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聖女アリス、異世界で溺愛されてるけどツッコミが追いつかない。  作者: 高瀬さくら


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72.聖女は返事をするの


 彼はとろけるような笑みを見せた。これでワイルドな笑みならば単調な男性と思うけれど、なまめかしい色気もあるから困る。サラがごちゃごちゃ日記に書いていたのもわかる。


 というか、サラが書いていたのは彼に直接会ったから?


「とても美しい。それに控えめなのもいい」

「他の聖女より? こうやって面接しているの?」


 彼は微笑しているだけ。夢の中では恐ろしいだけだったのにキャラ変したの? というより、自分の行動次第で変わるのか。


 そして、あの変な聖女達よりマシと思われていると信じたい。


「質問に答えていないよ、アリス」

「魅力にあふれていると思います、見える姿かたちは。でもあなたの姿がそうとは限らない、何をしているかも知らないし。全くわからないあなたへの感想を持ちようがない」


 彼が手を差し伸べるからアリスも立ち上がる。ちゃんと食べておけばよかったかな。でも会話が気になって全然喉を通らない。音楽が流れだす、食卓が消えて広い空間が現れる。


 二人で手を取り中央へ進む。どうやらダンスイベントになったらしい。こうなれば踊るしかない。


 向かい合い手を取り合い、左右に揺れる。勝手に体が動いてくれるのだから楽なもの。


「この中で働いているのはモンスターが変身した姿?」

「私は、彼らの今の姿しか見ていないな」


 手を取られ、くるりと一回転。


「あなたを選んだら、日々世界征服?」

「まだ聖女と結ばれたことがないからわからないな」

「この外のあなたの世界は、魔物が跋扈しているの? そんな世界で生きて楽しい?」

「城以外は出ていないからわからないな」


 穏やかに、丁寧に、はぐらかされているような気がする。肉厚で立派な体格の男性にリードされてのダンスって素敵なのだけど。


 魔王と言われても怖くないし、不満はといえば、魔界に住むことかな。あの不気味なモンスターの世界にいても楽しいことがない。


「私に愛を囁かれ続けるのは不満かな。日々朝早くに出て満員電車に乗り働いて、帰ってくるのは深夜。疲れながら適当な食事を義務的に食べる。ストレス発散のためにケーキを買い、酒を飲み、高い服や旅行でお金を散財し、友人に会えば愚痴をはき、彼氏もいない。言い寄る男も、共働きを望むのに家事育児、自分の面倒を見て欲しいと主張し、最後にはホテルを誘い割り勘にしようとして、『今の女性は奢られるのが嫌いだよね』と言って自分のモテないことに気づかない男ばかり。その生活と比べれば、ここはモンスターがいるだけで、城で贅沢三昧、私に愛を注がれるのはどちらがいいか」


 ――日本の生活、改めて指摘されると酷いな。モンスターは城の外に出れば見ないですむのね。でも外を見てから決めたい。おどろおどろしい真っ赤な空に、干からびた大地じゃ嫌。


「希望があれば、常夏の楽園のリゾートのような外感にもできる」

「ハワイのリゾートホテルのようにも?」


 彼は微笑む。アリスも黙り込み、魔王の顔をじっと見つめた。


「海、プール、シャンパンつき?」

「もちろん。なんなら人間社会のハワイに繋げようか? もちろんプライスレスカード付で」

「リゾートホテルって、ペアが基本なんです。グラディウスがエスコートしてくれる?」


 高級ホテルは、キングダブルベッドしかない。どこに行くのも一人はない。


「君が望むなら、サウジアラビアやモナコの高級ホテルも、ジャングルの空中ホテルも、カナダのオーロラの氷のホテルも貸し切りで用意するよ」


 ……悪いことなんじゃね? レジーさんよりサラが惹かれたのがわかる。イケメン彼氏だしな。


「返事がイエスなら、私の寝室に誘ってもいいかな」


 わあお。


 手を取り、さり気なく誘われている。いつの間にか、音楽はスローで切ないもの。窓の外には大きな満月が覗いている。あ、誰かさんがまたバーサーカーになっている。というか、もう次の満月か、二十八日たったのね。


「一度、私の愛を受け止めてほしい。帰るのは自由だよ、アリス」


 切なさと、色気をたっぷり出してくるグラディウスをアリスはみつめて口を開く。


「私を抱きしめて。グラディウス」


 彼の返事はその行動。柔らかくグラディウスがアリスを体で包み込む。ああ、イケメンっていいな。大きな体も、抱きしめてくる力の強さも、背に回した手で筋肉の力強さも感じることができるのもいい。アリスの上のほうにずっと頭があるんだろうな。


 彼の胸が丁度耳に当たり、鼓動が聴こえてくる。まず心臓が胸にあることは人間と同じ構造だと確認する。そして心拍数が普通なことも確認。 


 ――彼はときめいていない。

 アリスは抱きしめてもらい、いつも相手の心拍数を確認する癖がある。相手が自分を抱きしめ緊張して心臓の鼓動が早くなっている、――なんてことはない。


 そんな現実に出会ったことはない。


 グラディウスの心臓の音が落ち着いているのも当たり前のこととして受け止める。 

 彼がアリスを離して、それから顔を近づけてくる。キスの瞬間、アリスは一歩足を引く。


「アリス?」


 逃げるように離れたアリスに、初めて不可解といった表情で余裕を崩したグラディウスにアリスは真面目な顔で見返した。


「一度、これだけ美形で立派な体格の男性に抱きしめられてみたかったの。ありがとう、グラディウス」


 そして続ける。


「私、帰ります」


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