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聖女アリス、異世界で溺愛されてるけどツッコミが追いつかない。  作者: 高瀬さくら


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54/73

54.聖女は真実の場所にたどりつくの


「……一体、何が起きていたの? やられてたの、私?」

「それは自制した」


 イヴァンに対してレジーがため息をつく。


「イヴァン、勘違いされるようなことを言うな。アリス、すまない説明させてくれ」

「お前がそんなむらむらレオタード衣装を着ているからだ」

「もう怖い、この人。レジー、あっち行かせて」


 イヴァンがムッとして睨んでくるけれど、王様はアリスの前にまたロイヤルマントを被せてくれる。このマント、よく被せてもらうのだけどいつの間にかレジーの肩に戻ってるんだよね。

 自分が装備できないから、あくまでも一時的にかりている形になってしまうの?

 

 とにかく、美形二人は鎧を傍らに置いてアンダーシャツだけになってアリスをのぞき込んでいた。


 合コン後とか大学友人男子との家飲みで三角関係でいつの間にかそうなっちゃうなんて下手(べた)な展開だな。

 ドラマや漫画にしかないし本当に起きていたら、結構怖いぞ。

 物語にすればキュン、現実では犯罪レベル。


 と、家飲みではなくここはダンジョンです。気絶している間に何かが起こっていたのは嫌だ。それにイヴァン相手は更に怖い……と考えたところで気づく。


 このふかふかお布団なんだろう。先ほどまでは洞窟。そのあとは装置みたいなシャボン玉に閉じ込められて、今は深紅のお布団の上に三人で座っています。


 横の壁は大きな鏡。奥には、ガラス窓の浴槽。

 ビジネスホテルぐらいの狭さの部屋に大きなベッド。

 この安普請な作りに想像がつきますが、一応訊いてみます。


「なんで私達、ベッドの上にいるの?」

「――わからない。教会の中の冒険者の休息所なのかもしれない」


 真面目な顔をするレジーさんは汚れていないな、さすがロイヤルです。


「お前、わかって聞いているだろ」

「そういうあなたもわかってるでしょう?」


 イヴァンに指摘されてアリスも下から睨みあげる。


「なぜそうも知らないふりをする?」

「予想が当たっていたら嫌だから」

「ベッドに男女、真実はひとつ」


 なんかのキメ台詞は無視します。


「おねんねします。おやすみなさい」


 アリスは深紅の生地に鶴の刺繍がされた安っぽそうな掛布団を引っ張って潜り込もうとする、けれどイヴァンが反対側を引っ張るから動かない。そもそも男二人が載っているから全然布団が動かない。


「なぜ、現実を見ようとしない?」

「現実逃避も必要だけど、休息も必要。そろそろ寝る時間だし、そうだ、あっちにお風呂があるので私は入ってくるので眺めないでね」

「――アリス。ベッドは一つだが、俺達はどいているから君が一人で休めばいい」


 レジーの紳士な返事にイヴァンがため息をつく。つきたいのはこっちのほうだ。というか、説明しないでいいよ、レジー様を汚さないで。


「レジナルド。ここはアリスの世界ではラブホテルと言う場所で男女が子作りをするところだ」

「私の世界って言わないでください! 私の頭の中みたいじゃない」

「――実際にそうだ。聖女のお前の世界だろう」


 レジナルドの驚いている顔に、慌ててアリスは自分のキャラを訂正しようと口を開きかけるけど、もう毎日イヴァンに突っ込んでいるからどんどん侵されて人格設定がおかしくなりそう。


「イヴァン。君はアリスにいつも失礼なことを言いすぎる。その……ベッドがあれば行う男女もいるし、別にここでしなければいけないと、いうわけでもないだろう」


 レジーの取りなしにイヴァンがまた口を開こうとする。徹底的にイヴァンは説明したいのだろうか。


(あれ? なんでイヴァンはラブホを知ってるの?)


 この安普請な造りは、ラブホ決定だ。個々の内装はそれぞれ。ただ雰囲気が共通しているのだ。


「イヴァン。あなたラブホ知ってるの? 実際に行ったことがあるんじゃないの」

「……」

「あ、言わないで。人のプライバシーだからいい」

「訊いたことは最後まで責任を持て。答えは『ある』だ。だからお前も答えろ。他の男と行ったことがあるのか?」

「言わない」

「言わないのはなぜだ。経験がないコトが恥ずかしいのか、または――」

「いい加減にしろ、イヴァン。男の嫉妬は恥ずかしいぞ」


 さらっとレジーに窘められてイヴァンが黙る。唇を引き締めて、それから顔を逸らす。

 今まで怖い顔で迫ってきていたのに、何となくだけど拗ねているような。


「お前が……させるからだ」


 黒い短髪でりりしい顔が、悔し気。震えるような声に「え」と驚くけれど、なんで私が責められるの。そもそも自分だって行ったって。別に“行った”は全然いい。だって彼ぐらいの年なら経験アリでしょ。しかもイケメンだし、ただヤンデレだけど。


(聞きたいのは、なぜ彼がラブホをしっているか、なんだけど)


「アリス、本当にすまない。まずは状況を整理しよう。まず、イヴァンがしていた行動だが……」


 レジーが指で示したのは、壁に貼ってある揮毫(きごう)だった。アレです、壁に筆で書き額に入っているヤツ。質実剛健とか。


『聖女と一つになれ』


 随分長いな、というか偉い言葉より俗っぽい言葉だな。せめて四字熟語にしてくれ。

 内容は考えたくない。


「アレを見て、俺達はココでのクリア条件だと思ったのだが――」

「“クリア”とかやめて」

「そう書かれていれば、それをするしかないだろう。だがレジーが止めた」


 私の言葉は無視だ。


「それで、まず一つという意味をどう解釈するかイヴァンと話し合った」

「話し合う前に、本番前にとりあえずライトな解釈を試してみることにした」


 アリスは目を閉じて瞑目した。


「何をしている」

「マインドフルネス」


 マインドフルネスは、無心になる。そして今、ここにあることのみを受け入れる、余計な雑念をいれない。


 あれ? 今ここにあることを受け入れたら困る。

 受け入れないで無心になるのは瞑想だ。マインドフルネスと瞑想の違いがここ。

 

 どっちみち今、悩んでいるのは雑念になる。失敗だ。


「現実逃避をするな。本来のクリア達成条件はわかっているだろう、散々ラブホだとわかっているくせに」


 アリスはキッとイヴァンを見つめた。


「レジー様は抱きしめてくれたのですか?」

「……」


 だまるイヴァンは目元を赤くして睨みつけている。何その泣きそうな顔。


「とりあえず順番に両方試してもらいたいものですね」

「アリス、すまない」


 レジーの謝罪は、していないということ? それともしてしまったということ? 彼のすまなさそうな顔は、前者っぽい。


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