13、3人の訪問者
13、3人の訪問者
海南壊滅のウワサは、あっという間に広がった。
「 阿南・武村・斉木を、秒殺したらしい 」
「 鉄パイプ1本で、星川が、乗り込んだんだってよ・・! 」
「 風紀全員で、他のヤツらを病院送りにしたらしいぜ? 」
常盤・浜島二高はもとより、仙道寺にまで、そのウワサは広がった。
「 狂犬マサが来た頃にゃ、みんな、ノビとったらしいぞ? 」
「 星川は、海南を、3秒で秒殺したらしい・・! 」
・・・ウワサに尾ひれが付き、手も足も生えて、1人歩きしとる。
「 星川は、あの、ナイフの斉木と渡り合って、ナイフを白刃取りしたらしいぞ? 」
んなコト、しとらん。
「 少林寺をやる武村相手に、空中を飛んで応戦したみたいだな・・! 」
ワイヤーアクションなんぞ、使った覚えは無いぞ?
「 星川は、公園の大木を引っこ抜いて、それを振り回したんだってよ・・! 」
オレは、ゴジラか。
もう、メチャクチャだ。 勝手にしてくれ。
「 随分と、ハデにやってくれたようじゃないか? 」
繁華街の一角・・・ とあるゲーセンの隅のテーブルで、缶入り紅茶を飲みながら、星野は言った。
「 偶然に偶然が重なって、事無きを得たんだ。 とにかく、夢中だったからさ。 ウワサの半分は、デマだぜ? 分かってるか? 」
僕が言うと、星野は笑って答えた。
「 承知している。 だが、お前が、阿南たちをノシたのは、事実なんだろう? よくやった。 誉めてやるよ。 鉄パイプの星川・・か。 ちょっと、下品だな 」
「 贅沢言うな。 必死だったんだぞ? コッチは! 」
「 ははは。 悪かったな。 でも、いい経験したろ? 」
缶紅茶を一口飲みながら、星野は言った。
「 こんな経験、もうたくさんだ。 早く、元に戻りたいよ。 サバラスは、何と言ってる? 」
「 昨日、話した時は、またハードディスクが飛んで、どうのこうのって、言っていたぞ? 」
「 またか・・・! ちっとも話しが、良い方向に展開しないじゃないか。 ホントに大丈夫なんだろな? 」
僕は、そう言うと、入り口脇に視線を向けた。
数人の男子生徒たちが、僕たちの様子をうかがっている。
僕の視線に気付いた星野が、後ろを振り向かず、正面に座っている僕を見ながら言った。
「 ・・・誰か、いるのか・・・? 」
「 ああ。 グレーのズボンに、濃紺のブレザー・・・ ありゃ、常盤学院の連中だ 」
「 何人だ? 」
「 2人。 いや、まて・・ 外に1人いるぞ 」
「 ・・・ヤル気か? 」
「 いや、こんな人が大勢いるトコじゃ、おっ始める事ァないだろう。 偵察だ 」
星野が、少し笑って言った。
「 お前も、鋭くなって来たな。 元に戻ったら、一味違うお前に、かすみも、ホレ直す事だろうな 」
「 おちょくるなよ。 ・・うわ、入って来た・・! 」
店内に入って来た彼らは、真っ直ぐ、こちらに向かって来る。
緊張の一瞬。
星野は、缶を握り締めている。 いざとなったら、コレが凶器に変わるのだろう。 イイね、転機が効くヒトは・・・! 僕もう、心臓バクバクなんだけど。 ・・わあ、来た来た、来たよう~・・・!
「 鬼龍会の、星川さんですね? 」
僕に聞く、眉毛の無い男。
違います。 前に座っているのが、そうです。 ・・マジで、言いそうになった。
「 ・・・だったら、どうなんだ? 」
マトモに答えればいいのに、ナンで、相手を挑発するよーな言い方してんだ、僕は!
当の星野は、心なしか、ニヤニヤしている。 自分の顔だけに、キモチ悪い。 ヤメれ、その顔。
突然、星野が眉毛無しの男の股間に、強烈な蹴りを入れた。
「 うぶ、おぉぉ・・・っ!! 」
コレは、入った。 完璧に、眉毛無しの玉を捕らえたようだ。 自分がフロ場で経験した事を、着実に行動に活かすトコなんざ、見事である。
星野は、眉毛無しの腕を掴むと、自分の横の空いていた席に無理やり引き込み、座らせた。 眉毛無しは、テーブルに額を当てて突っ伏し、股間を押さえながら、ウンウン唸っている。
僕は、傍らにいた、パイナップルの房みたいな髪型をした背の高い金髪の男を睨みながら、僕の横の席を指差した。 金髪男は、米つきバッタのように、何度も小刻みに頭を振り、申し訳無さそうに、ちょこんと座った。
残った1人。
ジャニーズ系の髪型をした男は、隣のテーブルから慌ててイスを引いて来ると、急いで誕生日席に座った。
・・・無言。
じっと座る、5人。 はたから見れば、異様な風景だ。 口火を切らなきゃならんのは、どうやら状況的に、僕のようだ。 何と言って切り出そうか・・・?
ジャニーズ系が、意外な事を言った。
「 ・・あ、あの・・ 何か、飲みます・・・? 」
「 ・・・・・ 」
怖い顔して、星野が見据える。
「 あ・・ いいです。 すんません・・・ 」
どうやら、イチャモンを付けに来たのでは、なさそうだ。 停戦合意か? まさか一緒に、茶を飲みに来たのではあるまい。
僕は尋ねた。
「 ・・・ナンの用だ。 友人との会話を邪魔してまで、しゃしゃり出て来たって事は、それなりの目的があっての事なんだろうな? 」
フツー、僕は、こんなドスの効いたセリフなんぞ喋れない。 星野の体であるからこそ、言えるセリフだ。
額をテーブルに付けたまま、眉毛無しは、絞り出すような声で言った。
「 オレら・・ 話しがあって・・・・! 」
青葉女子の原田とかいうのを隅田川に浮かせたり、明和女子の榊原をメッタ刺しにした海南とつるんでいるような連中が、話しだと? ・・信用、出来んな。
僕は言った。
「 話しなら、鬼龍会を通じてすれば良いだろう。 何で、こんな所でする必要がある? 」
額の脂汗を光らせながら、眉毛無しは答えた。
「 それじゃ、オレらの体が危ねえ・・・ うう~、う~・・! ツブれたかもしれん・・・! 」
簡単にツブれるか。
でも、コイツはしばらく、マトモな会話は無理だ。
僕は、横にいた金髪の男に尋ねた。
「 どういう事か、説明してもらおうか? 」
「 ・・オ、オレっすか? 」
お前に聞いてんだ、パイナップル。 他に、ダレが横にいる?
「 あの・・ ナンちゅ~か、その・・ え~と、あの・・・ はい? 」
パイナップル男は、猛烈に、緊張しているらしい。 呂律が回っていない。 まあ、無理も無いだろう。 イキナリ、眉毛無しは股間を蹴られ、脂汗を出しながらテーブルに突っ伏して唸ってるし、本人の横には、今やウワサの『 鉄パイプの星川 』が座ってんだからな・・・
「 お前、説明しろ 」
僕は、ジャニーズ系に言った。
「 は、はいっ・・! 何か、飲みます・・・? 」
「 要らん 」
「 は・・ 左様で・・・ え~・・・ はい? 」
ダメだ、こいつら。 思っきし、飛んどる。 眉毛無しの回復を待つか・・・
僕は、ジャニーズ系に言った。
「 紅茶とジンジャエール、買って来い。 紅茶は、ダージリンだぞ 」
「 ・・う、うゎははいっ! ただ今っ・・・! 」
水を得た魚のように、ジャニーズ系は自販機コーナーの方へ、すっ飛んで行った。
「 常盤が、狙っているだと・・・? 」
ジンジャエールの缶を開けながら、僕は言った。
「 はい・・ 海南が壊滅した以上、ウチか浜二が、鬼龍会を取って仙道寺に持っていかにゃ、カッコつかんのですわ 」
やっと回復した眉毛無しが、右手の甲で額の脂汗を拭いながら答えた。 テーブルの上には、べっとりと、脂汗の輪が出来ている。
ジンジャエールを一口飲み、僕は言った。
「 まあ、想像通りの事だが・・ ナンでお前たちが、あたしたちに、その危機を伝えに来る? 」
まだ股間を押さえたまま、眉毛無しは答えた。
「 オレら・・ もう、ついて行けんです・・! 矢島会長、仙道寺の神岡の言いなりで・・・ 神岡の言うコトなら、何でも、やるんス! やらされるのは、オレたちで・・・ オレら・・ 殺人者なんかには、なりたくないっス! 」
・・ふ~ん。 フツーにヤンキー、やっていたいってか? お前ら、星野に玉、潰してもらえ。 気合が入ってねえな。 ポリシーねえんだったら、最初からイキがってんじゃねえよ・・!
「 殺人を奨励するワケじゃないが、お前たち、根性無いな。 力ずくで平伏されるのがイヤなら、さっさと解散しちまえ! ツッパって行きたいのなら、それなりに努力せんか 」
僕が言うと、パイナップルが答えた。
「 でもオレら・・ 力も度胸も無いし・・・ 」
情っさけねぇ~っ・・!
僕は、パイナップル男の股間に手をやると、ヤツの玉をグワニャ、と掴んだ。
「 おぶっ・・!! 」
途端に、パイナップル男は背筋を伸ばし、しゃんとする。
「 タマ、付いてんだろッ? 気合、見せんか! ツブしてやろうか? コレ! 」
妙な汗を額に浮かべ、パイナップル男は、プルプルしている。
・・・結構、でけえじゃねえか、お前。
やがて、玉に隣接した竿が、僕の手の中で、ムクムクと大きく巨大化して来た。
「 ・・・! 」
しまった。 今の僕の体は、女である星野の体だった・・・! すっげ~ヒワイな絵になっている事に、僕は、気が付いた。
「 こんな時に・・ ナニ妄想してんだ、てめえっ・・・! 」
僕は、パイナップル男の横顔を小突くと、ヤツの玉から、慌てて手を離した。 ヤツのズボンの股間部分は、見事なテント張りのような様相を呈している。
星野は、真っ赤な顔をして、僕を見つめていた。 『 お前、早くその手を洗え! 』という、目でもある。
「 ・・と、とにかく・・! お前たちは、どうして欲しいのだ? 」
僕が聞くと、眉毛無しがパイナップル男の股間を、ボ~っと見ながら答えた。
「 ・・・オレにも、やって欲しいっス・・・ 」
はっ倒すぞ、コラッ! ・・言うが早いか、横に座っていた星野の強烈な肘撃ちが、眉毛無しの横腹に突き刺さる。
「 ぐぉっほぉうっ・・! 」
・・・お前、損な役だな。 痛いコトばっかじゃないか。
眉毛無しは、涙を浮かべながら言った。
「 チームの半分は、オレらと同じ考えです・・・ うう~、痛てえぇ~・・・! 出来れば、鬼龍会さんの傘下に加えてもらえればと・・・ ううう~・・ う~ん 」
僕は言った。
「 それは、出来ん。 鬼龍会は、自衛組織だ。 他校勢力の占領はしない 」
「 で・・ では、クーデターの際には、連絡しますから、矢島勢力打倒に一役、協力をお願い出来ませんか? ・・い・・ 痛てえよぉ~・・・! 」
「 ガタガタ、言ってンじゃねえっ! 男だろうが! 肘撃ちくらいで、メソメソすんじゃねえ! 」
「 でも、すっげえ、痛いっスうぅ~・・・! 」
それは、凄っごい、分かる。 不運な、星の元に生まれて来たんだね、君。
僕は言った。
「 全面的に協力出来るとは、約束出来ん。 ただ、風紀委員会を通して、地域の治安維持に有効であると判断されたならば、その限りではない 」
「 ありがとうございます・・・! 」
パイナップル男も、ジャニーズ系も、頭を下げた。 しかし、もしもの時の判断は、星野当人の方が良いだろう。
僕は、星野を3人に紹介した。
「 この人は、鬼龍会以外で、あたしが唯一、信頼する男だ。 連絡は、この人を通してしてもらおうか。 ・・いいかい? 」
僕は、星野に了解を請う。
「 分かった。 任せろ 」
星野は、ポケットから手帳を出すと、ページを破り、連絡先を書き込んだ。 その紙を、眉毛無しに渡す。
「 有難うございます。 ・・では、帰ります。 失礼致しました・・・ 」
眉毛無しは、パイナップル男とジャニーズ系に肩を支えられながら、力無く、店を出て行った。 ・・と、思ったら、ジャニーズ系が、また戻って来た。
「 ? 」
何だ? お前も、蹴られたいのか?
ジャニーズ系は、僕に言った。
「 あの・・ すんません、星川会頭。 握手してもらえませんか・・・? 」
・・ナニを言っとるんだ? コイツは?
パイナップルも来て、両手をブレザーの脇腹辺りで、ゴシゴシ拭きながら言った。
「 オレも・・・! 」
眉毛無しは・・ 可哀想に、入り口の外に捨てられたように、しゃがみ込んでいる。
とりあえず、2人に握手する僕。
「 ・・・おおぉ~う・・! 握手しちまったぜ、オレ・・・! 」
感動的な表情の、ジャニーズ系。 パイナップルも、握手した自分の掌を見て、嬉しそうである。 こいつら、グルービーか? 星野も、苦笑いしている。
パイナップルが、誇らしげにジャニーズ系に言った。
「 オレなんか、玉まで握られたんだぜ? 」
そんな事で優越感に浸るな、たわけ! ・・お前ら、ヘンなウワサ、流すんじゃねえぞ? 『 玉抜きの星川 』とかよ・・・!
海南の乱闘事件以来、僕の株( 星川 )は上がり、一部のヤンキー共の間には、ファンクラブも結成されているようであった。




