる。
『 1人が、携帯で応援を呼んでいました。 まずいです・・! ゴタゴタしてると、応援が来ます! 』
ヤバイ。 そのうち、警察も来るだろう。
僕は言った。
「 どんな男だ? かなり強いのか? 」
『 常盤の連中では、歯が立ちません。 今、ウチの1番隊が、突っ込みました! あっ、明日香ッ・・! 』
「 どうした、涼子ッ!? 明日香が、ヤラれたのかっ・・!? 」
携帯は、ツー・ツーという、信号音に変わった。
僕は、携帯を放り投げると、車を飛び出した。
マサが言う。
「 姉御っ! 」
「 正木が、ヤラれた! 行くぞ、マサッ! 」
サブが言った。
「 会頭っ! これを・・! 」
そう言って、サブは、鉄パイプを出した。
うおっ? またコレか・・! お前、こんなモン、車に常備すんな。
「 グリップに、滑らないようにビニールテープを巻いておきました! 先端に、エルボー付きですわっ! 」
スペシャルメイドかよ。 確かに、持ち心地、最高だわ。 借りるぜっ・・!
僕は、マンションの入り口に向かった。
「 ! 」
・・何と、新たな常盤の連中が、路肩に止めてあったワゴン車から、降りて来るではないか! 万が一に備えて、矢島も警戒していたらしい。 何と、護衛が、他にもいたのだ! だから車から降りて来た男を静止したのか・・・! 幹部たちがやられていた時、加勢に出て行かなかったのは、人数的に不利と判断し、様子を見ていたのだろう。 だが、さすがに矢島が襲われるのを傍観しているわけにはいかない・・ おそらく、携帯で呼ばれた応援は、この連中たちのことなのだろう。
玄関前で鉢合わせをした僕も驚いたが、向こうは、もっと驚いたらしい。
「 ・・ほっ、星川っ? 」
「 星川が、いるぞッ! 」
「 な、何ィッ? 」
「 て・・ てて・・ 鉄パイプ、持っとる・・! 」
もう知らん!
「 常盤の、クズ共がァァ~ッ! 」
当たったら、ゴメンな。 凄んげえ~、痛いぞ? コレ。
僕は、鉄パイプを思いっきり振り回しながら、連中のド真中に突っ込んで行った。
ボクッ! ベコッ! メキョッ!
痛そうな衝撃音。 2人がフッ飛び、1人が、顔を押さえて唸っている。
「 わわっ・・! 来る、来る・・・! 」
残ったのは、5人。 突然の襲来で、及び腰だ。 偶然、当たった鉄パイプだが、そうそう偶然が重なるワケでは無い。 どうやって闘おうか・・?
一瞬、途方に暮れる、僕。
芸の無さを、噛み締めたその時、ひゃっほう~♪ という声と共に、マサが、連中に襲い掛かった。 ああ、可哀想に・・ 声も無く、赤子の手を捻るように、倒されていく連中・・・
「 マ、ママママ・・ マサ!? 狂犬マサが、ナンで、こんなトコにいるんだよっ・・! 」
そう叫んだ、最後の1人が、マサのハイキックで歩道に転がった。
「 会頭・・! 」
頬に、擦りキズを付けた芹沢ちゃん。
「 大丈夫か? 涼子っ! 」
エレベーターホールに入った僕は、その惨状に目を疑った。
・・・おおう・・! ココは、戦場か・・・?
エントランス、階段、至る所に人が転がって、唸っている。 常盤の連中は、全滅したらしい。 風紀の部員4・5人が、巨漢の男と対峙していた。
「 1人は、明日香が刺し違えて、倒しました・・・! 」
芹沢ちゃんの声に傍らを見ると、男子部員に抱き抱えられ、正木ちゃんが横たわっている。
「 大丈夫か、明日香? 」
近寄り、正木ちゃんに声を掛ける。
「 ・・大丈夫です、会頭・・! すみません、無様な姿で・・・ 」
抱き抱えている部員が、僕に言った。
「 あばらが、折れているようです・・・! 」
「 サブの車で、すぐに病院へ連れて行け! 」
部員は、もう1人の部員と共に正木ちゃんを抱き抱え、外へ連れ出した。
・・・野郎ォ~・・・! よくも、正木ちゃんをやってくれたな・・・!
階段の上で、仁王立ちのようになっている、大男。 かなりの手傷のようだ。 フウフウと、肩で息をしている。
僕は、対峙している部員を下がらせ、ヤツと向き合った。
男が言った。
「 ・・・星川っ? そうか、応援か・・・! いいだろう、相手に不足は無い。 ・・来いっ! 」
僕、行きたくないな。 ね、仲直り、しない? ・・ムダか。 目が血走っとる。 殺意、ムンムンだし。
僕は、思案した。 ヤツは、階段の上だ。 状況的には、上にいるヤツが、有利だ。 どうする・・・? 力・経験とも、ヤツの方が、上だ。 いや、センパイと言った方が、いいだろう。 マトモにやれば、いかに相手に疲労があろうとも、僕に勝ち目は無い。
・・・『 アレ 』を狙うしか、あるまい・・・!
そのスキが、ヤツにあるかどうかが、問題だが・・・?
固唾を飲んで見守る、マサ・芹沢たち。
行き詰まる時間・・・・
その時、ヤツの後ろのドアが開いた。
これだけの騒ぎを起こしたのだ。 当然、近くの居住者には、その騒ぎも聞こえている
事だろう。 静かになったので、様子を見てみようとしたらしい。 細く開けられたドアから、顔を少し出し、60代くらいの老婆が、コッチを見ている。
僕は、演出を掛けた。
「 どうもぉ~、お久し振りですぅ~! 」
久し振り? というような表情で、大男が、チラッと後ろを見た。
ソコだァァーッ!
ブンッ、という短い唸り音と共に、アンダースイングされた僕の鉄パイプは、確実に、ヤツの股間に吸い込まれて行った。
・・ボクッ!
確かな、手応え。 サブが装着してくれた、エルボーの部分も、期待通りに、ヤツのタマを直撃したようだ。
「 はぉうぶッ・・!! 」
股間を押さえながら、つま先立ちをして、大男は固まった。 目は、遠くの一点を見つめている。
・・・効いたな。
苦しいのは、よく分かるぞ? 今が、イチバン辛いトコだよな? どうしてイイか、分からんくらい、苦しいだろ? 分かる、分かるぞ~・・・? 悪く思うなよ。
額に、脂汗をいっぱい浮かせ、大男は、歯を食いしばっている。 声も出ないようだ。 楽にしたるか・・・
今度は、脳天に、鉄パイプが炸裂する。 ・・この前から、コレばっか。 また、いい加減なウワサが広まりそうだ。
大男は、股間を押さえたまま、踊り場に倒れ込んだ。
「 ・・お見事! 会頭! 居合切りのようですな! さすがです 」
マサが言った。
美化すんな。 金的を狙っただけじゃんか。 まあ、この手しか、僕的には、思い付かんわ。
「 女の部屋へ、行くぞ! 」
僕は、階段を駆け上がった。
・・・エレベーターを使えば良かった。 超、しんどい。 息切れがするわ! 日頃の運動不足がたたり、5階に着いた時には、僕は、疲労困憊になった。
面倒くせえェ~! もう、はよ終わらせようぜ・・・! 端から2つ目の部屋、と・・ ココか・・・!
ドアノブを回したが、カギが掛かっている。
「 お任せを・・ 」
マサが、細い針金のようなものを出し、鍵穴に差し込む。 手馴れた手つきだ。 ものの数秒で、ドアは開錠された。
・・・お前、ドコでそんな技術、覚えた? まあいい、さっさとヤルぞ!
疲労感があり、面倒くさくなって来た僕は、もう、どうでも良くなった。 恐怖感など、全く無い。 鉄パイプを持っているせいだろうか? 暴走バイクの後部座席で、似たようなものを振り回し、我が物顔をしている連中の気持ちが、今や、大変素直に理解出来る。 ナンでも来いや、という気分だ。
僕は、ドアを開け、鉄パイプを肩に担ぎながら室内に踏み込んだ。
「 はいよ、ゴメンなさいよぉ~ 」
室内では、矢島が、彼女と真っ最中であった。 ベッドの上から、こちらを振り返り、びっくりして言う。
「 なっ・・? お・・ お前、星川っ・・・? な、な、何しに来たッ? 」
お前を、ブチのめしに来たの。
「 きゃあああぁぁ~っ! 」
制服の上着をはだけ、下は、スッポンポンの女が、金切り声を上げる。 凄んげえ、光景だ。 目がツブれる。
矢島が、慌てて服に手を伸ばしながら言った。
「 て・・ 鉄パイプなんか、持ちやがって、てめえ・・・! 」
しかも、スペシャルメイドなの、これ。 サブが、作ってくれたんだよ? 上手でしょ?
フリチンのまま、ズボンを履こうとした矢島の脳天に、僕は、お構いなく、鉄パイプを振り下ろした。
クーデターは、成功した。
常盤学院は、武蔵野と友好関係を締結した・・・




