12、奥技乱舞
12、奥技乱舞
「 斉木さん。 全員で、23人っス! 」
スキンヘッドの男が、細いメガネを掛けた男に言った。
「 おう。 人質の女を、連れて来い 」
やがて、1人の女生徒が引き出されて来た。 後ろ手に縛られている。
スキンヘッドの男が言った。
「 斉木さん、終わったらコイツ、ヤっちゃってイイっスか? 」
「 ・・お前は、それしか、頭に無いのか? 」
「 だって、結構、可愛いっスよ? 」
「 どうせなら、星川と一緒に、ヤっちまいな。 お友達同士、仲良くヤってやらんと、可哀想だろ。 ん? 」
「 さあ~すが、斉木さん。 人情味あるねえ~ ・・なあ? 可愛コちゃんよ? 」
スキンヘッドの男が、女生徒のアゴをしゃくる。
「 ・・私、星川さんとは、何の関係もありません! 誰かと、間違えてるんじゃありませんかっ? 」
斉木は、チャキッと、飛び出しナイフを出し、女生徒の頬に当てると言った。
「 調べは、ついてんだよ、コラ。 てめえと、カレ氏の星野ってヤツは、星川の情報屋なんだろう? 星川が、てめえらに会いに行ったのは、ウチの連中が見てんだ。 ご丁寧に、龍二の野郎の護衛付きでな! 」
「 それは・・・ 確かに、カレは、中学の時の同級生だったそうなんですが・・ その後は、会った事無いって・・! 」
斉木は、声を荒げながら言った。
「 どうでもいいだよ、そんなこたァッ! てめえは、人質なんだ。 大人しくしてりゃあ良いんだよっ! 何なら、えぐったろうかいッ? その可愛い顔、あぁ~あっ? 」
傍らにいた男が言った。
「 斉木さん・・・ 何か・・ 来ます。 アッチから・・・ 」
「 ・・ンだとぉ~? 」
公園の向こうから、何やら、人が走って来る。 メガネを掛け直し、更に凝視するが、この斉木という男は、視力が悪いらしい。 目を細めて、相手を確認し始めた。
「 ・・女・・ かあ? 後ろから走って来ンのは、誰だ? 男か? 遅れて来た兵隊じゃないのか? 」
傍らにいた男は、言った。
「 先頭を走って来るのは、星川・・ の、よう・・ ですが・・・? 」
「 はあぁ~? 寝ボケてんじゃねえぞ、てめえ! 」
スキンヘッドも、じっと凝視しながら言った。
「 ・・後ろから走って来るのは・・ マサと、龍二のようですが・・・? 」
「 ンだとう~っ? お前ら、おちょくっとんのか、コラァッ! 」
兵隊共が、にわかに慌て出した。
「 マ・・ マ、マ、マサだ・・! マサが来た! 狂犬マサが来たぞうッ! 」
「 人間凶器の、龍二も一緒だ! おい、聞いてないぞ、こんなの・・! 」
後ろの方では、コソコソと、逃げ出す輩もいる。
斉木は、兵隊たちの方を向くと叫んだ。
「 落ち着けえェッ! ナニがあったか知らんが、連中が、襲って来るハズが無いんだ! 落ち着けえェッ・・! 」
スキンヘッドが、ぼそっと言った。
「 ・・でも、先頭の星川、鉄パイプ振り回しながら、来ますよ? ヤル気、満々のようですが・・・? 」
「 戦意が無い事を、知らせてるのかもしれんだろうが? よく確かめんか! 」
「 ・・ってゆ~か、発狂寸前のような表情、してますよ? 後ろのマサなんか・・ 獲物取られないように、必死で追いかけてるように見えますが・・? ニタニタ笑ってるし。 もしかしてウチら、皆殺しにされるんじゃないっスか・・・? 」
凄まじい形相で迫って来るのは、明らかに、僕とマサ・龍二である事を、斉木は確信した。
「 ・・な・・ 何で、アイツらが、コッチに来るんだ・・・? どうなってんだ? 一体・・・! 」
ワケが分からない斉木。 他の者たちの動揺は、ピークに達した。
「 く・・ 来るっ! 吉祥寺の狂犬が、来るう~ッ! 」
再び、振り向き、斉木は言った。
「 落ち着けェッ! 相手は、たった3人だ! 一斉に掛かれば、何も問題は無いッ! いざとなったら、人質を使うんだ! おい、お前っ! その女を・・ 」
次の瞬間、鉄パイプ( 先端に付いた、エルボーの部分 )が、斉木の脳天に炸裂した。 ボコッという、心地良くも、鈍い音。
「 ぐっへあぁっ・・!! 」
頭を押さえながら、斉木は倒れ込んだ。
今の感触・・・ 死んだかもしれん。
斉木は、ガクガクしている足を踏ん張り、何とか立ったが、目が両目とも違う方向を向いている。 やっておいてから心配するのも何だが、大丈夫か? この男・・・!
「 ほっ、ほっ・・ ほしっ、ほしっ・・・ へ・・ へへっ・・! 星? ほしっ・・ ほしっ・・・ 」
・・・楽にしたる。 しかし、途中の笑いは何だ・・・?
イチローのように鉄パイプを高々と掲げ、すっと振りかぶると、僕は、斉木の顔面をフルスイングした。 ・・い、痛そ~・・!
ナイフを手に持ったまま、再び斉木は、倒れ込んだ。
・・・ホントに、死んだかもしれん。
「 そっ、そこまでだっ! 3人とも、動くんじゃねえッ! 」
何と、スキンヘッドの男が、かすみの首筋にバタフライナイフを当てている!
「 ・・・てっ、 めええェ~・・! 」
その汚い手で、かすみに触るんじゃねえっ! ・・今なら、許したる。 マサに、延髄切りしてもらうだけで、許すぞ? イヤか? 1発で眠れるから、イイぞぉ~?
僕は、かすみを見た。
・・・ゴメンね、かすみ・・・! 僕のせいで、こんな、怖い目に遭わせちゃって。 ああ、早く、その小さな肩を抱きしめたい・・! いつになったら、元通りの2人になるんだろう。 かすみ・・・!
かすみも、じっと、僕を見つめている。
・・ああ、かすみ・・・!
純粋な、その瞳に誘われるように、陶酔した僕は、じわりじわりと歩を進めていた。
「 ・・く、来るなっ! 来るなって言ってんだろッ! 」
僕は、静かに、テキトーな事を言った。
「 弱いモンほど、光モンに頼りたがる・・・ ホントに怖いのは、強いモンが、それを持った時だ・・・! 」
僕は、倒れた斉木が握り締めていたナイフを手に取ると、それを構え、左手の人差し指をクイクイさせながら言った。
「 ・・・来な。 相手してやるよ・・・! 」
ああっ、僕は、ナニ言ってんのだろう?! こんなん、使い方も分からん。 誰か、助けてえ~・・・!
その時、連中の後ろから、数十人の男たちが乱入して来た。
「 会頭オォーッ!! 」
芹沢ちゃんの声だ! ナイスタイミング! まさに、絶妙なタイムリー! 朝倉たち、風紀委員 選抜特攻隊が突撃して来たのだ!
「 なっ、何だ!? 」
騒ぎに、一瞬、後ろを振り向いたスキンヘッド。 瞬間、僕のキックが、ヤツの頬骨に、めり込む。 かすみを放し、鼻血を出しながら、スキンヘッドは倒れこみ、呟いた。
「 ・・・白・・・ 」
見やがったな、野郎・・・! ついでに、地獄を見せてやる。
マサに、目配せをすると、ニタ~リと笑いながら、マサはスキンヘッドに取り付き、卍固めにした。
「 ・・ぐっ、ぐぎゃおォ~う・・・! 」
怪獣の雄叫びのような声を上げる、スキンヘッド。 忠告しておこう。 それは早めにギブアップするか、気絶せんと、背骨が折れるぞ?
「 大丈夫かっ・・・? 」
やっと、愛しいかすみに取り付けた、僕。 辺りでは、敵味方入り乱れ、乱闘騒ぎである。
僕は、かすみを、かばうように肩を抱いた。
「 もう安心しろ。 迷惑掛けたな・・・! 」
「 星川さん・・! 有難うございます 」
僕の胸に、しがみ付く、かすみ。 おおう・・! かすみの、胸のふくらみが・・! 幸せじゃあ~・・・!
朝倉が、数人の部員と共に、僕たちの所へ来て、人垣を作った。
「 会頭! 少々、送れて申し訳ありません 」
「 気にするな、朝倉。 先走った、あたしが悪いのだ。 人質の安否が気になってな 」
かすみを見とがめた朝倉が聞いた。
「 河合さん、おケガは? 」
かすみが答える。
「 どこもありません。 皆様のお陰です。 有難うございます 」
かすみを見て、少し微笑むとうと、メガネを掛け直しながら朝倉は言った。
「 お2人とも、このまま、しばらくお待ち下さい。 じき、終わります 」
情況は、圧倒的に、我々が優位である。 マサは、龍二と、生きの良い『 獲物 』( 実験台と言った方が良い )を、取り合いしている。 他の部員たちも、海南の連中を圧倒しているようだ。 さすが、芹沢直轄の精鋭親衛隊部員たちである。 特に、正木ちゃんは、生き生きとしている。 笑顔で正拳突きをしている様は、快活で健全な高校生のスクールライフを彷彿させ、その姿は、眩しく、微笑ましくもさえある。
やがて、騒ぎは収まった。
「 局長。 報告します。 軽傷の者もいますが、問題ありません! 全員、点呼終了しました 」
正木ちゃんが、芹沢に報告する。
「 ご苦労 」
くるりと向きを変え、芹沢が、朝倉に伝える。
「 次長。 片付きました。 部員一同、異常ありません 」
朝倉は頷くと、僕とかすみを囲むように警護している部員たちに言った。
「 警護班! ご苦労だった。 各班に戻れ 」
部員たちは、僕たちに一礼しながら、隊列に戻って行く。
・・・君ら、軍人?
朝倉が言った。
「 会頭。 お疲れ様でした。 ・・阿南と、武村は? 」
「 アッチの、公園入り口で寝てるよ 」
僕は立ち上がり、かすみの制服のスカートに付いた汚れを払いながら答えた。
マサが、朝倉に言った。
「 2人合わせて、わずか30秒だ。 まさに秒殺ってヤツよ・・・! お前にも、見せてやりたかったぜ 」
龍二も、続けて言った。
「 とにかく会頭は、行動が早い。 先手必勝だからな! お前らも、よく覚えておけ。 これが、我ら会頭の大いなるところだ! 」
憧れと、尊敬の眼差しを、僕に向ける部員たち。
・・・偶然だって、みんな。 たまたま、運が良かっただけだよ・・・! すんげ~、怖かった。 でも、良かった。 かすみが無事なら、僕は満足だ。
マサが、僕に聞いた。
「 海南は、これで潰れましたが、処置は、いかがします? 」
僕は、しばらく考えて答えた。
「 配下に加えるつもりは無い。 鬼龍会は、自衛組織だ。 勢力を広げたって、何の意味も無い。 武蔵野の生徒を守る・・・! これに限る 」
おそらく、星野も、そう言っただろう。 平和にしていようよ、みんな。 ね?
マサは、同意のようだ。 頷いている。
龍二が言った。
「 欲の無い方ですね、会頭は・・・ ま、そこが好きで、自分もついて行くんですがね 」
笑って答える、龍二。
朝倉も、笑みを浮かべながら、かすみの背中に付いた汚れを払っている。
芹沢が、正木ちゃんに言った。
「 明日香。 会頭のご友人を、ご自宅までお送りしなさい 」
「 了解しました 」
・・・僕、送ってったら、ダメ?




