続・走れメロス
ウソだろう。ウソであってくれ。
馴染みの寿司屋から、メロスとセリヌンティウスが来店しているとの連絡を受け、わしは店に急行している。
わしは、ディオニス王である。
メロスとセリヌンティウスがわし抜きで、寿司屋で飲んでるというのだ。
水臭いじゃないか。あの事件で、わしにも真の友が二人も出来たと思っていたのに。
わしに声をかけてくれないなんて――それとも、やはりわしを煙たがっているのか?
一方その頃、寿司店では――
ここはディオニス王推薦の高級寿司店。値段は張るが、味は飛び切りの店だ。
セリヌンティウスがメロスと談笑していた。
「今日は目出たい。お祝いだ。ディオニス王の死罪から免れたのだからな。
ウハハハ、王からもらった褒賞はたっぷりある。
ささ、好きなだけ食べて、飲んでくれ」
セリヌンティウスは上機嫌であった。
「しかし、妹の結婚式からよく間に合ったな」
「アハハ、俺は足だけは自信があるのだ。足だけはな!」
メロスは自分の足をパシリと叩いて笑った。その時だった――セリヌンティウスが突然、顔色を変えた。
(財布がない!?)
何気ないふりをしてポケットの中を探る。やはりない。
報奨金を入れた財布をどこかに落としたのか?
(どうしたら良い!? 祝宴を持ちかけたのは俺なのに……)
内心の焦りを隠しながら、セリヌンティウスは平静を装ってメロスに話しかけた。
「大した足だな」
「おう、足だけは自信があるのだ。俺はかけっこでは負けたことがない」
「頼もしいではないか。その足が役立つ時が、すぐに訪れるであろう」
セリヌンティウスは周囲には聞こえないよう小さな声でメロスにささやいた。
「(もう、それ以上食うな。腹に食い物があると走れなくなるぞ)」
「なんだと?」
「(金を落とした。逃げるぞ)」
セリヌンティウスは、そう言い終わるや否や、店を飛び出した。
「えっ、ちょ、待て!」
メロスは一瞬遅れて店を飛び出す。
わしは、ディオニス王である。
例の寿司店に到着し、店の入り口に足を踏み入れようとした瞬間、男たちが勢いよく店から飛び出し、わしを突き飛ばした。
道に倒れたわしは、猛然と走り去る二人の姿を見て目を疑った。
信じられぬ、慌てて逃げていくのはメロスとセリヌンティウスではないか。
まさか、わしに秘密で宴会してたところを、見つかり、あわてて逃げたのか。
そんなにわしのことが嫌いなのか。「どうか、わしも仲間に加えて欲しい」わしが、そう言ったあの時、友を得たと思ったが、それは思い違いだったのか。
「大丈夫ですか?お客様」
店の従業員に助け起こされたわしは、呆然と立ち上がった。
逃げ去る二人の背中を見つめながら、ただ呟いていた。
「信じぬ……金輪際、人間なぞ信じぬぞ……」
「走れメロス!」セリヌンティウスの声が聞こえる。
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