66.聖女は聖女になるの?
家族や家臣だったんだよね! じゃあ、私がとりあえず変身して何とか……わかんないけど。またレオタードかよ、そう思いながら1を押す。
途端にまた音楽が流れだす。ちゃっちゃらちゃっちゃ、ちゃっちゃちゃらたった。
また裸になって、衣装が変化する、アリスはガッツポーズでワンピースっぽいのを纏っていく。
なんで、日本のアニメって男性が戦わないんだろ、今は闘う男主人公はガンダムくらい?
女の子が毎回変身して戦うのって不条理だ。衣装が切れて、いやんポーズが視聴率が取れる大人の事情か?
『ナース聖女、マジカルアリス、聖王に変わってお仕置きよ!』
と、鎧でもなくただの半袖ワンピースとキメ台詞で決め顔をしたアリスは、自身で「はあ!?」と叫んだ。
「これ、ただのナース服じゃん!」
突っ込みどころはたくさんある。
まあスニーカーはいいとしよう、現場ではスニーカー。ナースシューズでは危ないので靴になったのは数十年前。
しかし白ストッキングは遥か昔に衰退したぞ。そもそも売ってない(ストッキングは自前調達)というか、スカートもなし。
現在はパンツスタイルだ。汚物にまみれるのでジャージでもいいくらいの肉体労働。クリニックでスカートのナース服を着ているのは、看護師ではなく事務という実態もある。
というか、ですね。腰のベルトについているピンクのプラスティックのハート形おもちゃはなんですか? ああもう、何から何まで突っ込みたい。
「そもそも、ナースじゃなくて助産師だってば!! ミッドワイフっ、ミッドワイフ聖女って言いにくいし、最悪っ」
診察の時、ドクターが「看護師さん、看護師さーん」って呼ぶのを先輩が「助産師です!」と言い返していたのを思い出す。
看護師の資格もあるけど! 看護師の資格に二年ぐらいの実習と国家資格を取るのでいばらの道。しかし昨今は、無痛分娩で薬やモニター管理に回るので精一杯。
もう看護師でもいいじゃんという諦めがある。
ママさんもSNSで「お産の時、お世話になった看護師さんありがとう」と呟いているし。お産で介助ができるのは、資格のある助産師なんだな!
まあもうなんでもいいですけど! 今の問題は、私が変な変身をしたこと。
(聖王センスわるっ)
「アリス……」
と、叫びそうになったところで、横から炎に照らされて額に汗を浮かべるレジーに呟かれて、マジに逃げたくなる。こんな格好、しかもミニスカート!
こんな恥ずかしいナース服、ドンキで仮装用に買ったのかよ! 微妙に生地薄いし、胸元はハート形に空いて谷間が見えるし、プレイ用ですか。
「アリス……聖女の力が目覚めたんだね、凄く似合ってるよ」
「そんなこと、ありません!」
ていうか私、聖女に目覚めたの!? 恨めし気に問いかける。
「さきほど私を生贄にしようとしたのはどうしてですか?」
「……二区の教会で朝起きた時に、胸に携帯が入っていた。録音で、サラから君を生贄にしたら皆が助かると電話がかかってきた」
彼が掲げてきたのは、古い携帯電話。そういえば、彼は先に会計を済ませてくれていた。
「サラさん……からだったんですね」
少ししんみりして答えると、彼は首を振る。
「サラが本物かは不明だ。願いを叶えてくれるかも不確実だった。それでも俺は――」
「いいんです」
だって好きだったんですものね。いやでも、サラさんが本当に攫われたなら、魔王に人質にとられているということ。
「君には怖い思いをさせて悪かった、でもすべてが本気じゃなったんだ」
ほんとか!?
私の身体はまだ発光しているから、ブランブランたちが近づいて来られない。だからこんな状況で、暢気に事情を明かしてもらっているのだ。
「君を捧げるふりをして、クレイモアで切りこんで、最終魔法で、この城ごと爆発させるつもりだったんだ」
ほんとかな。私は、ブランブランと城と近距離にいたぞ。最終魔法、バル●? アレも城を破壊したしな。でもレジーさん、魔法使えるの?
「とりあえず、もうこのことは終わらそう、皆を解放する」
「待って」
何度このことを言ったか。
「私が倒すよ、これで」
目を見張るレジーの前で、右手に張り付いたかのような柄を持ちなおし、左手に皮の鞭の先端を掴む。
ドンキのナース服に皮の鞭、お仕置きプレイで私のSドは上がるはず。これでMドは下がるはずだ。
ぜんぶハズ、が多いし、若干レジーさんの目がひいてる気がする。
さようなら私の何度目かの恋になりかけの恋。あなたが私を羽交い絞めにした時に、淡い何かは消えました。




