僕は土間の座敷童子
座敷わらしには、さまざまな物語がある。
家の奥座敷に住み、幸運とささやかな悪戯をもたらすと言われるものもいる。一方で、埃をかぶった屋根裏や、忘れ去られた物置、光の届かない階段の下といった、家の中でも居心地のよくない場所に結びつけられるものもいる。
これは、座敷わらしの「真実の物語」を語ろうとするものではない。
ただ、民間伝承に着想を得た、一つの解釈にすぎない。
それ以上のものではない。
***
いつとも知れぬ時代、どこか小さな村に、一軒の古い家が建っていた。
農家というわけではなかった。もっと小さく、もっと質素な家だった。紙のように薄い壁と、雨漏りのする屋根を備えた、窮屈な木造の建物。貧しさが隅々にまで染みついていた。
誰も修繕する金を持たず、壁の隙間を風が笛のように吹き抜けていった。
家の中では、三人の子供が熱にうなされていた。
一番幼い、六歳の男の子は、部屋の隅に敷かれた薄い布団に横たわっていた。
その小さな体は、消えかけた熾火のように熱かった。肌は赤く火照り、唇はひび割れ、息は浅く、速かった。
すぐそばには、兄と姉も横たわっていた。
三人の荒い呼吸が、病に苦しむ者たちの合唱のように部屋を満たしていた。
母親は、子供たちの間を行き来していた。
痩せ細った体には疲労がにじみ、その顔には長い苦労の日々が刻まれていた。それでも、子供たちの額に当てた湿った布を取り替える手つきは優しかった。
一人ずつ頭を持ち上げ、震える唇の間に薬をそっと流し込む。
「飲んでね、いい子だから。あと少しだけ」
母親の声は柔らかかった。しかし、その語尾には疲労がにじみ、かすかに震えていた。
彼女は三日間、一睡もしていなかった。
男の子は、半分閉じた目で母親を見つめていた。
熱のせいで、すべてがぼんやりと霞んでいた。天井が呼吸しているように見え、部屋の隅では影が揺れていた。
とても、疲れていた。
体がひどく重かった。まるで布団が自分を地面の中へ引きずり込もうとしているかのようだった。
兄と姉の呼吸が聞こえる。
吸って。
吐いて。
吸って。
吐いて。
母親が姉に囁いた。
「しっ、しっ。お母さんはここにいるよ」
男の子のまぶたが、さらに重くなった。
眠ってはいけない。
そう思って、必死に目を開けていようとした。
母親を見ていたかった。
疲れた笑顔を見ていたかった。冷たい手が額に触れるのを感じたかった。自分の名前を呼ぶ声を聞きたかった。
けれど、もう自分の体を思うように動かせなかった。
視界の端から、闇がゆっくりと忍び寄る。
小さな拳を握りしめ、なんとか意識をつなぎとめようとした。
しかし、熱のほうが強かった。
男の子の目は、ゆっくりと閉じていった。
部屋が消えた。
そして……。
---***---
……僕は目を開けた。
熱は消えていた。
いや、もう、そこにはなかった。
昨日だったのか、それとも今日だったのか。
ついさっきまで、僕の体は小さな太陽のように燃えていた。頭はずきずきと痛み、息をすることさえ苦しかった。
それなのに、今は体が軽かった。
奇妙なほどに、軽かった。
僕は起き上がった。
ずっと布団に縛りつけられていたのだから、目眩や疲労に襲われると思っていた。
けれど、何も起こらなかった。
周囲を見回した。
部屋は、いつもと同じだった。
黄ばんだ障子。擦り切れた木の床。布団の上に差し込む、淡い朝の光。
兄と姉も、まだそこにいた。
兄の太郎は、毛布の下に横たわっていた。顔は赤く火照っていたが、呼吸は落ち着いていた。
姉の雪は、そのそばで丸くなっていた。小さな手で毛布の端を握りしめている。
二人は、まだ病気だった。
でも、僕は違った。
何かがおかしい。
そう感じたけれど、何がおかしいのかはわからなかった。
「お母さん?」
返事はなかった。
もう一度、呼んだ。
「お母さん?」
やはり、何も聞こえなかった。
僕は立ち上がった。
足の感覚が、どこか変だった。
弱っているわけではない。ただ……いつもと違っていた。
僕は母親のいる部屋へ向かった。
母は台所のそばに立ち、鍋の中をかき混ぜていた。髪は乱れ、服には皺が寄っていた。ひどく疲れているように見えた。
「お母さん」
僕は声をかけた。
「お腹が空いたよ」
母は振り返らなかった。
僕は、もう少し近づいた。
「お母さん?」
返事はない。
袖を引っ張ってみた。
それでも、母は何の反応も示さなかった。
今度は顔の前で手を振ってみた。
何も起こらなかった。
母はただ茶碗を取り、鍋からスープを注ぐと、太郎と雪のところへ運んでいった。
僕は、その後を追った。
母は太郎のそばに膝をつき、そっと頭を持ち上げた。
「飲んでね、太郎」
そう言って、スプーンでスープを口元へ運ぶ。
僕は戸口に立ち尽くしていた。
冷たい何かが、胸の奥に沈んでいく。
何かがおかしい。
とても、おかしい。
***
日々が過ぎていった。
あるいは、過ぎていなかったのかもしれない。
もう、よくわからなかった。
家の中は、いつしか檻のように感じられるようになっていた。
だから、僕は歩き始めた。
最初は居間を探検した。それから台所へ行き、家の奥へ続く廊下を歩いた。
以前なら立ち入ることを禁じられていた場所が、今はどこも自由に行き来できた。
やがて、重い木の扉にたどり着いた。
僕は扉を押し開けた。
冷たい空気が頬に触れた。
その向こうに、土間があった。
土間のことは、小さい頃から聞かされていた。
けれど、母は決して僕をそこへ近づけようとしなかった。仕事をしたり、動物を置いたりする場所だから、といつも言っていた。
床は木ではなく、固く踏み固められた土だった。
その上には藁が散らばっていた。
壁はむき出しで、干し草と煙、動物の匂いが空気に混じっていた。
僕は中へ足を踏み入れた。
足が、土にわずかに沈んだ。
冷たかった。
それなのに、なぜか心地よく感じられた。
そのとき、鼻を鳴らす音が聞こえた。
僕は動きを止めた。
影の中で、何かが動いた。
豚が一匹、姿を現した。
大きな体に、ピンク色の鼻。そして、小さな黒い目。
豚は僕のほうへ歩いてきた。
怖がるべきだったのかもしれない。
けれど、僕は手を伸ばした。
豚は、その鼻で僕の手をつついた。
温かくて、ざらざらしていた。
僕は、くすくすと笑った。
豚がブーブーと鳴いた。
僕は、また笑った。
「こんにちは」
豚は、もう一度僕の手をつついた。
こうして僕には、友達が一匹できた。
***
豚は三匹いた。
一番大きな豚には、丸いお腹にちなんで「餅」と名づけた。
落ち着きのない一匹は、いつも走り回っていたので「風」。
そして、一番小さな豚は「花」。
花は藁の中で眠るのが好きだった。
豚たちは、決して僕を無視しなかった。
僕がそばに座り、餅の温かな脇腹に頭を預けても、嫌がらなかった。
僕は三匹に、いろいろな話をした。
太郎と雪のこと。
母のこと。
山の精霊や川の神様のこと。
そして、かつて僕が抱いていた夢のこと。
豚たちは、決して話を遮らなかった。
土間は、いつしか僕の世界になっていた。
壁に掛けられた古い道具を見つけた。身を隠せる藁の山も見つけた。
天井近くにある小さな窓からは、移り変わる空が見えた。
朝日がどこに差し込むのかもわかるようになった。
豚たちがどこで眠るのを好むのかもわかった。
風に追いつかれる前に、どこまで走れるのかもわかってきた。
しばらくの間、それで十分だった。
***
ある夕方、僕は小さな窓の下に座り、母のことを考えていた。
太郎と雪のことも考えた。
かつて自分が眠っていた、あの部屋のことを思い出した。
みんなが恋しかった。
僕は冷たい窓ガラスに手を押し当てた。
そのとき、雨が屋根を叩き始めた。
小雨は、やがて土砂降りになった。
空から、滝のように雨が降り注いだ。
豚たちが動き出した。
風は土間にできた水たまりを走り回った。
僕は笑った。
そして、外へ駆け出した。
雨が壁のように僕を打った。
冷たい。
重い。
でも、最高だった。
服はあっという間にびしょ濡れになった。足の指の間で泥がぐちゃぐちゃと音を立てた。
僕は走った。
餅が後を追ってきた。
風も。
花も。
僕たちは庭を駆け回り、追いかけっこをした。
僕は足を滑らせ、泥の中に転んだ。
しばらく、そのまま横になって灰色の空を見つめていた。
それから、笑い出した。
お腹が痛くなるほど、笑った。
やがて起き上がると、豚たちが僕の周りに集まってきた。
餅が鼻先で僕の手をつついた。
僕は、その頭を撫でた。
それから、顔を上げた。
庭の端に、家が建っていた。
一つの窓から、温かな金色の光が漏れていた。
母の姿が見えた。
母は太郎の布団のそばに座り、彼にスープを飲ませていた。
雪は、その隣で眠っていた。
部屋の中は暖かそうだった。
安心できる場所に見えた。
僕は、じっと見つめた。
そして、一つの疑問が浮かんだ。
どうして、僕は家の中にいられないんだろう?
僕は家へ向かって歩き出した。
一歩。
もう一歩。
やがて、扉の前にたどり着いた。
手を伸ばし、その上で止めた。
入ろうと思えば、入れるはずだ。
入れる……よね?
僕は木の扉に触れた。
けれど、何かが僕を引き止めた。
それが何なのか、わからなかった。
僕は代わりに窓辺へ向かった。
母は太郎の髪を撫でていた。
歌を口ずさんでいるのか、唇が静かに動いていた。
僕は自分の泥だらけの足を見下ろした。
それから、もう一度、部屋の中を見た。
どうしても、その距離を越えることができなかった。
僕は踵を返した。
豚たちが、僕を土間へと連れ戻してくれた。
けれど、疑問だけは残った。
どうして、僕は家の中にいられないんだろう?
答えは、なかった。
***
ある夜、僕は彼女を見た。
一人の小さな女の子が、畳の上に座っていた。
僕よりも小さな子だった。
長い黒髪が背中に垂れ、青と銀の着物には花や鳥の刺繍が施されていた。
きれいな子だった。
そこにいることが、当たり前のように見えた。
彼女は、あの家にふさわしい存在だった。
僕は物陰から彼女を見つめた。
次の晩も、僕はそこへ戻った。
その次の晩も。
彼女は、僕に気づいている様子がなかった。
ときどき、家の中を歩き回った。
ときどき、窓辺に座った。
ときどき、僕には見えない何かに向かって微笑んだ。
なぜ僕が彼女を見続けているのか、自分でもわからなかった。
それでも、見続けた。
そして、あることに気づいた。
毎朝、母は客間に小さな茶碗を置いていた。
茶碗には、ご飯が盛られていた。
母はその前で頭を下げた。
やがて、あの少女がやってきた。
彼女は膝をつき、箸を手に取った。
そして、ご飯を食べた。
僕は戸口から、その様子を見ていた。
お腹が鳴った。
誰も、僕のためにご飯を残してはくれなかった。
僕は自分の手を見つめた。
泥で汚れていた。
たぶん、それが理由なのだろう。
僕は土間でバケツを見つけ、体を洗った。
手や腕についた泥を、ごしごしとこすり落とした。
それから古い布切れを見つけ、顔を拭いた。
自分の姿を見下ろした。
服は破れ、色あせていた。
足には何も履いていなかった。
あの少女の着物は美しかった。
僕は家を見た。
それから、もう一度、自分の姿を見た。
翌日には、また泥だらけになっていた。
土間は僕の居場所だった。
足元には、いつも泥があった。
ほかに行く場所など、どこにもなかった。
***
それは、ある夏の午後のことだった。
僕は豚小屋のそばで遊んでいた。
餅は日陰で眠っていた。
風は土を掘り返していた。
花は蝶を追いかけていた。
そのとき、人の声が聞こえた。
僕は振り返った。
二人の子供が、家のほうへ歩いてきていた。
男の子と女の子だった。
最初に僕を見つけたのは、女の子のほうだった。
彼女は立ち止まった。
「見て」
兄が、妹の視線を追った。
彼も僕を見た。
心臓が跳ねた。
僕の姿が見える人がいた。
僕は手を振った。
「こんにちは!」
女の子も手を振り返してくれた。
「あなた、誰?」
僕は二人に近づこうとした。
「僕は……」
そのとき、二人の背後に大人の女性が現れた。
女性は少女の腕をつかんだ。
「その子と話してはいけません」
「でも……」
「だめです」
女性は少女を引き離した。
少年もその後に続いたが、何度も振り返って僕を見ていた。
僕は庭に立ち尽くした。
「待って!」
けれど、二人はそのまま道を進んでいった。
そのとき、女性の声が聞こえた。
「あの子は災いを招くのよ」
僕は動けなかった。
その言葉は、僕の中に残った。
災い。
僕は自分の手を見た。
その朝、手はきれいだった。
何も悪いことはしていなかった。
僕は土間へ戻った。
餅が頭を持ち上げた。
僕はそのそばに座った。
そして、泣いた。
***
その夕方、僕は自分の人生を思い返した。
あの熱。
額に触れた母の手。
そばにいた太郎と雪。
太郎と一緒に畑を走り回ったこと。
母の庭仕事を手伝ったこと。
父が家を去る前に聞かせてくれた物語。
かつて、自分がどんな少年だったのかを思い出した。
僕は誰も傷つけていなかった。
それなのに、どうして災いを招くと言われるのだろう?
僕は、みんなが間違っていることを証明しようと決めた。
家族を助けよう。
庭で烏が何かをついばんでいた。
僕は追い払った。
雪の布団のそばに、簪が一本落ちていた。
僕はそれを、彼女の手が届きやすいところへ押しやった。
戸口には、一枚の葉が落ちていた。
僕はそれを脇へどかした。
どれも、小さなことだった。
誰も気づかなかった。
それでも、僕は続けた。
これだけ助け続ければ、いつか誰かがわかってくれるかもしれない。
そう思った。
***
ある夕方、僕は再びあの少女を見かけた。
彼女は庭を通り、小さな祠へ向かって歩いていた。
そこで膝をつき、祈りを捧げた。
やがて立ち上がると、彼女は僕のほうを見た。
僕は凍りついた。
彼女は僕を見ていた。
僕の体をすり抜けるようにでもなく。
僕の向こう側を見るようにでもなく。
確かに、僕自身を見ていた。
僕は手を上げた。
彼女は手を振り返さなかった。
ただ、じっと僕を見つめていた。
それから向きを変え、歩き去った。
僕は手を上げたまま、その場に立ち尽くしていた。
彼女は僕を見ていた。
それなのに、何も言わなかった。
***
雨が戻ってきた。
僕は土間で餅のそばに座っていた。
風は藁の中を掘り返し、花は屋根から落ちる雨粒を追いかけていた。
そのとき、足音が聞こえた。
小さな足音だった。
そっと近づいてくる、慎重な足音。
僕は立ち上がった。
戸口に、小さな女の子が現れた。
五歳くらいだろうか。
彼女は両手に何かを持っていた。
周囲を見回してから、土間の中へ入ってきた。
豚たちのそばに膝をつくと、地面に何かを置いた。
葉っぱに包まれた、おにぎりだった。
少女は立ち上がった。
そして、雨の中へ駆け戻っていった。
僕は、そのおにぎりをじっと見つめた。
誰も見ていなかった。
僕は近づいた。
膝をつき、それを拾い上げた。
米は、まだ温かかった。
一口かじった。
そして、もう一口。
最後まで、全部食べた。
その瞬間だけは、家のことを考えずにいられた。
あの少女のことも。
災いを招くと言われたことも。
誰かが、ここに何かを残してくれた。
それだけで、十分だった。
***
僕は生き続けた。
豚たちと遊んだ。
雨の中を走り回った。
ときどき、子供たちが家を訪れた。
僕を見つける子もいた。
逃げていく子もいた。
美しい着物を着た少女は、家の中にとどまっていた。
そして、ときおり、小さな供え物が残されていた。
おにぎり。
果物の一切れ。
土間や祠の近くに置かれた、ささやかな贈り物。
僕はそれらを食べた。
そして、ありがたいと思った。
けれど、疑問はいつまでも心から離れなかった。
どうして、僕は下にいるのだろう?
どうして、土間なのだろう?
どうして、泥なのだろう?
どうして、寒いのだろう?
どうして、暖かい部屋ではないのだろう?
どうして、美しい服を着られないのだろう?
どうして、僕なのだろう?
僕は、とうとう答えを見つけられなかった。
おそらく、これからも見つけられないのだろう。
それでも、豚たちは変わらずそこにいた。
餅は藁の中で眠っていた。
風は土を掘り返していた。
花は、また別の蝶を追いかけていた。
僕は微笑んだ。
そして、外へ駆け出した。
泥は足元で柔らかかった。
僕は走った。
ここが、僕の居場所だったから。
少なくとも、今は。
そして、おそらく……。
それで、十分だった。
***
人々は、座敷わらしについて多くの物語を語る。
幸運をもたらす、美しい子供たちの話。
家の暗く、質素な片隅に見いだされる、精霊たちの話。
おそらく、それらはすべて、別々の物語なのだろう。
あるいは、どこか古い家で、今も一人の小さな男の子が泥の中を走り回っているのかもしれない。
なぜ、自分だけが家の外で生きることになったのか。
その理由を知らないまま。




