死への希望
今日、俺はこのくそみたいな人生を終わらせる。思い返すほどの思い出もなく、首を縄に通す。しかし、生存本能が、恐怖を呼び起こす。その直後、いじめてきた奴ら、自分の操り人形にするために暴力による洗脳をしてきた祖父の顔を思い出して死への欲求が、生への執着を飲み込む。
出来る限り苦しむことなく、あの世にいけることだけを祈る。
思い残すことがあるとするならば、お父さんとお母さんとは同じ場所に行けない自分へのみじめさのみ。
そよ風に肌を撫でられ、目を覚ます。仰向けになっていた俺の目の前には、壮大な青空が広がっていた。雲一つない空に、心を奪われ続けた。そして、俺は生きていた間、出来なかった惰眠を謳歌する。
無駄な時間が、絶え間なく流れ続けた。眠気もすっかり無くなり、ゆっくりと体を起こす。周りを見渡すと、俺は草原の中にいることに気づかされた。
ここはどこなのかという無意味な疑問は、自ら命を絶った俺の頭からすぐに消えていった。次の瞬間、どこからともなく音楽が聞こえて来た。その音色は、どこか懐かしく不快感が一切ない心地の良い音色だった。行く当てもない俺は、その音を辿っていくことに決めた。立ち上がり、音の源へ歩いていく。
しばらく青々とした草原を歩くと、遠くの方に建造物が見えてきた。そこに向かって歩き続けていると、それが建物の集合体で小さな村のようなものだと気づく。
村に近づくにつれ、何故か懐かしさを覚え、胸が切なくなると同時に温かくなった。歩くスピードが、自然と速くなる。
村の入り口に着いた。村の真ん中を通るようにある一本道を歩く。歩き始めて気づく、村に人気が一切ないことに。そして、今更ながらこの世界で自分以外の生き物を見ていないことに気が付いた。改めてあの世に行けた喜びとこれから起きる未知の出来事に若干の不安を抱く。
そんな途方もなく、恐ろしいことを考えていたら一本道の終着地に来ていた。目の前には、少し開けた土地に、天まで届くかのように長く伸びている石畳の階段があった。あまりにも現実離れしたその光景に、しばらく脳の処理が追いつかなかった。しかし、ここがあの世だという事実を思い出し、この状況に納得した。
納得してから階段の一段目に足を踏み出すには、時間がかからなかった。深く考えることなく、階段を登っていく。
様々な宗教で、基本的に悪とされる自ら命を絶つという選択をした俺が受けるべき報いは、地獄行きかはたまた魂の消滅か。