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嗚呼、面接 1

世の大学生は頭を抱えている。この凄まじいほどの就職難。受けては落ち、受けては落ち、落ちるために受けているのではないか、と脳みそが語りかけてくる。

大企業に群がる若者。差し詰め蟻のようだ。大企業となれば甘い砂糖なのだが、小さな会社でも、ビルの二階がパンクするほどの人数が殺到している。ぱっと見砂糖の味は塩に群がる蟻のようだ。どれでもいいから食したいのだ。それほど群がっても食せるのは一人。働き時の夏を越えて、少しずつ風が冷たくなる十月後半、かくいう僕も、百円均一が履歴書だけで黒字を出すくらいに買った履歴書の最後の一枚と絶望を持って、採用試験に挑もうと、国道から少しさびれた路地へと足を入れた。

両親は「大学生だからといって、遊び過ぎたんだお前は。自業自得だろ」と大学生イコール遊び過ぎ。という方程式をぶつけてきた。この方程式もどうせ、昼のニュースのコメンテーターかまたは、地域に時たまやってくるどこぞの教授の講演会から仕入れたものなのだろう。

小さなビルから不自然な行列が道へとはみ出している。あれだろう。こんな小さな会社じゃ多く取っても二、三人。踵を返したくなる。そこをなんとか堪えて列に並んだ。

これ以上落ちない肩がまた落ちるのだろう。肺活量よりも大きいため息が出るのだろう。

もう悲観を通り越して厭世的になってきた。が、これまでの経験を生かし、面接のシュミレーションを無意識に脳みそが行っていた。

僕の後ろにまた十人余りが並んだところで、階段を上がり、見えないがさらにその先から「なんだよこれ」と不満をエネルギーに変えてぶつけるような怒りの声が聞こえた。

「納得いかねぇよ。こっちから帰ってやる」

列が蛇のようにくねくね動き、一人半の幅の階段の左側が空けられて、そのスペースを髪の毛をかきむしりながら、同年代のリクルートスーツの男が乱暴に出てきて、そのまま国道へと消えていった。私語を慎むべき僕らもさすがに、何が起こったかが気になり、前後とたどたどしい敬語で何があったかを推測し始めた。

早いペースで列が進み、最初に出て行った男と同じような怒りを覚えて出ていくものも多数いた。

いろんな推測が脳内で行われた結果、社長が男好きで、品定めをしていて、気に行った男にちょっかいをかけているのではないかと思われた。それを受け入れれば入社なのだろうか。

アホらしい思考が巡る間に、僕は階段を登り切り、会社の入り口であろう扉の前のパイプ椅子の五番目に座った。やはり個室に一人ずつ呼ばれている。予想は当たったのだろうか。

「ふざけてんのかテメェ。ちゃんと面接しろよ」

ドアの向こう側から怒気を感じる。その声は、とんでもない罵声を捨て台詞に、ドアを勢いよく開けて、さっさと帰って行った。やはり顔立ちの良い男だ。これはいよいよ危ないぞ。と思ったが、同性に好かれるような容姿をしていないので、これは落ちたな。と冷静に諦めがついた。

僕の前にいた四人中三人は怒りを覚えて帰って行った。

「次」

僕は扉を開けて、僕の容姿に落胆するおじさんの顔を拝もうとしたが、僕の予想は全て覆された。

まず目の前のパイプ椅子に座っていたのは、三十代の髪の長い女性だったのだ。そしてそれ以外何も置いてはいなかった。二畳程度の部屋で、女性の後ろにドアがあるだけ。座る場所もなく戸惑って疑問符を出している僕に向かって、その女性は言った。

「じゃんけんぽん」

僕は反射的にチョキを出していた。女性はパーだった。

「はい、じゃあこのドアの向こうの部屋で待機してて」

「え、あ、はい」

「次」

僕に向けられた言葉はそれだけで、言われるがままにドアを開けた。

ドアの向こうには、二十人くらいの同士が、疑問符を頭に乗せたまま、規則的にパイプ椅子に座っていた。僕も並んでそれに座った。

「なぁ何出した?」

隣に座っていた男が聞いてきた。

「えっとチョキ?」

「おぉー俺もチョキ出したんだ。チョキ出して良かった」

「はぁ」

その男は、僕にピースをしているのかと思ったけれど、単に勝ったチョキを崇めているだけだった。

しかし、じゃんけんに勝ったとはいえ、これは受かったのだろうか。何も聞かされていない分、よくわからない。

僕が入ってきたドアから、もう一人のじゃんけん勝者と、例の女性がはいってきた。

「えっと……二十三人か。まぁまぁね」

一列に並んだ僕らを数えて満足そうな顔をする女性。一体これはなんなのだろうか?

「そこの君。じゃんけんぽん」

先ほど僕に話しかけてきた男が指さされてじゃんけんをした。そいつはパー。女性もパー。

「君、帰っていいよ」

その言葉に全員が凍りついた。

「え…っと、なんでですか?」

「え?あいこだから。負けた人とあいこの人はみんな帰って行ったよ」

「え、でも僕さっき勝ちましたよね」

「そうね、だからここにいるんだもの。でも今、あいこだったでしょ。お疲れ様でした。はい、残った二十二人の人。次の説明するわよ」

「ちょっと待てよ。なんで帰らなきゃいけないんだよ」

「だから、あいこだからだって。何回も言わさないで」

女性はうっとおしそうに髪の毛をかきあげた。

「理由を説明しろよ。納得いかねぇ」

「皆、そう言うのよねぇ。聞いたら帰ってね。じゃんけんをいきなり求められて、反射的に出ちゃうのって、パーかグーなのよね。でもここの皆はチョキを出した。この少数派になんかあると思わない?人より優れた瞬発力か冷静さか。まぁ私の持論だけどね。君、じゃんけんぽん」

次は真ん中あたりにいた男に、じゃんけんをしかけた。

「だからってチョキ出すのは違うよね」

男はチョキを出していたが、女性はグーを出していた。

「結果、君たち二人はまぐれでここにいるってこと、お疲れ様でした」

二人は言い返しても無駄だと思ったのか。静かに出て行った。


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