51.聖女は真実をあばいたの
『アリス、アリス』
ちがうよ、私は亜梨鈴だよ。
誰かに言い返していたら目が覚める、と大きな体躯が乗り上げていた。
「……わ」
ぽたりぽたりと雫が上から垂れてきている、上にのっているのはイヴァンだった。
またもや上半身は裸。両腕で閉じ込められている。
「……やっと二人きりになれたな」
「これ……十八禁ルート?」
「なん……そうだ」
一瞬わからないって顔したけど、理解しちゃった!?
「何でもない、嘘です」
「そうだ。だからもうあきらめろ」
「落ち着いて、落ち着いて。そう、私はこんなところでしたくない!」
だって洞窟! 鍾乳洞、寄せては返す波音。波際に彼が持ち上げてくれて、その傍には彼の鎧が投げ捨ててある。アリスは、慌てて自分の胸に手を置く。レオタードは着ているけれど、これヤバいよね。
「こういうのは、両者の同意があってするものです。そうじゃないと強姦、性的暴行、つまりレイプというものに……」
「俺はお前と二人きりになるのをずっと待っていた」
「何度もそんな機会あったじゃん!」
「パーティにはほかのメンバーも表示されていた。今は二人きり。ここで二人でくらしていこう」
「こんなところではぜっったい嫌!」
イケメンだけど、ヤンデレは嫌! ポタりと垂れる横髪からの雫、色気のある切れ長の目、まつ毛も長いし、黒髪も好みだし、裸体も素敵だけど、いちいち言うことがヤバすぎんだよ。
「ここに閉じ込めて、子供をいっぱい孕ませてやる」
「変態!」
ヤンデレにどS、乗り上げてくる顔から落ちてくる雫が頬に垂れてくる。顔をひっぱたいても、ゆらがない。
「アリス! 俺をお前の騎士にしてくれ」
「やだ!」
再度、ひっぱたくとその衝動に顔が揺れる。その隙にかいくぐり彼の荷物からカッパの銀の皿を掲げて、追いかけてくる彼の前に掲げる。
「それ以上来たら、これでひっぱたく」
「アリス」
それでも手を伸ばす彼の前にカッパの銀の皿を掲げると、不意にそれが光り出す。眩しくて目が開けられない。まるでライブでライトの光が直撃した感じ。
後ろから掲げるアリスでさえ眩しいのに、直撃されたイヴァンはたまらないだろう。
「うっ」
と言って、そのまま崩れ落ちる。その背中からにゅるりと蛇のような白いものがでてきて、鎌首をもたげる。
「え、えっ!?」
イヴァンは倒れたまま。アリスは銀の皿を投げ出して慌てる。後ろには大きな海なのか川なのか。目の前には倒れたイヴァンと蛇、そしてカランと投げ出された皿。恐らく蛇はモンスター。人の半身程はある。
もしかして、乗っ取られていたの!?
「イヴァン、イヴァン!?」
白蛇は、口もない、目もない。にょろにょろ左右に首のようなものを振っている。まるでデカいミミズのよう、もしくは寄生虫。
「助けて、いや逃げてゴメン。でもなんとかして」
倒れたままのイヴァンに叫ぶけど、動いてくれない。どうしよう。調子よすぎる? イヴァンの投げ出された鎧に駆け寄り、置いてあった剣を手にするけど重い。
「重いっ。持ち上げられないっ程ってどんくらい?」
よくこれで旅をしていたな。瓶と皿をもって。剣を掲げて蛇をぶった切ろうとしたけど無理。
ていうか、銀の皿で正体を現したということは、これが弱点だということだよね。ということは、これが武器? 両手で掲げてよく見ると文字が浮かんでいる、というか浮かんできた。
若干ご都合が良すぎるけれど、それは日本語。
『真実を映す銀皿』
「なるほど」
だから、イヴァンを乗っとった魔物が現れたのか。って。そんなことわかっても、何もできないじゃん!
「真実、真実、しんじつ……私が聖女だという真実がわかれば……」
重くてデカい皿を一度地面におろしてぐるりと一回転、そして支えたまま自分に向けて見る。そこには――美少女がいた。




