14、越えてはならない、一線
14、超えてはならない、一線
「 名前が判明しました。 その、眉毛の無い男は、瀬川 幸治と言う常盤の2年生です。組頭代理ですね 」
二見ちゃんが、部室にいた僕に報告しに来た。
「 瀬川か・・・ あとの2人は、分かるか? 」
僕の問いに、二見ちゃんは、報告書のファイルを見ながら答えた。
「 おそらく、1年の篠原と三宅でしょう。 瀬川とは、同じ中学の後輩です。 背の高い方が、篠原です 」
あの、パイナップルか・・・
二見ちゃんは続けた。
「 間違いなく、常盤の生徒です。 会長の矢島の信頼も、結構、厚いはずなのですが・・ クーデターですか・・・! 所詮、ウチのように、一枚岩じゃなかったという事ですね 」
ファイルを閉じ、それを僕に渡す。 目を通しながら、僕は言った。
「 連中は、近いうちに、必ず連絡して来る。 美智子とも相談し、早急に対応出来るよう、準備しておいてくれ 」
「 かしこまりました。 うまく行けば、海南同様、常盤も壊滅出来ますね・・・! 仙道寺も、単独では、こちらに手を出して来る事は無いと思います 」
「 そういう事だ。 力の均衡で、平和を維持するのだ。 いわば、冷戦状態だな。 傷付く者が出ないだけ、無益な報復連鎖を避けられる。 時期が来れば、講和の道も開かれるだろう・・・ これが、あたしの作戦だ。 武蔵野鬼龍会は、そのリーダーシップで、確固たるイニシアティブを取るのだ 」
「 素晴らしいです、会頭・・! お側で仕えられる私は、何て、幸せなのでしょう! 」
二見ちゃんは、感動していた。 心なしか、目がウルウルしている。 僕は少々、照れ臭くなった。
ファイルを執務机の上に置き、座っていた椅子から立ち上がった僕は、二見ちゃんの肩を軽く叩きながら言った。
「 これもみんな、お前たち部員たちが、あたしを支えてくれているお陰だ・・・ 感謝しているよ 」
二見ちゃんは、肩に置いた僕の手を両手で持ち、じっと、僕を見つめた。
「 ? 」
・・・ナニやら、イヤな予感。
二見ちゃんが言った。
「 すべて、会頭の指導力の賜物です・・・! 私たち・・ どこまででも、会頭について参ります 」
「 ・・お、おう。 期待してるよ。 共に、学園の治安維持に奮闘しよう 」
二見ちゃんは、僕の手を更に強く握り、じっと僕を見つめている。
「 ・・二見・・? 」
「 会頭・・・! 因幡付属の戸村さんを好意にされておられるのは、充分、存じております・・ でも、私だって・・・! 」
そう言いながら、僕の胸に顔を寄せる二見ちゃん。 やっぱ、来た~っ! また、この展開だ。 イカン、イカンぞ~・・! しかも今度は、同じ鬼龍会の幹部だ。 邪険にすると、頑丈な一枚岩にヒビが入りかねん! これは、ある意味、危機だ・・・!
僕は言った。
「 二見・・! 嬉しいが、あたしは・・・ 」
「 分かっております・・! 戸村さんがいらっしゃるのは、重々、承知しております 」
・・・いや、あのね・・・ その見解も、間違ってるんだけど?
二見ちゃんは続けた。
「 私は、こうしているだけで良いのです・・・ 星川会頭の胸に、抱いて頂けるだけで充分なのです。 ああ、会頭・・ お慕い申しております・・・! 」
何と、ささやかな愛。 まさに、純愛の情だ。 今時、こんな従順な情愛を見せる子が、いるだろうか? 僕は、ある意味、感動した。 戦前の、トーキー純愛映画を見ているようだ。 我が心、熱きときめきに、君、思ふ・・・ イカンッ! 自己陶酔しとる場合か! ここは、いずれ体が戻った星野の為にも、キッチリ、けじめを付けておかない事には・・・!
「 二見・・・ 」
「 イヤっ・・! 理恵って、呼んで下さい・・・! 」
「 り・・ 理恵 」
どえらい、恥ずかしい。
「 嬉しい・・・! 」
僕の首筋に、頭を摺り寄せる、二見ちゃん。 あおうっ・・! コッチが、ヘンな気分になるわっ!
二見ちゃんが、僕の耳に、ふう~っと、息を吹きかけた。
・・・やめ・・ ヤメれ、それ・・・!
妖艶に変化した声で、二見ちゃんは、僕の耳元で囁いた。
「 私を・・ メチャメチャにしてぇ・・・! 」
その言葉を聞いた途端、僕の、頑丈なはずの理性が、ものの見事に吹き飛んだ・・・!
「 り・・ 理恵・・! 」
次の瞬間、ドアをノックする音が・・!
「 会頭。 星野という方が、面会に来られました 」
( ・・ぐはううっ?! )
朝倉の声に、僕の心臓に、稲妻が走る。 いや、落雷したかもしれん。
慌てて、机の上にあったファイルを点検するような素振りを見せる、二見ちゃん。 僕も、戸棚の書類に手を伸ばし、テキトーに1冊、手に取る。
「 ・・お、おう、そうか。 通してくれ。 かすみの彼氏だ 」
「 かしこまりました 」
朝倉には、抱き合っていた事は分からなかったようだ。 ホッ・・・
「 ・・・では、私は、これで・・・ 」
二見ちゃんも顔を赤らめ、朝倉が閉めるドアと共に、そそくさと出て行く。
・・・危機一髪だった。 まさに、理性がフッ飛んだ瞬間だ。 恐ろしい・・・! 朝倉が来なかったら、どうなっていた事か。
やがて、朝倉に案内され、星野がやって来た。
「 美智子・・ 悪いが、席を外してくれ 」
「 かしこまりました 」
一礼して、部屋を出て行く朝倉。
星野が言った。
「 どうした? 顔が、赤いぞ? お前 」
イスに、どっかと座り、ため息を尽きながら僕は言った。
「 ・・・なあ、星野。 お前、誰か好きな人、いるか? 」
「 はあ~? 何、言ってんだ? 藪から棒に 」
パイプイスに座りながら、星野が聞く。
「 因幡付属の、戸村って子・・ どんな関係なんだ? 」
たちまち星野は、顔を赤らめた。
「 ・・・き、来たのかっ? 」
「 ああ。 モーレツに、アタックされたよ。 きれいな子だな 」
「 お前・・ お前、まさか・・ ヘンな事、してないだろうなッ? 」
「 ・・しそうだったけど・・ 」
「 したのかッ・・? したんだろうっ・・!! 」
「 勝手にさせんなっ! 何にもしてないよ。 おでこに、チュッて、しただけだ。 雰囲気的に、その程度なんだろ? あの子とは 」
「 ・・・ホントに、そうだな? 何にも、してないんだな・・・? 」
「 くどい! 誓って、ナンにもしていないよ。 オレを信じろ! 」
・・・さっきは、理性が、火星までフッ飛んで行ったがな・・・
星野は、まだ疑い深げに、僕を見ている。
僕は言った。
「 それよりは、二見ちゃんだ・・! 」
「 二見? 理恵が、どうかしたのか? 」
「 お前さんに、ホの字だとよ 」
星野は、意外だったらしく、ぽかんとしている。
「 ・・・理恵が、あたしに? そう言えば・・ 何か、あたしを見る目が、ヘンだったな・・・! 」
「 モテるねえ~ 今や、時の人だしな 」
「 お前が、そうしたんじゃないか。 それで・・ 理恵が、何て言ったんだ? 」
僕は、両手をクロスさせ、両掌を胸に当てながら言った。
「 お慕いしております、会頭~・・・! 私を、メチャクチャにして・・・ 」
星野は、更に、真っ赤になった。 恥ずかしそうにしている『 僕の顔 』を見ていると、大変に気色悪い。
僕は言った。
「 どうすんだよ。 二見ちゃん、ホンキだぞ? 純な子らしいし、ヘンに傷つけると、ナニしでかすか分からんぞ、あのタイプは 」
星野は言った。
「 ・・お前だから、言うが・・・ あたしも、理恵は、気に入っている・・・ 」
「 ・・・・・ 」
そういう展開なの? 女心って、分かんない、僕。
星野は弁明した。
「 カン違いするなよ? 好きとか、そんなんじゃなくて・・ 何て言うか、その・・ 落ち着くんだ、理恵といると 」
・・・これは、難しい解釈だ。 単なる、友情の段階なのか? 親愛の情とでも言おうか。
しかし、男勝りの星野でも、そんな感情を抱くんだ。 まあ、誰しも、どこか心の片隅には、心許せる相手を1人くらい持ちたいと思うものだろう。 星野も、例外では無かったという訳だ・・・
しかし、その相手が同姓であるのは、少々、問題だ。 偏見の目で見られる可能性がある。 普通の女性なら、問題は無いだろうが、星野は、鬼龍会の会頭だ。 しかも今は、緊迫した状態にある。 他校に知られれば、格好の攻撃手段の材料及び、中傷・誹謗の種だ。
まあ、恋愛に関しては、星野は、初心者らしい。 二見ちゃんに寄せる心情も、恋というような具体的なものでは無く、親愛に当たるようなものなのだろう。
僕は言った。
「 とりあえず、この事は、保留だ。 体が元に戻ったら、お前さん自身で、白黒ハッキリさせてくれ。 二見ちゃんが、再アタックして来ても、僕は、中立の態度をとる事にするよ 」
星野は、赤い顔をしたまま、うつむいている。
・・・意外な、事実だな。 気丈な星野にも、こんな面があるとは、知らなんだ。 まあ、恋愛は自由だ。 仲良くやってくれたまえ。
僕は言った。
「 それで・・ 今日は、何だ? 遊びに来たとは、思えんが? 」
「 ・・おお、そうだ。 例の常盤学院の連中から、連絡があってな。 Xデーは、あさってだそうだ・・・! 」
「 遂に、ヤル気か? あの連中 」
「 そうらしいな 」
眉毛無し・パイナップル・ジャニーズ系・・・ あの、頼りない3人で、大丈夫なのだろうか? ここぞと言う時に、我々としては、踏み込みたい。 常盤の内紛に乗じて、漁夫の利を得たと思われては、鬼龍会の沽券に関わる。 あくまで我々は、共同で矢島を倒した、という既成事実が欲しいところだ。
僕は、星野を交えて、少数幹部で会議を開く事にした。




