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Elatic Library(静電図書館)  作者: わとし
探査記録簿
1/12

探索記録 VOL.1「発見」

記録者:不明

*注意点:この記録は発見された記録の中でも最初期のものと思われる記録であり

     便宜上、「発見」という名前をつけている

ある日、目を覚ますと、見たことのない空間にいた。


空気が乾燥していて、ほんのり紙と埃のにおいがする。


そして、どこからか本のページをめくる音が聞こえてくる。


どうやら私は図書館にいるらしい。


周囲には、本棚でできた細い通路が広がっていた。


しかし、本はほとんど置かれていない。


私は好奇心に駆られ、近くの棚にあった一冊の本に手を伸ばした。


その瞬間、ピリッと静電気が走る。


とっさに手を引っ込めたものの、気になって結局そのまま本を取ってしまった。


背後に何かの気配を感じた気がしたが、振り向かず本を開く。


だが、ページをめくっても、めくっても、中はすべて白紙だった。


つまらないな、と思いながら、本をそっと棚に戻した。


通路をしばらく歩いていくうちに、徐々に本の数が増えていくことに気づいた。


そして、誰かの視線を感じるようになった。


明確に誰かに見られている。


ふと振り向くと、ひとりの少女が、私の背後を歩いていた。


彼女も驚いたように立ち止まり、目線をそらした。


「どうしたの?」


思わず声をかけると、彼女は小さな声で答えた。


「なんでもない」


私はもう一言を発しようとしたが、


彼女はスーッとその場から姿を消してしまった。


静寂だけが残った。


やることもなかったので、探索を再開する。


通路の先に、円形のテーブルのようなものがあるのが見えた。


先程の少女が気になるので、


定期的に振り向きながら歩いてその場所へ向かう。


テーブルは広々とした空間の中心にある


周囲には大量に本棚が放射状に配置されており、


その隙間が通路のようになっていた。


テーブルの上には、たった一冊だけ、本が置かれていた。


タイトルも著者名もない——


ただ、「リリア」とだけ書かれた日記帳だった。


私はそっとページを開いた。


そこには、「リリア」という少女の人生が、


淡々と、しかし痛々しく綴られていた。


孤独。


周囲の冷たさ。


助けてくれない大人たち――


読み終わった瞬間、背後から声がした。


「……あぁ、読んだんだ」


振り向くと、先ほどの少女が立っていた。


彼女は、静かに言った。


「私が、リリアよ」


その告白に、私は胸が詰まった。


私は思わず。


「大変だったんだな」


と声をかけ、そっと彼女の頭を撫でた。


「うん――」


それから、彼女はいろいろなことを話してくれた。


この空間にある本は、目に見えぬ文字で何かが記録されていること。


この空間は彼女が作り、育てたものだということ。


そしてこの空間はルール、意思といった方が適切であるであろう


「何か」を持っており、


守られなければ、空間そのものが怒るということ。


通常、この空間は存在し得ないらしい。


日記という存在がこれを確立、形成しているという。


私にはさっぱりわからない。


最後にリリアは言った。


「じゃあ……あなたは、もう帰らないとね」


その瞬間、視界が暗くなった。


——目が覚めると、私はベッドの上にいた。


変わらぬ日常。


だけど、何かが確かに変わっていた。


あの空間、あの少女のことを、私は絶対に忘れない。


だから、今この記録をここに残しておく。

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