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聖女アリス、異世界で溺愛されてるけどツッコミが追いつかない。  作者: 高瀬さくら


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58.聖女は教会を出ていくの

 背を向けてちょっと拗ねて体育座りをして気づく。机の上のちょっと小汚いラミネートされたチラシ。ルームサービスがあるらしい、ドレミピザのチラシもあるけどデリバリーおっけ?


「て、ルームサービスは二十一時までとさせて頂きます?」


 今何時?


「ここでは月がないから時間が読めない。人がいなくなり鐘の音がならないから、正確な時刻を知るのは難しい」


 月の高さで時間を読むのお?


「人がいない、ということはピザの宅配も無理だよね」

「アリスすまない。やはりそれも無理だ。サラも『うーばー』がないと生活していけないと気落ちしていた。彼女は常にうーばーの利用者だったらしい」


 俗物だよね。でも現代人だということはわかった。


「あ、そうだ十パーセントオフ券があったよ」

「ウーバーはどこにでも食べ物を運んでくれるの。というか、その券見せて!」


 券があるなら加盟店もあるよね。というわけで意気込んでみても、そう言えばスマホがなきゃ注文できない!


「――これ、どこで拾ったの?」

「モンスターが落としていった。レアアイテム欄にあった」

「ならば――いつか、使えるかもね」


 そう言ってアリスはレジーにその券を返す。いや、イヴァンに渡したほうがいい?


「なぜ、俺に? お前の持ち物だろう」

「レオタードに挟むほどのモノじゃないよ。あちこちで配られてるもん」


 怪訝そうな二人に言ってもわからないみたいだけど、ポストインされているのはレアアイテムとは思えない。


「それより――イヴァン」

「ああ、そうだ」

「そうだね」


 皆で頷く。――全く問題が解決していない。


「俺に提案があるんだが。皆、疲れている。もう今晩は、シャワーを浴びて布団に入って休息をとらないか?」


***


 ――起きたら、胸の谷間にスマホが挟まれていました。裏には欠けていないサクランボのシンボル。サクランボInc.のバッタモンか。この世界では本当にある会社かわからない。

 

 レジーに訊いてもわからないと。有名じゃないのかな?


「それより、胸の谷間に挟まれていたことを気にするべきだろう」

「そうだよ! どっちかじゃないの!?」


 実は、アリスを真ん中に左右を男どもを従えておねんねしました。でもそれまでは少しばかりの経緯があった。


 ダブルベッドは男女で丁度いいぐらい。でも、それはフツーの標準サイズの男性と女子。ムキムキの男性二人だといっぱいいっぱい。その間で寝るなんて、あつむさくて最悪です。いや、女子として幸せと思うべきなんだろうか。


「何もしないよ」と苦笑するレジーに、ただ黙ってアリスの返事を待つイヴァン。イヴァンのしかめ面の眉間の皺、これをこう二つの指で伸ばしたらどうなんだろう。少しは親近感がもてるのか。


 「俺は床のわずかな隙間に寝るから」というレジー。でもそしたらイヴァンとアリスが一緒のベッドにおねんねだ。アリス+男性一人というのは却下。じゃあアリスが一人床というのも……勘弁して。その案は出すな、という無言の圧を目に込めたからか誰からも出なかった。


 二人が浴室に寝ればいいという意思を込めてちらりとあちらを見たら、残りの二人もそっちを見たけれど誰も何も言わない。嫌なんだね。


 まずイヴァンをぜったい向くなと壁に向かせて、その次をアリス、端っこにレジーの予定が、アリスは横になったとたんに意識を消失した。見事におねんねした。


 そしたら、胸元にスマホっぽいものが入れられていたというわけだ。


 ――触られてないよね? それが重要だ。そして誰が入れたんだ、という疑問は解決しなかった。一応真ん中に寝ていたというけれど、その二人もわからないという。


 目がさめたら二人は起きていました。何が合ってどんな姿勢だったかはわからないけど、二人が紳士だと信じている。一応。


 戦士で常に気配に敏感な二人が、わからないというのは非常に不審だ。


 さらには洗面所にはディスポの歯ブラシ、シェイバー、櫛、コットンが揃えられ、簡易ポットの横には紙コップとスティックインスタント珈琲に粉緑茶。寝ている間に誰かが準備したのだろうか。


 ――不気味だ。だからアリスの胸元にスマホっぽいものを突っ込む者がいても変ではないが、変態ではある。


 理由は一、こういうのはチェックインの時に準備されているものである。二、胸元に突っ込むものではない。三、夜中に準備するものではない。五、チェックアウト日にまでアメニティをくれるところはない。六、三人宿泊にセットがペアという気の利かなさ。けれど部屋が二人用とすれば仕方ない。


 それをあげても、レジーさんはわからないというように首をかしげていた。ごめんね、もしかしたら王様はこんなところ宿泊しないよね。


 そう、チェックアウトを促されたのはベッドの向こうの壁に出現していた出口。『ご自由にお帰り下さい』と印刷された紙、そしてチャコールの皮カバーに挟まれた請求書。


 つまり、帰れってこと!? 請求された内容の文字は英語っぽくて一見何が取られているのかわからない。なんかtaxとかいろいろの数字で――とレジーが取り上げて、何かの紙を挟む。


「――小切手だよ」


 うわあ。小切手切る人なんて初めて見た。というか、請求額二十五万ペイに白紙の小切手でしたよね。アメリカだと、これにチップ二十パーセントを追加して記入するけど。この国にチップはいるのだろうか、って考えていた自分は小さい。


 『言い値をいくらでも書け』ってすごいわ。どっちみち私は一ペイでも払えないけどね。


「って、一人、一泊八万ちょい! 高級リゾートか!?」


 安普請ラブホのくせに。


「アリス、教会だからね。寄付は仕方ないよ」

「……すみません、俗物でした」


 でもこの教会もモロ俗物的だよ。


「どうした、そんな顔して」

「私、一ペイもない。何かあった時に……困るかも」


 イヴァンにすがるように言えば、上の方で沈黙が降りてくる。何? また、面倒な押し問答ですか?


 そんなやり取りも気にせずスマートに請求書を閉じ、テーブルに置いたレジーはドアを開け周囲を見渡す。


「少し、外を見てくる。ヴィオラがどうしたかも気になるしね」


 そういえばヴィオラ忘れていた、ごめんね。でも百十五歳だよね、強く生きていると信じている。一瞬、レジーが出て行ったらドアが消えるとか、そこにイヴァンと二人残されると身の危険を感じたけれど、それを伝える前にレジーさんは消えてしまった。ドアストッパーをはめて。その配慮もすばらしい。


 ちらりと見たドアの外は草原だ。ここは二区教会? やっぱり『でてけ?』。行為をやらなかったからかな? やってたら聖女と騎士が結ばれて……子ができる!? 妊娠して旅? 子連れ旅? ベビーカー装備? 


 その子供が実は聖王様とかストーリーにありそうだ……。


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